第06匙 昭和二十八年、七十年の歴史を持つ店のカレー・メニュー:キッチンカロリー駿河台下本店(B04)

 例えば、靖国神社や武道館の方を背にして、〈靖国通り〉の左側の歩道を取ってから、神田駅・秋葉原方面に向かって進んでいったとする。

 それから、地下鉄「神保町駅」の幾つかの出入り口を通り越し、そしてさらに、「マクドナルド」の前を通り過ぎれば、靖国通りから明治大学の方に向かって斜めに走っている二本の坂道に出くわす事になるであろう。

 武道館側の〈富士見坂〉は、靖国通りから右斜め上に向かって、〈/〉こんな風に、一方、秋葉原側の通りたる〈明大通り〉は、靖国通りから左斜め上に向かって、〈\〉このような形になっている。

 つまり、靖国通りを底辺にして、二つの道が左辺と右辺として、明治大学の付近で交わって、三角形、〈デルタ(Δ)〉の形になっており、〈神田小川町三丁目〉に位置しているこの三角形の区画は、こう言ってよければ、〈神保町デルタゾーン〉を形成しているのだ。

 そして、この右辺の〈富士見坂〉の両側、および、左辺の〈明大通り〉の左側には、様々な飲食店が立ち並んでおり、つまるところ、〈神保町デルタゾーン〉とは飲食街なのである。


 八月三日の金曜日の正午前、開店直後である十一時過ぎに書き手が入店した「キッチンカロリー駿河台下本店」は、この〈神保町デルタゾーン〉の右辺の坂道、〈明大通り〉の麓付近に位置している。


 さて、この洋食店、「キッチンカロリー駿河台下本店」の創業は、なんと、太平洋戦争の終戦から十年も経っていない、昭和二十八年、一九五三年の事だという。

 つまり、「キッチンカロリー駿河台下本店」は、今年二〇二三年に創業七十年を迎えている、神保町界隈における老舗中の老舗の洋食店で、その証と言ってよいのかもしれないが、数多ある飲食店の中から、『千代田区観光協会』において、地区の代表的グルメ・スポットの一つとしてピックアップされてさえいる。


 思うに、近くに沢山の会社があって、社会人が昼休みに頻繁に利用する事は、飲食店が長期に渡って経営を持続する上で重要な要因の一つであるかもしれない。

 また、午後になって、社会人の利用客が減った時に、講義の合間に来店する〈学生〉客がいれば、さらに、店は繁盛し得るのではなかろうか。

 そして、この〈神保町デルタゾーン〉は、明治大学に隣接し、さらに、この界隈には、明大以外にも、幾つもの大学や予備校が位置しており、「キッチンカロリー駿河台下本店」が、学生にも手頃な値段で、洋食を提供してきた事こそが、店が七十年も続いてきた理由なのではなかろうか。


 この「キッチンカロリー駿河台本店」を象徴するメニューこそが、料理名を店名から取っている「カロリー焼き」である。

 これは、「熱々の鉄板に、イタリア産のパスタをのせて、その上に」、「青森産ニンニク、会津若松の林合名のお醤油、勝沼のルバイヤートの白ワインで、味を付け」た「牛肉バラ肉とオーガニックの玉ねぎ」を盛ったおかずで、これにさらに、ライスが付くという、ボリューミーで高カロリーな、腹ペコ学生に廉価で満足感を与えるメニューなのだ。


 今回は「スタンプラリー23」目的での訪店だったので、書き手は、カレー料理ではない「カロリー焼き」ではなく、カレー・メニューを注文する事にした。カレーは、「米沢豚のロースカツカレー」と「チキンカツ&ハンバーグカレー」の二つがメニュー表に載っていたので、考えた末に書き手は、「米沢豚のロースカツカレー」の方を注文したのであった。

 このメニューは、既にライスの上にカレーが掛けられた一皿物ではなく、お皿に盛られたライスとカツ、銀色のポットに入ったカレーと、このように容器が別々のカレーライスになっている。

 このタイプのカレーならば、ロースカツ以外の揚げ物、例えば、エビフライのトッピング・カレーライスも提供可能なようにも思えるのだが、現状、「チキンカツ&ハンバーグ」と「米沢豚のロースカツ」のみが、メニュー表にある「キッチンカロリー駿河台下本店」のカレー・メニューなのだ。


 書き手は、「カロリー焼き」にカレーを掛けた「カレー・カロリー焼き」といった品があったら嬉しいのに、とついつい手前勝手に考えてしまったのだが、もしかしたら、「米沢豚のロースカツカレー」と「チキンカツ&ハンバーグカレー」が、メニュー表記載のレギュラー品になっているのは、これらが、「キッチンカロリー駿河台下本店」が、七十年という歴史の中で見出した、トッピングとカレーの絶妙なる組み合わせだからなのかもしれない。


          *


〈追記:八月十二日〉

 後日、書き手が〈SNS〉で、「カロリー焼き」にカレーを掛けたメニューがあったらよいのに、と呟いたところ、それを目にした方から、カロリー焼きに、カレートッピングっていうのが出来たのでは? といったリアクションをいただいた。

 どうやら、メニュー表それ自体の「トッピング」の欄には記載されてはおらず、いわば、〈裏メニュー〉のような品であるらしいのだが(二〇二一年時点)、カロリー焼きに、単品で注文したカレーをかける、といった裏技もあり得たようだ。


 また、〈二〇一六年十一月十六日付け〉の「めいきゃす【明サポ学生アンバサダー】」のツイートによると、二〇一六年十一月十七日、および十八日の二日間、「明治大学黒川農場の野菜を使用したオリジナルメニュー」である、カレー+カロリー焼きの「カレリー焼き」という期間限定メニューが、「キッチンカロリー駿河台下本店」で提供されたそうだ。


 カロリー焼きにカレーを、という書き手と似たような発想や願望を抱く人は、七十年の間に当然おり、さらに、それを、限定とはいえ、店のメニューとして実現させてしまうバイタリティの持ち主が、いやはや、実在していたのである。


〈訪問データ〉

 キッチンカロリー駿河台下本店:神保町デルタゾーン

 B03

 八月三日・金・十一時十五分

 米沢豚のロースカツカレー:一一〇〇円(現金)

 『北斗の拳』カード:No.13「フドウ」


〈参考資料〉 

 「キッチンカロリー駿河台下本店」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2023』、五十七ページ。

〈WEB〉

 「キッチンカロリー」、『千代田区観光協会』、二〇二三年八月十一日閲覧。

 めいきゃす【明サポ学生アンバサダー】による二〇一六年十一月十六日のツイート、『✕(旧ツイッター)』、二〇二三年八月十二日閲覧。

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