第40話

ミカエルは、コンサートが終わってから数日後、声が治らないまま、コンスタンツェに手紙で告白をしたが、恋自体にあまり関心がないコンスタンツェからの回答は、まずは友人から始めたい、という回答で、2人は週に一回程度2人だけで遊ぶようになったものの、進展は見られなかった。


ミカエルは明の忠告や、コンスタンツェときちんと声で会話したいと言う気持ちから、精神科にも通い失声症は治療していたが、もう声が出なくなり2ヶ月が経過していた。


「へえ、そんなふうに弾くのね。ピアノは一応弾けるけど、楽譜の下の数字とかよくわからないわ。綾華はすごいねえ。」


コンスタンツェが、明とミカエルと綾華がバロック曲を合わせるのに同席し、綾華のチェンバロ演奏に感心して声かける。


「覚えれば大丈夫よ。これはね、、簡単に言うとベースとなる音のルールが書いてあり、バロック時代だとそれをもとにアレンジするのね。、、例えばね、」


「、、あらら、、ごめん、ヴァイオリン慣れてないからまた弓の毛が取れちゃった。。ヴィオラのつもりで弾いちゃうからな、ハハ、、。ちょっとヴァイオリン科の友達に弓借りてくるわ。」


明は綾華たちが話すのをミカエルと、練習の休み時間に見ていたが、弓から毛が外れるのを見て、苦笑いして立ち上がる。


「もう。ヴァイオリンのほうが小さいのに弓圧かけすぎなんじゃないの?何回もリハしてるんだし慣れてよね。そのうちバロックヴァイオリンバロックヴィオラも弾いてもらいたいのに、モダンヴァイオリンの弓が扱えないんじゃ話にならないわよ。」


綾華は交際して半年経過した明に容赦なく叱咤する。


「なんか最近言い方に容赦ないなあ。わかったよ。、、まあヴィオラ弾く時以外とパワー系だねって先生から言われるくらいだから、、丁寧にやりまーす。」


明はやれやれと肩をすくめて返してから、部屋を出た。


「うーん。一応楽譜読めるけどちんぷんかんぷんだわ、、。難しいね。しかも自分でアレンジなんて、、。ねえねえ!フルートはどうやって吹いてるの?その穴に息入れるの??」


コンスタンツェは一通り綾華から簡単に通奏低音譜の読み方を習い、頭は良いので理解はなんとかしたようだが、眉間に皺を寄せ理解するだけで精一杯だと綾華から離れ、今度はミカエルに近づきミカエルのフルートを見つめる。


「吹いてみますか?」

ミカエルは立ち上がり、ケータイに打ってから、フルートをスタンツに渡す。スタンツは恐縮した様子で、ミカエルの総銀製で頭部管とキーは金製の高価なフルートを見て後退りした。


「えっ!!そんな、、やってはみたいけどミケの使ってるフルートじゃ申し訳ない!!とても高いよね?それに、、そんな良いフルートあたしじゃ音だせないし、、触るのもこわい!」


「良いじゃない。ミカエルが良いって言ってるし。」

綾華は、間接キスになると考えニヤニヤしながらミカエルに言ったが、ミカエルは下心ではないらしく、それを察さずに、スタンツに頷き、片手でケータイに打つ。


「私が横で見てますし危なそうならやめさせますから大丈夫。確かに金銀製で少し息のパワーは要りますが、音をとりあえず出すだけならなんとかなるんじゃないかな。」


「うーん、、。そこまで言ってくれるなら。」


コンスタンツェはミカエルのフルートを恐々持ちながら、ミカエルに姿勢や構えを修正されつつフルートを持つ。


綾華は、ミカエルが冷静に的確にスタンツの姿勢や吹き方を、たまに身体にジェスチャーで許可を取りつつ触れながら直すのを見て感心する。


(ミカエルって、、偉いわね。コンスタンツェを本当は女性として凄く好きなのに、身体に触れても動揺一つ見せず、、冷静で、、振られたけど彼女の気持ちは受け止めてきちんと友達として仲を深めて。これで無口じゃなく愛想が良かったらモテモテね。、、私はあそこまでイケメンを恋愛対象にするのは、緊張しちゃうから遠慮するけど。明くらいが安心できるわ。)


コンスタンツェがだんだん微かに音が出始め、ミカエルは余計に熱心になり、ジェスチャーで息の使い方を修正したり、腹部から息を出すように指示する。



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