真実の呪い:嘘がつけなくなった日、静かに暮らしたいだけのモブ

旅晴

第1話

春の日差しが町を明るく照らし出し、空気は新しい一日の始まりを告げる清々しさに満ちていた。学校の教室には高校生たちで賑わい、その中にクラスの人気者、江崎美玲がいた。


美玲は誰にでも優しく平等に接し、出会う全ての生徒たちに明るく挨拶を投げかけていた。彼女は容姿端麗、スタイル抜群、品性も兼ね備えた理想の女性だ。当然ながら、クラスのアイドル的な存在で、時折芸能スカウトから目をつけられるほどである。


彼女の魅力から数え切れないほどの男子生徒に告白されていたが、それら全てに対して丁寧に断りを入れていた。美玲に憧れる男達はどんな男なら美玲は告白を受け入れるのだろうと噂した。


そんな彼女からの挨拶には皆が笑顔で応え、挨拶された男子生徒たちは誰もが照れくさそうに、またはデレデレとした態度で挨拶を返していた。そんな和やかな雰囲気を壊すかのように、唯一美玲に冷めた目で酷い事を言ったのが石黒晴彦だった。


「いちいち挨拶しなくてもいいよ。」


晴彦はいわゆるモブキャラで友達はおらずボッチであり、周囲とは一線を画していた。彼の言葉に美玲は一瞬、悲しげな表情を見せたが、すぐに元の笑顔に戻り、他の生徒に挨拶を続けた。


晴彦と美玲は幼なじみで幼稚園の頃からの縁であった。しかし、中学時代以降、晴彦は美玲を避けるようになり、美玲が声をかけても迷惑そうな態度を示すだけだった。


クラスメイトからは「石黒晴彦は江崎美玲が声をかけられる価値がない人」と言われていた。美玲は春彦に声をかけるのをやめるように友人達から助言されても、昔の関係を取り戻したいという願いを捨てられずにいた。


次の日の朝も、美玲は晴彦に向かって笑顔で挨拶をした。いつもの冷たい晴彦の返事に彼女の笑顔がほんの一瞬だけ曇ったが周囲に悟られない様に彼女は明るい笑顔を取り戻し、他の生徒たちに向かって元気よく挨拶を続けた。彼女の取り戻したその笑顔が、偽物の笑顔である事を晴彦は理解していた。しかし、晴彦にはどうする事も出来ず一人苦しむのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る