異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~
和田真尚
第一章 国盗り始め
合戦12日前
第1話 「くっ! 放せっ!」敗残の女騎士は叫んだ
「くっ……! 放せっ! 放さないかっ! この痴れ者めっ!」
地面に組み伏せた娘が俺に向かって叫ぶ。
一体何者であろうか?
正体を測りかねている間も娘の悪口は止まない。
だがしばらくすると、息苦しさに耐えかねたのか
「好き勝手なことを言ってくれたな。棒切れ一本持たぬ相手に、問答無用で斬り掛かって来たお主に言われたくはないぞ」
少し離れた場所に視線を向けると、娘が振るっていた細身の剣が落ちていた。
刀や
さて、簡単に状況を説明してみよう。
見ず知らずの森で目を覚まし、行く当てもなく
色気も味気もない出会い方だ。
「俺はなるべく穏便に声を掛けたつもりだったんだがな。お主、何が気に食わなかったのだ?」
尋ねつつ、少しだけ力を緩めてやると娘は再び勢い良く口を開いた。
「そうやって人間を惑わせているのだろう!? 私は魔物の口車に乗る愚か者ではない! いい加減に正体を現せ!」
「俺が魔物? 馬鹿を言え。人間以外の何に見えると言うのだ?」
「嘘をつくな! 貴様の瞳と髪の色……いずれもこの国の民のものではない! その服もだっ!」
「黒目と黒髪がか? この
「ヒノモトだと?」
「そうだ。ここは京の都より東、
「――――黙れっ! 大人しく聞いていれば調子に乗りおって! ヒノモトだと? ミノだと? ここはそんな名前の土地ではないっ! あまつさえ領主だなどと……貴様っ! 当家を
娘が怒りをあらわにした。
馬乗りしている俺を押しのけんばかりに身を起こそうとする。
仕方なく再び力を強めて地面に押し付けた。
だが、娘は苦しい息のままで言葉を続ける。
「ここはシュヴァーベン帝国のアルテンブルグ辺境伯領! 断じてヒノモトやミノなどと言う土地ではない!」
一切のためらいなく断言する。
辺境伯……とは聞いたことのない言葉だが、家の格を示すものであろうか?
いや、そんなことはこの際どうでもいい。
ここが美濃国ではなく、日ノ本ですらないだと?
イヤな想像が湧く。
俺の考えがまとまらぬ内に娘はさらに言葉を続けた。
「私は当代辺境伯の娘ヴィルヘルミナ! 私に嘘は通じんぞ! 貴様はここ数日続く異変の原因であろう!? なにせ異変の中心にいたのだからな!」
「異変? ここがその中心だと?」
「そうだっ! ここは辺境伯領の東方! 見渡す限りの荒れ地が広がっていた! だが、季節外れの深い霧が前触れもなく立ち込め、山のような大きさまで広がったかと思うと、今度は突然の大地震だ! 地震など起こったことのないこの土地でな! そして最初に霧に包まれた地に貴様はいた! どこからどう見ても怪しい
「ほう……大地震、か……」
心当たりがあった。
イヤな想像が形を成していく。
森で目を覚ます前――――
翌日には使いが美濃へ到着し、当家の京屋敷が倒れ、伏見城の天守閣すら
俺は家臣を引き連れ、ただちに救援へ向かうことにした。
その道中、とある峠道で俺達も大きな地震に襲われた。
真下から巨大な
家臣達に呼び掛ける暇さえなかった。
目を覚ました時は、運良く助かったのかと思った。
だが、すぐに様子がおかしいことに気付いた。
崖から落ちたはずが周囲に崖はなく、乗っていたはずの馬の姿もなく、腰に差していた刀も他の持ち物も何一つ見当たらない。
周囲の木や草花は見慣れぬものばかり。おまけに耳に入る鳥や獣の鳴き声も聞き覚えのないものばかりだ。
自分の身に目を転じてみれば、怪我一つないどころか着物にほつれ一つ、汚れ一つない。
さらにはこの娘だ。
どう見ても日ノ本の民ではない容姿。
何の障りもなく言葉が通じておるが、俺は異国の言葉など話せん。
娘が日ノ本の言葉に
「まさか……神隠し、か? 神隠しで異界にでも迷い込んでしまったか?」
ここが異界なら、目を覚ましてからの不可思議な出来事に説明がつく。
命を拾ったことだけでも、儲け物だと思って良いのかもしれぬ。
しかし、異界に迷い込んだ者は二度と現世へ帰れぬとも聞く。
運良く帰って来られたとしても、何十年、何百年と時が流れていたとも。
「冗談ではないぞっ!」
「……!?」
思わず大きな声を出していた。
娘がビクリと震えるが、構ってはいられなかった。
俺は急いで京へ向かわねばならんのだ!
他国に比べ、美濃国は京から近い場所にある。
素早く駆け付けて当然と思われているだろう。
そして、我が領地は大地震で大した被害は受けなかったのだ。
にも関わらず、救援に
下手をすれば、家臣や領民に
一刻も早く帰らねば!
いや待て落ち着け!
帰るにしても方法は?
異界の娘、確か名前をびるへ……びるひゃる……ええい! 発音が難しい! この際もうミナとでも呼んでおこう!
このミナに詳しく尋ねたいところだが、俺を魔物と断じるこの者が素直に応じてくれるとはとても思えない。
「――――!」
ミナが何かを呟いている。
背筋に寒いものを感じ、急いで飛び退いた。
「風よ! 我が敵を打てっ!」
ビュォォォォォォォォォッ!
つい先程まで俺がいた空間を、何かが矢のような速さで駆け抜けていき――――
――――ドゴォォォォォン!
その先にあった大木にぶち当たり、轟音と共に大きく幹をえぐった。
気付くのは少し遅れていれば、あれが俺に……。
身体を起こしたミナは、左の拳を俺に向かって突き付ける。
中指には赤くまばゆい光を放つ指輪があった。
「……今のは何だ?」
「魔法――貴様に教えてやる義理はない。覚悟しろ。今度こそ討ち取ってやる」
ミナは剣を拾い上げ、再び俺へと斬り掛かって来た。
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