第7話 姉さんと街へ
父上のジェームズがテイラー侯爵領に行くと言う話をアリス姉さんから聞いた日の夕方、早速連れて行って欲しいと姉さんとお願いした。
「構わないぞ。そもそもオスカーについては初めから連れて行こうと思っていたからな」
「アリス姉さんではなく僕をですか?」
「ああ、本来テイラー侯爵側がこちらに来るのが礼儀ではあるのだが、お前に他領がどんなものか見せてやりたいと思ってな。こちらから出向く事にしたのだ」
あっさりと了承が取れると共に疑問も浮かんだが、聞けば分からなくも無い理由だった。まだ早いがこれでも次期公爵となるだろう俺に見聞を広げて欲しいのだろう。
「そうだったのですね。ただ他領の前に自領を見た事が無いのはどうかと思ってしまいますが……」
「確かに言われてみるとまだ街に出した事がなかったな。テイラー侯爵領に行く前に一度街に行かせよう。その時はアリスも一緒に行くといい」
「ありがとうございます父上、楽しみですねアリス姉さん」
「ええ、私も楽しみだわオスカー」
危うく自領の街に行った事もないのに他領を見学という訳のわからない事をする所だった。
そもそも自領であろうと三歳で出掛けるという事は普通あり得ない。いくら自領は安全だとしても何が起こるかわからないからだ。
しかし俺も姉さんも魔力量や魔法技術が既に大人顔負け、と言うよりも普通に街一つくらいなら余裕で半壊させる力を持っているので許可が出たのだろう。防御魔法さえ常に掛けておけば万が一も起こらないしな。
許可が出るのは異例中の異例ではあるが俺と姉さんの存在もまた異例中の異例と言えよう。同年代の貴族は当然として、既に未成年相手であれば侯爵家嫡男でも問題無く戦える強さがあるそうだ。
因みにこの世界は十二歳〜十五歳まで義務教育がある。基本的にその年齢の子供は学園へ通う事になり、卒業と同時に成人として認められる。
「他に何か聞きたい事はあるか?」
「いえ、私は特にありませんわ」
「はい、僕もありません」
「そうか、また何かあればいつでも聞きに来なさい」
「それでは失礼します」
お願いも成功して自領の見学まで出来る事になった。その嬉しさに喜びながらも出来るだけそれを表に出さぬようにしながらアリス姉さんと共に執務室を出るのであった。
「やりましたね姉さん! テイラー侯爵領に行けますよ! それに自領の街まで行けるなんて!」
「そうね、まさか本当に連れて行ってもらえるなんて思わなかったわ。街に行けるのもとても楽しみだわ!」
そうやって姉さんとあーでもないこーでもないと街に行った時に行きたい店ややりたい事を寝る前まで話し合うのだった。
そして一週間が経った。
今日は楽しみにしていたアリス姉さんと街へのお出掛けだ! 一応念の為に騎士が数名付いて来る。勿論ぽんこ、メイドのミリーも一緒だ。
「まずは取り敢えず適当に歩きましょう。私達が行きたいお店は固まっているからその範囲外を見学するわよ」
「分かりました姉さん」
そうなのだ、俺たちが行きたい店は極々狭い範囲で全てが揃っていて、見学して買い物をしたとしても直ぐに終わってしまう。それでは楽しみもすぐ終わるので他の場所を先に見て周り、お目当ての場所は最後のお楽しみと言う事にしたのだった。
「ほらお姉ちゃんと手を繋ぎましょう。迷子になると大変だもの」
「分かりました。アリス姉さんが迷子にならないように気をつけます」
「いえ、私はオスカーの心配をしているのだけれど、まあいいわ」
お互いがお互いを心配しながら手を繋ぐと兵士やミリーの視線が優しいものになったので少し恥ずかしい。
人の多さに驚き、人族では無い種族の存在に目を奪われたりしていると姉さんが動かなくなり一つのお店を見つめていた。
「姉さん? 急に止まってどうしたの?」
「オスカー、私あのお店に入りたいわ! きっと素敵な出会いがあるはずよ! さあ行くわよ!」
「わ、分かったからそんなに引っ張らないで。行くから!」
不思議に思い質問すると店に入りたいと言われ、少し驚いているとその瞬間には腕をとられ引っ張られていた。
先程までは確かに色んなお店をキラキラした目で見ていた姉さんだが中に入りたいと言い出すとは思わなかった。しかしアリス姉さんがここまで言うのであるのならばきっと何かがあるのだろうと此方まで期待してしまう。
先に騎士が店に入りその後を俺たちが続くと、店内には生活用品などがこれでもかと置いてあり外観ほど広く感じない。商品を見渡す限りではどうも雑貨屋という感じだ。
店内には客が二人いる程度で他にはカウンターに一人、店主と思われる老齢の男が座っている。
「沢山商品が並んでますね。確かにこれだけあれば姉さんの気にいるものも見つかると思います」
「違うわよオスカー、そうじゃ無いわ」
俺は素敵な出会いとは姉さんが気にいる物があるとばかり思っていたのだが違うと否定されてしまう。怪訝にしているとそのまま姉さんはカウンターへ真っ直ぐと向かった。
「ねえ、貴方がここのオーナーで間違いないかしら?」
「いらっしゃいお嬢さん、その通り私がこの店のオーナーです。何かお探し物でも?」
「ええそうなの、だけど私が欲しいものの正体が何なのかが分からなくて、良かったら協力してくださらない?」
カウンターの前までやって来ると姉さんはこの店のオーナーと話し出す。どうやら店の人間に聞いた方が早いと考えたのだろう。
普通女性はこういう買い物の仕方をしないものではなかろうか?色々な商品を見て楽しむものとばかり思い、それに付き合う覚悟までしていたのに肩透かしをくらった感じだ。
「構いませんよ。それでは大雑把でも構わないので色や形、大きさなど教えて頂けますか?」
「そうね、色は分からないのだけど形は卵型で大きさはこの子くらいかしら? きっとこの店の地下にあると思うの」
オーナーの人が大まかな見た目を聞くと、姉さんはそう答えた。店の地下にあると言った時一瞬店内に殺気が溢れ近くにいた騎士が僕と姉さんを守るように囲んだ。
「お嬢さんすまないね、この店ではそういったものは置いてないし地下と言われても地下室なんてのもないですよ。冷やかしでしたらお帰りください」
「そう、なら仕方ないわね。あなた達、店内にいる者を全員捕えなさい」
「なっ! このクソガキ! お前ら殺るぞ!」
オーナーの雰囲気が少し変わり表情も気持ち不機嫌になり姉さんの答えた物が無いと答える。
すると姉さんが騎士達に捕縛命令を出した。その言葉にオーナーは悪態をつきながら客と思っていた二人に指示を出す。
しかし相手が悪い。何故なら彼等は騎士だ。それもウィリアムズ公爵家の下で働いている精鋭。その辺の平民が勝てる相手ではない。
十秒もせず捕縛劇は終わった。
「それじゃあ地下室ごあんなーい!」
俺がまだよく理解していない横でアリス姉さんが楽しそうにそう告げる。するとカウンターの内側から何かが開く音がした。
「ここが出入口ね! さあ早速行くわよオスカー!」
「え? え! 姉さん今の何? 何がどうなってるの!」
俺が困惑と共に疑問を口にするがそんなのお構い無しにアリス姉さんは俺の腕を掴み地下へと降りて行く。
因みにこの時、ポンコツメイドは隅に隠れ膝を抱えて震えていた。
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