5日目

 


「......先月は、すみませんでした」


「......」



 白い布団の塊に向かって、話しかける。上下はしているから微動だにしていないわけではないが、こちらの謝罪に何らかの反応を示す気配は今のところはなさそうだ。



「1ヶ月会わないだけで、これですか」


「......」



 そうだ。上下はしている。反応を示す気配がないだけで、決して息をしていないわけではなくて。


 手紙送ったのに......とは思うが、いかんせんこの場でそれを言えば、多分ますます拗ねられる。それだけはごめんだ。



「......せめて顔だけでも見せてください」


「え、ちょ待っ......」



 半ば強引に布団をひっぺがして彼女の姿を見た瞬間、時が止まったような気がした。



「......本当に、1ヶ月でこれですか」



 ......よくこれで生きているなと不思議になるほど痩せこけた頬に、土色の肌。不健康を通り越して生者のものではないその色と見た目。胸の中で、申し訳なさがどんどん降り積もっていくのが分かった。



「......先月、君が来られないってわかってから、ご飯を食べる気がなくなったんだ」



 血色のない紫の唇は、そう言葉を紡ぐ。



「申し訳ありません。先月は、諸事情が......」


「......わかってるさ。用事があったことも、君が気遣ってくれてたことも」



 いつもの覇気など感じられない顔を、影が覆い尽くしていく。こちらからは感情が読めなくなってしまうほどに影が落ちた後、



「......わかってるよ、血縁関係を切った従兄弟いとことなんて、そう簡単には会えるもんじゃないってね」



 そう、切なげに呟いた。


 ......5か月前、彼女がここに来ると決定した時から、自分と彼女は赤の他人だ。


 お金がかさむからだの書類のサインがどーのこーのと、まともそうな理由をいくつも並べ立てて、最後には"もうあなたは他人です"と一言告げて振り返りもせずにここから去っていった。


 あの時も、ただ爽やかな笑顔を浮かべてあの人達の背を見送っていた。もちろん自分のことも、同じような笑顔で見送ってくれた。



「......ねえ、来月は来てくれる?」


「来ますよ、絶対に」



 緑がまじり始めた桜を眺めながら、2人でしばし静寂を聴いていた。


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