【短編・完結済】猶予、幾許もないうちに

水都まる

1日目



「今日は、悪魔の召喚術式をやろうと思う」


「いきなりどうしたんですか」



 突拍子もなく変なことを言い出した、目の前の彼女の言い分は、「おもしろそうだから」。


 その変な言い分から来る出来事のせいで、恐らく僕も今日一日を無駄に過ごすのだろう。



「まあ、君がつまらなそうって思うのも仕方ないと思うんだ!!だけど、私はやりたいの!!付き合ってくれるよね!!ね!!」


「まあ、付き合いますけど......」



 鬱陶しいほどの興味と熱量、そして共にやって欲しいという心意気だ。面倒くさい、とも思うが、一応付き合ってやる他ない。



「よーっしやるぞー!!」


「無駄にハイテンションなんですね分かります」


「冷たっ!!まあ、いいよ!魔法陣書いてロウソク火付けて、ササッと終わらせちまいましょうや!!」


「そうですね」



 そう言って、不健康な色白の手と共に部屋中央のコタツを退けてやると、



「ありがとう!!」



 と大袈裟に声を張って感謝を述べる彼女。全く、耳にキーンと響いて煩くて仕方がない。でも、その大袈裟すぎる所にまた愛嬌がある。



「じゃー早速!!それっ!!」


「雑」



 バシャッ、という音と共に床に撒かれるペンキ。雑すぎる。それを僕は素直に声に出して伝えた。



「いーのいーの!!」



 もう少し丁寧にやろうという気概はないのか。言い出しっぺは君なのに。と思う気持ちをぐっと堪えて、僕はロウソクの配置に取り掛かった。


 そこから小一時間ほどかけて魔法陣とやらを書き上げたのだが、結局、召喚はできなかった。でも、満足気に笑っている彼女を見ると、自然と頬が綻ぶのがわかった。



「にしても、どうしておめでたなお正月から悪魔召喚を?」


「決まってるじゃんっ!黒魔法とやらで寿命を伸ばしてくれないかなって思って!!」


「下らない」


「酷いっ!!」



 オーバーリアクションもまた愛嬌。目に涙をじわあと浮かべた彼女は、また次の"唐突"を考えているのか、体育座りの腕の中に顔をうずめて、時折ふふふ......と薄ら寒い笑い声を上げながら考え込んでしまった。


 ......突拍子がなくとも、唐突でもいくらくだらなくとも、また付き合ってやろう。


 だって、次、また"下らない事"ができるか分からないのだから。


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