第5話 俺のポンコツメイド
専属メイドのミリーが熱中症で倒れた日から三ヶ月が経った。この三ヶ月は過酷だったと言えよう。ミリーが。
メイド長のオリビアにそれはもう扱かれていた。俺の専属メイドはいつ二人になったんだ? というくらい側でやるべき事を教わっていた。
倒れて俺に心配をかけた事が彼女の中の何かを変えたのだろう。弱音を吐かず頑張っていた。いや、たまに弱音吐いて怒られてたな。
そして先日やっとオリビアから合格を受け俺の専属大分残念メイドが今度こそ少し残念メイドになった。かなりの成長と言えよう。
成長したのはミリーだけではなく、俺も成長した。
魔力が身体から溢れない様になったのだ。どんなに興奮しようとも溢れない。完璧である。
しかしこれには秘密があり、自分で制御していると言うよりも一定の魔力を常に防御系の魔法へ自動変換する魔法を作った。そもそも無意識で自分を守る魔法を発動していたのだが、それとは別に自分を守る魔法である。主に状態異常耐性のバフだ。毒は勿論のこと魅了などの精神的な攻撃にも耐える事が出来る。
なので常にバフが付いている状態だ。
日に日に魔力量は増えていて魔力が身体から漏れない様に使用魔力量を増やすのでバフの強度がドンドン上がっている。大人になったら俺に傷付ける事は不可能なのではなかろうか? そう思ってしまうくらいだ。公爵家の血は凄いんだなと改めて思い知らされた。
正直ゲームの最後に主人公に殺されるとは思えない。確かに一対四と数的不利はあったが、それでも負けるか? と疑問が残る。
本当は取引だったり戦闘以外の要因があったのでは無いかと思ってしまう。この考えが正しかった場合、今の所俺にはどうしようもない。ゲーム内で表現されていない事は考察するしかないのだ。
攻略サイトや掲示板を何度か見た事はあるが戦闘以外での死亡要因など誰も考えていなかった。それもそのはずで、オスカーは敵としてとても強いというのが分かる程度の説明しかなかった。まさかこんなに魔力量が多く、主人公と戦う時にはこの世で誰も俺には勝てない強さを持っているだろうとは思わなかった。実際に現状で子爵を相手にしても倒せそうだ。
なので武力で最強になってももしかしたら殺される可能性が出て来てしまった訳だ。コレは非常に厄介な問題が出て来たものだ。
まあ先程も言った通り今の所俺にはどうしようもなく、出来る事は少ない。今は自分を鍛えてソフィア様の幸せを守れる自分になろうと思う。
ただ武力でしか守る方法を思い付けない自分が少し恥ずかしい。他の方法は未来の自分に任せよう!
「オスカー様、実は一つ聞きたい事があるのですがよろしいでしょうか?」
未来の自分に無責任な事を頼んでいるとミリーが話しかけてきた。
「内容によっては答えられないかもしれんが何だ?」
「何故他の使用人より私によくしてくれるのですか?」
「自分の専属メイドによくするのは普通だろ?」
「それはそうだと思うのですが、私が聞きたいのは専属スーパーメイドになる前からの話です」
「専属になる前からの? 特別扱いしてたつもりは無かったんだが、誰かに言われたのか?」
「はい、専属スーパーメイドになる様に旦那様に言われた時に奥様やメイド長に言われました」
「いや父上は絶対スーパーなんて言ってないだろ……」
まさかの質問に正直焦ってしまう。実際誰にも分からない範囲で特別扱いしていたつもりだった。それがレイラやオリビアにバレてるとは思わなかった。
「そうか、多分仕事が出来な過ぎて哀れんでいたのかもしれんな」
「思ってた理由と違い過ぎて泣きそうです。まあそのお陰で専属スーパーメイドになれたと思えば哀れまれるのも悪く無かったかもしれませんね!」
「良かったな、今も哀れんでいるから安心しろ」
「ええ!? そんなぁ……」
まあミリーは正直今後も特別扱いしてしまうだろう。それくらいオスカーにとって重要なキャラであったのだから。
ゲームが進むにつれて色んな人間がオスカーから離れていき、主人公側についていく中、最後までオスカーを支えていた数少ないキャラだった。この世界でソフィア様の次に大事にしたい人物である。
「前も言ったがスーパーメイドとか自分で言って恥ずかしくないか?」
「少しまだ恥ずかしいですが言霊と言うものがありますからね! きっとその内オスカー様もビックリするくらいのスーパーメイドになりますよ!」
そう彼女は少し照れながらも眩しいくらいに良い笑顔でそう宣言した。
「まだスーパーメイドじゃないとは認めてるんだな。最低限自分を客観的に見れているようで安心したよ」
「目指せメイド長のオリビアさん越えですからね! その時初めて自他共にスーパーメイドと呼ばれる様になっているでしょう! 期待していて下さいね!」
「オリビア越えとは大きく出たな。それじゃあその時を楽しみにしてるよ。一日でも早くスーパーメイドになってくれ」
「はい! お任せあれ!」と先程と同じく眩しいくらいの笑顔で答えるのだった。
実際ゲームではオリビアを越えているかどうかはよく分からないが、スーパーメイドと言ってもいいくらいには有能なキャラ設定だったはず。
まさか十歳のミリーがこんなに仕事の出来ないポンコツだとは思っても見なかった。良く考えればダメなメイドが成長してスーパーメイドになるまでを身近で見る事が出来るのだ。これはこれで一つ楽しみが出来たと考えよう。
「ではスーパーメイドになると見られなくなるだろうから今のうちにポンコツメイドのポンコツっぷりをよく見ておくか」
「ぽ、ポンコツ!? オスカー様は私の事をポンコツだと思ってたのですか!?」
「どう考えてもポンコツだろ。何だと思ってたんだ」
「少し出来るスーパーメイドです!」
ミリーが自信満々に断言したのを聞いて、やっぱりコイツは自分の事を客観的に見れてないなと認識を改めた。
「出来て当たり前の事をして自慢するポンコツメイドの間違いだろ」
「な! そんな事はないはずです! オリビアさんは凄いってよく褒めて下さいますよ!」
それはミリーがいくら叱っても無意味だと思われたから褒めて伸ばす方向にシフトされたからだろと喉から出かかってしまう。
「はいはい、出来て当たり前の事が出来て凄いですね。早くポンコツメイド脱脚してね」
「え、ホントに出来て当たり前の事ばかりだったのですか!?」と驚いた顔でミリーは言う。
この調子ではいつスーパーメイドになってくれるかわかんないなと思いながら、ゲームのミリーは実は同名の別キャラだったんじゃとつい考えてしまうのだった。
どうか同一人物であります様に。
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