第61話 スーパー早回しのタイムラプス



 一つの情報がファスターを大きく動かした――――


 連邦政府に造反してでも賭けに踏みきるための確証がルナ達により遂にもたらされ決心し、奮い立っていた。



 ……地下深奥への最大の障壁『地獄の門番』。

 その排除の機会チャンスは一度きりだろう。仮にもし第二、第三の門番が存在すれば取り返しのつかぬ失敗……


 それが二の足を踏んできた理由。


 だがルナ達のもたらした情報は本物だ。スーパーラヴァは闇の全勢力を長期間費やしただった。それが遂にハッキリした!!!

 ならばこの要所責めの価値は明確!


 ――――もう迷わない。ここを墜とす!


 その決心を固めたファスター。


『それにしても……』


 思わぬ所から地下の真相が、しかも詳細に手に入り、ルナ達に感謝していた。



 一方で遅々として進まない各国の浸食地奪還作戦。

 その抜本解決策としてファスターは、ルナ達が任意の地域で加勢出来るよう連邦政府へと口利きをした。




   * * *




 その頃、王宮を後にするルナ達。

 ただ黙り込みトボトボと帰路に就いていた。


 肩を落としうつ向き、赤くした目を前髪で隠して時折涙を溢しながら引きずる様に歩を進める。


 何度か見たルナの尋常でないトラウマを想うと、ルカも腫れ物に触るようにただ寄り添うことしか出来なかった。

 慰めの言葉を喉元で止めては音の無い溜め息にして吐き出すのを繰り返していた。



 そうして歩き続けて数時間経ったろうか。ルナへとようやく声に出せたのはこれだけだった。


「何もしてあげられなくてごめんね」


 そう言って気遣うルカへ申し訳なさそうに首を横に振り、


「ズズッ……こっちこそゴメン……泣いてばっかで……んくぅ……」


 目も合わさずに袖で涙を拭うルナ。


「……でも、あんなに何もかも似てて……どう考えても……はぅ……。ズッ……どうして!……どうして!……ああぁぁ……」


 遂にしゃがみ込んで膝を抱える腕の中に顔を伏してしまうルナ。 もう泣き声さえも抑えられなくなっていた。


 人けの少ない街中に虚ろに響く少女の大泣きの聲。




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093077460621888




 きっと本人にしか分からない苦しい想いが有るのだろう、と察するルカ。しかし一体何をどうしたらそんなにも心を病めるのか。想像し切れないまでも想う。


 救ってあげたい―――と。


 だが神官から教わったトラウマの地雷。下手をすれば精神崩壊も有りうる事を告げられていたが、本当に他に何もしてあげられないのか。


 いっその事、サイで全ての記憶を覗き見ようかと固唾を呑む。ただそうやって最大の理解者になるのをどれ程の切ない想いで逸らそうとしてくれてたか。


 ―――やはりルカは裏切れなかった。


 今は最大のが唯一の誠意。ルカも胸が張り裂けそうだった。それでも包み込む様な慈愛の眼差しでルナを見つめて寄り添い、思う。



 だからそう、今はただこんな事しか言えない……


「……キミの事思うと軽はずみな元気づけの言葉なんか言えない。半分はこの事で王宮へ来たかったって事も分かってるから……」


 ホント、迷惑な話だよね……、と顔を伏したまま鼻をグズらせるルナ。


「ううん。でもね、キミの行動のお陰でハーフの子達が何人も人生を救われる事になった。その事実にだけは胸を張っていいんだよ。

 少なくともあの子達を救おうとした想いに偽りなんて無かった。 ―――― そうでしょ?」



「……うん。それは……それだけはウソじゃない……」



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093077460628644




「だよね……。私、今は何も出来ないけど、キミの想いがいつの日か、何かの形で報われるよう祈ってる。

 ―――― きっといつか届く。

 だからその時を信じてお兄さんに恥じぬ様に走り抜けようよ。

 だってルナは立ち上がったんでしょ? 善い人が悲しむ世界は嫌なんでしょ? セイカちゃんだって希望を繋げられる事があれば出来る限り尽くすって言ってたし」


「うん……。そう……そうだったね。いつまでも泣いてちゃだめだよね。ボクらを待ってる人達がまだまだ沢山いる。こんな所でメゲてる場合じゃないんだよね」


「そうだよ。 さあ、せっかくファスターさんが他の地域にも加勢出来る様に根回ししてくれたんだから、ここらで私達のスゴさ、もっと見せてやろうよ! この前掲げたばっかの『地上の敵の全掃討』 ……

 ルナは今さら諦めたなんて言わないよね」


「モチロン! やっぱ家に帰ってる場合じゃない。ねえ、今から向かいたい……いいよね ?!」




 その場で翻し、ファスターから入った伝意金属板タブレット情報を元に早速次の任務地に赴く。




 世界で三番目の大国『アナスタシス』へと到着。

 しかしそこに立ち込めたものに驚く。

 寒気すら覚える濃い瘴気に覆い尽くされていた。


 そして悲嘆に項垂れる人々の姿が魔族の侵食の酷さを物語っていた。


 「じゃ、行くよ、ルナ !!」


 早速ノエルをポシェットに入れて索敵を開始するルカ。今はルナに余計なことを考えさせない事が一番、とばかり速攻で先頭を切るルカ。


『こっちだよ!』


 そう言ってサイ・千里眼で捉えた〈光るチョウバエ〉へとカッ飛ぶ。「まっ待って!」と慌ててそれに続くルナ。いきなりの〈千倍速〉。


「あそこだっ!」


 と叫ぶルカの声も消えぬ間にノエルの魔法の捕縛リングでルナが捕まえてポシェットに投げ込むと、もう間髪入れず次へと走っているルカ。

 余りの勢いに必死に食らいつくルナ。


『ここだ!』 『次こっち!』 『そこにも!』


 と夢中になって速度を増して行く。



 僅かな時間で既に捕縛数が百を超える。

 前回を遥かに上回るペースだ。気付けば他の手間取っているパーティーとすれ違い様に


『ゴメンッ』や『お先っ』


 と横取りする場面も多々発生。余程の力量の者でないと声の主が誰なのかすら分からない程の激速で捕らえて過ぎ去って行く。




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093077460636515




『何何何~?! 獲物が眼の前で謝りながら消えたーっ?』

『あ……ハハッ、この早業はきっとアレ、噂のフィジカル超人、ルナって人の仕業だよ』


 他戦士の目も止まらせずに勢いづいてゆく。



 ―――― 自分にはまだ出来る事がある。


 その想いに満ち、作業にも熟達してくるとその動作全てが『千倍速』を超えて行き、遂にルカが音を上げ始めた。


「ゴメン、走りながらだとルナへの指示がもう追い付かない。それに私の千倍速程度じゃルナの万倍速の足かせになるから、上空から索敵に集中してテレパス指示するよ」


「うん、実動は任せて! 速さと体力ならまだまだ行けるよ」


 じゃあヨロシク、と上空へ浮遊するルカ。テレパスで


《川の向こう、あの塔の先!、その道を右に、左に》

《白い家!、赤屋根の家、上階!、下階!》


 等と指示も超絶高速になってゆくが、あまりの追従する反応の速さに上空のルカとポシェット内のノエルも驚きつつ応援する。


《スゴイよルナ。その意気で走れ、風のように! 悲しみも超えてもっと速く、何もかも振っ切れるまで、走って、走って、走りぬけ―――っ》


「がんばれ~、ねーね、もっとはしれ――っ。ニシシシ」


「任せろ~、ハァァァァァ――――ッ」




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093077460644022




 例によってその尋常ではない動きはスーパー早回しのタイムラプス。


「ルナ、これならすぐこの国の掃討も完了だ。そしたら速攻で次の国へ行くよ!

 移動だけじゃない、全ての動作を超加速出来る私達だからこそこんなに速いんだよ!

 もうこうなったら全土を制圧しよう!」


 ……ルカ……ルカ……




「だからもっともっと速く、音速さえ遥かに超えて!

 狩ぁり尽くせ―――っ」



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093077460652530




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