第4話
俺は正直に言おう。
毎食料理を作ったり食器を洗ったりするのは俺の仕事だったが、結構他の仕事は茜ちゃんに任せっきりだったことを。
もちろん俺が一人暮らしの頃にはちゃんと一人でやっていた、しかし茜ちゃんは申し訳ないからと積極的に家事を申し出てきたのだ。俺は最初は断って自分でやろうとしていたのだが....
「私がここにいる理由をくださいよ...ね?斎藤さん」
なんてあんな顔で言われて断れる人間がこの世に何人といようか。
しかし俺はその選択を今、相当に後悔している。
食事以外のことを茜ちゃんに任せるということは掃除や洗濯も茜ちゃんの領分になってしまうのだ。つまり今、それによって多大なる弊害が起こっている。
「斎藤さん、なんで隠そうとするんですか?前は普通に開けてもよかったじゃないですか」
「いや、ちょっと個人的なあれが入っていてね。女の子に見せられるようなものじゃないんだよ」
「へぇ、そんなものを買ったんですか?家に私がいるのにも関わらず?」
「いや、貰い物だよ。大学時代の友達が押し付けてきてな」
「ふーん」
非常にヤバイ。
今俺の後ろには布団にくるまれた卵が押し入れの中で羽化の時を待っているのだ、こんなことで邪魔されるわけにはいけない。
こんな得体のしれない物体Xをどうやったって認めるわけがない。
普通の感覚だったらこんなものが家にあったら気持ちが悪すぎて排除しようとするだろう。普通に害虫よりも質が悪いし。
「何を隠していようが別に何とも思いませんから、扇風機をもう一台出したいだけなんですよ」
「わかったちゃんと出すから一回部屋から出てくれない?入っていいよって言った手前悪いんだけどね」
「いやいや気にならないですから、大丈夫ですから開けてくださいよ」
「気になってないんだったら出て行ってくれてもよくない!?何その怖い目!」
こんな不毛な争いをすこしの間続けていたのだが、結局逆らえない俺は押し入れを開けることにした。
「ん?何ですかこれは」
「いや、前にうちの畑に落ちててね?なんか面白そうじゃない?卵っぽいからさ」
「いや、こんな変なタマゴがあるわけないですよ」
「いやま、そうなんだけどね。もし孵ったら楽しそうじゃない?」
「また子供っぽいことして、....まぁいいですよ。気持ち悪いですけどどうせよくできた置物かなんでしょう?本当に孵るわけないじゃないですし、気持ち悪いですけど」
捨てて来いと言われるのも嫌だったがこういわれるのも心に来るものがあるな。
まぁ、普通の人からすると昔どっかの国で流行ったペット石を愛でる人を見てる気分なのかもしれない。
俺が自分の同居人が石ペットにはまってるなんて知ったら精神状態を疑うだろうがその様子もないだけマシなのだろう。
....いや、普通にペット石よりもタチが悪いだろ。
「ん?あれ、もしかしてあきれてるだけ?」
「....自覚なかったんですか?」
「いや...申し訳ない」
本当に申し訳ないと自分でも今回は思いました。
うん、誠にごめんなさい。
茜ちゃんが扇風機を取り出して部屋から出て行ったあと、俺はジッとタマゴを凝視していた。
茜ちゃんに話しているときにすごく気になっていたのだが、卵の色が緑色になっているのだ。
「なんか色変わってる?」
毎日観察用に撮っておいた写真と比べてみても明らかに今日の卵は中の液が緑色に見える。
「...これ腐ってないか?」
焦った俺はすぐさまパソコンに飛びついて腐ったタマゴについて調べた、すると腐ったタマゴは黒になるらしく緑になるわけではないことが分かった。
しかし、緑って腐っているとしか思えない色だろう。茜ちゃんの前では我慢していたがもう我慢しきれないほどに混乱している。
前までは殻の向こうの蠢く白いナニカは見えていたのだが、今は緑に濁ったせいであまり見ることができない。逆に、中身の蠢くナニカが見えていたら茜ちゃんからお許しをもらえることはなかっただろう。今は見た目で言えば卵型水まんじゅうミドリ餡バージョンのような感じである。
「どうなってんだこれは?」
それはそれとして腐ったのではないかという不安と少しのわくわくが隠せない俺であった。
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