第58話 今こそ街に救いを! 知られざる潜伏者



 転生者パーティー約百組が目印のチョウバエを追う事になり一堂に会した。


 大陸の約半数、27の国が闇の密売組織等に蝕まれた状態で不安と暮らす市民。これを機に警察、警備隊、内地に残る転生者で追跡。その中には血気盛んな荒くれ者や、あの少年少女パーティーもいた。


「ルナさーん! お元気でしたか―!」



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093077207828564




 そう、前世の兄のルナへの眼差しへの気付きと、この世界での生きる道を示してくれたあの10人組の若者たち。この者らも立派に成長していた。手を振り、駆け寄ってくる。


「あ、キミたち! 参加したんだ。元気そうで何より」


 再会の喜びに満ちた10名に囲まれるルナ達。それにしても妙に目が輝いている。


「ルナさん達こそ元気そうで。だって今や[取り返し隊]の活躍は世界に轟いてるんですよ。元気過ぎですよ。もう雲の上の存在です。だから今や共闘できた事が私たちの自慢なの」


「ナハハ、大げさだよ。でも、今回も頑張ろうね」



 いずれも戦闘経験のある転生者が集まるが、全土にひっそり潜む対象を探しながらの捕獲は広域過ぎて難航が予想された。

 作戦では実績や人数、ステータスにより1国に平均4組ほどに割り振られたが、ルナ達はこれ迄の突出した救出実績と本人志願から何と異例の2国も任された。


「す、凄いですね。一組で2国。実質8倍。しかもたった3人で。サスガ!」

「その位じゃないと自分らが納得できないからね。じゃ、皆気を付けて!」


 早速各地に派遣されてゆく。魔法監視団もその進捗度合いを連合軍本部へと逐次報告するために各地へと散る。



  * * *



 三人は爆速の飛翔で現地に到着すると、早くも水を得た魚のように活躍開始。


 ルナ、ルカ、ノエルはその物理フィジカル、サイキック、魔法の連携でそれぞれの飛び抜けた長所を活かして驚異的なスピードで対応を始めた。



「移動と捕獲はボクの超速に任せて!」


 とポシェットに二人を入れてルナが疾走すると


『こんな目印待っていた!』


 ルカがチョウバエの群がる位置とその犯人情報を千里眼で面白い様に索敵、テレパスで伝達と指示。


「はい。このりんぐでつかまえると~、うごけないんだよ~」


 ノエルの渡す『光る魔法の捕縛リング』をすれ違いざまに投げ輪のように頭部へと放つ。

 すると胴体まで落ちたところで四つの輪に分裂。


《ギュンッッッ!》


 人型の対象ならば上腕・胴体、大腿、下肢といった位置で強烈に締まって拘束。



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093077207841516



 これを万倍スピードで移動し次々と捕縛するルナ。


 相手からすれば目に見えぬ速さの何者かに妙なリングで捕縛され、ポイッとポシェットに投げ入れられ何も出来ずに終了。それをルカがポシェットの中の収容所へと連行し確保する。

 作業に慣れるほどに、あり得ぬ勢いでそれを繰り返す。その結果……


 最強の連携コンビネーションにより驚異の僅か二日間で二国を平定。


「あれ、もう終わっちゃった……」


 その成果として延べ五百もの捕獲に至った。


 ルナ達は全てに於いてズバ抜けて効率的だったが、中でもこのポシェットの利便性は絶大で、連行の手間を完全に省き、他のパーティーと歴然とした差となる主要因ともなった。


「やっぱポシェット便利ィ~! それにこの虫があれば連絡網も要らなかったね。敵も強いのは皆 戦地せんちに行ったみたいだし本格的に争う事も無くて楽勝~!

 これでこの国も安心だね、ルカ」


「うん。所で気になったのは無抵抗の優しそうな子達がいた事。……何より地下生物の血が入っているとは思えないほど人間そのものの外観……あれは……」




 気になった二人はポシェット森にある巨大な収容施設の特別部屋でまみえる。




「ねえ、キミたち、とても人拐いする悪者には見えないけど何でこんな事するの? そもそもそんなに怯えながら……地下住人の血が入っているのは確かなの?」


 日の当たらぬ世界で育った事を印象付ける色白で哀しげな目をした少年少女達。




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093077207835678




「自分たちは……奴隷なのです……アンドロジャナス族と人とのハーフ……なんです……」


「えっ!……セイカちゃんが言ってたあの……でも、だとしたら何で奴隷なの?」


「拐われた人の中でも繁殖が可能なのは生命力が最も充実している僅かな期間。それも少しでも健康を損ねてたり適齢を過ぎると利用価値がなくなり奴隷として扱われる。それはハーフも同様です。

 そして私たち母親似の……つまり人の見た目を持った者達は人間界で警戒されない点に気付いた奴らはそれを利用して人拐いに協力させた……ひっそり拐われる場合がそれです。そして協力しない者は母親ごと地下のケモノのエサとなる……」


「そんな!……」

 セイカの言っていた事をよりリアルに証言されて、あの話しの真実味と共にその悲しい結果に眉をひそめるルナ。


「でも私達のやっていることは再び自分達の様な悲しい存在を増やす為だけのヒドイ事に加担していると分かってる……それが嫌で自殺する者が多く出ました。

 そしたら奴らは地下で一定の年齢に育つまでは友情とか、仲間作りをさせる様になった。

 そして自殺や反抗すれば身内だけでなく大切な仲間ごと地下のケモノのエサにすると……」


それじゃ協力するしか……と拳を握り締めるルナ、眉をひそめ瞳を潤ませるルカ。


「ねえルカ、こんなのって悲しすぎる……これは早く知らせないと今回の作戦でこんな子達がヒドイ扱いを受けてしまうかも……ボク、どうしても見捨てたくない。捕囚所へ連れてけば尚の事……かといって逃がしたら犯罪になっちゃう。だからぜひ相談をしてみたい人がいる!」


 誰かが守ってあげなきゃ。自分がそうして貰った様に。今その行動を起こせるのは……


「 ねえ今から行ってみよう!」



<――――だからボクは約束する。ルナの事、絶対に守りきってみせるよ――――>


[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093077207853769





 忘れ得ぬ兄の言葉。守り切ってくれた約束。返せなかった恩返し。でも今出来ることをやり抜く。どんなに形を変えても。



 そう覚悟するルナ。―――困った事があれば相談に乗ると言ってくれたあの人の所へ。その地位なら何か出来るのでは……


 自分を救ってくれたファスターがラグレイシアの宮廷付き第一級の戦士と言っていた事に一縷いちるの望みをかけて無理を承知で訪れる決心をする。


 あの人ならボクたちの話しを聞いてくれるかも知れない……


 生温 ぬるい言い訳。


 己への欺瞞ぎまんも僅かに感じながら、秘めた想いを胸にラグレイシアへと向かう。あれ以来、頭から離れぬ『あの事』にもケリをつける為に。




 ――――それに……

 レイさんがボクと同じマークの耳飾りを見かけたって……


[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093077207847945





< continue to next time >


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ルナはその秘めた想いを押し殺しつつもラグレイシアへと向かう決意をする。こんな厳しい未来にも諦めず応援頂けるなら ☆・♡・フォローのタップにて宜しくお願いします。

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