第23話
シャウラたちと入れ替わりでヴェーレ領に向かった騎士の報告によると、伯爵と伯爵夫人は処刑、テオノーラのきょうだいたちは身分の剥奪で決着したらしい。屋敷の金品や伯爵家の持ち物はすべて王家に押収され、ヴェーレ領の復興に役立てられる。ただ、きょうだいたちの中には兵士を志願してやり直そうとしている気骨のある者もいると聞いた。さすがテオノーラのきょうだいだ、それはぜひとも手合わせ願いたいとアレスが言ったところ、エドに真顔で止められたので、多分それは良くないことなのだろう——煽っているつもりはないのだが。
帰路を含めて、結局、シャウラとアレスは城をまるまる一週間開けたことになった。シャウラは城に帰ってすぐに大量の机仕事に追われ、執務室に缶詰になった。
「お疲れ様にございます、殿下。なにか我々に出来ることはありますかな」
気を利かせた使用人が午後のお茶を出すついでにそう聞いたところ、シャウラは少し考えてからこう言ったという。
「俺の部屋の横に良さげな木登りが出来る木を生やしてくれ」
いやに据わった目で言い放たれた要望はもちろん、家臣一同そっと聞かなかったことにした。
今回の大立ち回りの影の協力者であるカストルは、シャウラから渡された一応の報酬金をすべて城下でのお菓子の購入にあてて、それからけろりと天界に帰っていった。購入したお菓子のほとんどは本人の胃袋に消えたのだが、彼は去り際、小さなチョコレートの箱を一つ持っていた。
「これは
そう言ってこっそり笑ったカストルを、結局アレスは見逃してやることにした。まぁ、カストルに現在天界での急ぎの仕事はないようだし、必要があれば
閑話休題。城にやってきたテオノーラと四人の子供たちも、それぞれせわしなくすごしている。
テオノーラの計算能力は、立て直し中のヴェーレ領の資産の概算や予算調整に早速力を発揮しているようだ。侍従としてという名目で連れてきた四人の子供たちは、一人は厨房を好んで入りびたり、一人は庭師の仕事を手伝い始めたというから、実質的にテオノーラの侍従は残った二人になった。それでもテオノーラは全員をよく気にかけており、それにつられてかシャウラも食べる量が増えて、仕事の合間には庭に散歩に出るようになったので、これはたいへんよろしいと、城の人間たちも案外これを歓迎した。
さて、シャウラがデスクワークに追われているということはすなわち、アレスは暇だ、ということだ。
城に戻ってしばらく、アレスは散歩をしたり、昼寝をしたり、相変わらず名前のまったく覚えられない貴族の似顔絵を眺めたり、最初の時ほどは自分を見ても騒がなくなった騎士団の訓練に混ざったりと、なかなか自堕落に、いや、有意義に過ごしていた。今日は散歩の日だ。
アレスは窓枠に足をかける。そのまま真上に飛ぶと、城の屋根の上に降りた。
抜けるような晴天だ。日差しがまぶしく照り付けている。聞けば、これからまだまだ暑くなるという。
(これからの季節、鎧などあまり滅多に着たいものでもないな)
ぼんやりそう思うが、きっとシャウラはそれを許さないだろう。あるいは、新しく夏用の服装を仕立てようとするかだ。全くそれはそれでどうかと思う。
眼下には城下町と、巨大な神殿。神殿の夜空を意識したのであろう紫色の塗装と大きな天窓はいやでも威圧感があった。青空の下あらためて見ると、まるで巨大な眼球が城を睨んでいるようだという感想を抱く。
神殿から目を外すと、アレスは耳元のクリップを二度叩いた。通信の合図だ。
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