第一章 儚い望み
第1話 DTMとフリーター
俺の名前は藤堂隆一。
職業はフリーター。
就職氷河期に就職に失敗して現在2010年を生きている。
職務内容は道路の交通誘導のガードマン。
夢はDTM、早い話がデスクトップミュージックで有名になってCDを出してたくさん売れる事。
そのために趣味でコンピュータで音楽を作り、
家に帰ると、着替えもそこそこのパソコンを立ち上げる。
俺の出した新曲の再生数は3、コメントは1つ、「音ががちゃがちゃしてますね」だった。
まったく駄目だった。
泣きたくなる。
それが藤堂隆一の現状なのだった。
音楽は小さな頃にピアノ、中学時代にギターを趣味でやっていた。
プロになれるとは思わなかったが道は遠かった。
それでも音楽を続けて、高校時代にコンピューターによる音楽製作法、DTM、ディスクトップミュージックに触れる事にある。これが人生で初めての衝撃だった。一人でいろいろな音が作れる。音が足りないと思ったらピアノからストリングスまで自由自在に加える事ができる。
奥手でバンド活動が苦手でかつ自身が音痴なために歌を歌わす事は出来なかったけど、作曲と作詞を手掛けるきっかけになった。
そして第2の衝撃がボーカロイドのAliceだった。
歌を歌ってくれる人がいないし、自分は音痴で声も良く無いから、作詞しても歌ってくれる人がいないと言う大きな悩みを吹き飛ばしてくれた。夢に一歩近づける気がした。
だけど現実は自身の作品が4曲目で、合計再生数は72。コメントは7個。マイリスは無し。ここまで無視されていると初心者だからと言い聞かせていた自分の心の壁を打ち破って、そんな陳腐な慰めも簡単に取り払って実力不足を感じさせてくれる。
ここまで現実を押し付けて、無視する事も無いんじゃないかと思う。
曲が悪いのか、詩が悪いのか、Aliceを使いこなせていない?あるいはその全てか?(これが一番救いが無い)。Aliceと言うのはフリーの音声合成ソフト、いわゆるボーカロイドで性能がとても良いと言うので使っている。Aliceは英語表記だけど別に英語には対応していないらしい。
この大不況の時代に2万円を出して、初音ミクを買う余裕は自分には無かった。
ニコニコ動画の表示を消すと、メールのチェックをする。
新規メールが1件入っている。
アリスさんからだった。
俺がAliceを使い始めてから、メル友になった人で曲の感想を聞かせてくれたりする人だ。いつも良い評価をくれるからメールが来るのが待ち遠しい。それとすごいのは
ボーカロイドのAliceがネット上で作られたキャラクター性を完全にコピーしてAliceに成りきってメールをくれる。尋常な努力じゃないと思う。
メールの内容は
今回も良い曲と良い作詞でしたね。再生数がとても少ないのは残念です。タグをつけて宣伝していおきました。
ありがたい。タグと言うのは動画の内容を一言で表したり、分類訳をして見分けたりしてくれる機能だ。Aliceとアリスさんはややこしいけど、忠実にAliceを演じている人だから仕方がない。俺もアリスさんにお礼のメールを歌い無いといけない。
ありがとうございます。
昨日
もう少し柔らかい音楽の方が良かったですか?
メールを打ち終わるとシャワーを浴びて晩飯を食おうと思う。
幸いと言うべきか不幸と言うべきかこの大不況の時代に実家暮らしさせてもらえるのはありがたい。過保護の母親と口うるさい弟、貫禄のある父親が存在しているのを意味するのだけど食事と寝る場所があるのはありがたかった。家族からはそんなにDTMとALICEが良いのかと馬鹿にされるけど。そしてそれが良いものだと言い返せない俺だけど。さぁご飯を食べて、作業開始だ。
続く
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