第52話 嫉妬に狂うルカが追い詰めたもの





 その後もルカに粘り着くルナの視線。


――――そして夕暮れ時。薄明の空に満月が顔を出す。



 ルナは夜空に満月が登るとやたらソワソワして髪を触ったり服の裾を意味もなく直しては胸元に手をやり、衿元のすきを妙に意識してみたり。


 寝る前の部屋着は普段のトレーナー的な物でなくネグリジェ風を着ているのも何時もと違う。そして妙な事を考え始める。


 ああ、ヤバイ……ルカが何時もよりもっと可愛く見えるぅ~……

 ああ、洗った髪からそこはかとなく漂うこのハ―ブの香り……髪を乾かす仕草……

 こ、今晩一緒に寝てもいいかな……

 はあ、はあ……

 いや、こんなボク想いのルカなんだ、もう何しようと勝手だ!



 あ、今ルナはまたヤラシイ目で私を見て! 満月の日の異世界発情してる! よしよし、なら可愛いリボンバレッタでも付けてみるかな、胸のボタンもひとつ外して……


 はうぅ~ルカ~、イイネそれ、キャワイィ~! もうムリ~っ! これはやっぱ今襲うしかないか?……

 い、いいよね、これ、合意だよね、

 はあ、はあ、はあ……あ――っ、このままじゃ抑えきれない――っ、って誰か止めて――っ!……


 そうだ、こんな時は!


「ノエルちゃん! 今日一緒に寝よっか。抱っこしてあげるよ~っ!」


「やった~、のえる、ねえねとねるの、しゅき―っ。 にしし」


 ガク――ッ……

 もうちょっとのところだったのにぃ~



 その火照りを冷ますため窓全開で夜風を取り入れノエルを抱いて眠る。空から煌々と照り付ける月光を直に浴びる二人。


 だが満月の光はこの妖精にとって無意識領域の開放……



 皆寝静まって夢の中……のはずが、隣の部屋からの妖しい声。


「あん、ダメだよ~ノエちゃん!……そんなのくすぐったいよ~、クスクスッ、も~……」


 隣室で寝入りばなのルカが飛び起きる。サイ遠隔知ではルナの意識は寝ている。


 何この甘ったるい声! ホント寝言? ちょっと気になるし……もう透視で覗いてやる!


「あ、それはちょっと、はっ……クスッ……て……あん……だめだってェ~……」


えっ、なんかおかしくない?


「え、……ノ……ノエ、ああっ、そ……それは、はっっ」


 えっ! それに少し暗くてよく透視出来ないけどノエルも何かヘンじゃない?


「はあ、はあ、アッ……ノエ……ひゃんっ……くはっ……はああぁっ」


 もう限界っ!!

 ――――ダダダダッ、ガチャッ



「二人でナニやってんのっ!……えっ?!」




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093076663989476





 ルナにかぶさり唇同士が触れそうな状況でこちらと目が合う同年代の美少女。そして幼女ノエルはいない。だがその特徴的な髪型からしてどう見てもノエルが少女に変身していると直感。

 元々天使のように愛らしいノエルだが、その可愛さを保ったまま15才くらいに成長した正に妖精のツヤッぽさも合わせ持つ妖しくもキワどい美しさ。


 ルカの叫び声でポヤポヤ目を覚ますルナ。部屋入口で唖然とするルカを寝ぼけ眼で見つける。

 上からの吐息を感じてそちらを向くと、被さる美少女と鼻先を触れさせて目が合う。


「キャアアアアアアアアアア――――――ッ」


『ハッ』隣家に迷惑と思い、咄嗟とっさに〈サイコキネシス〉で窓とカーテンを閉めるルカ。

 満月の直射が遮られた途端、ノエルは縮んで行き、幼女に戻ってスヤスヤ眠りこける。


 胸元のボタンを全部外したルナのハダけた姿に拳を握りしめ、一歩、二歩と近づきながら


「コ……コレは……どう言う……ことっっっ ?!」


 一途なだけに恐ろしく嫉妬深いルカの逆上。もう正体が何だろうと頭に無く、遂に怒りが爆発する。


「もう本当にアタマ来たぁっ! なんでノエルが許されて私じゃダメなのぉっっ!」


 ピシィィッ……ビキビキビキビキィッッ……


 サイの暴走で部屋の天井・壁に無数のヒビが走る。嫉妬に狂った表情は初めて見せるものだった。




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093076663994153




白目は血走り瞳は今にもサイ攻撃寸前、魔眼の様に不気味に明滅している。


「ちょ、ちょ、ちょっと待った! 今日のルカ、マジ怖いって!」


「当たり前だぁっっ! 私を何だと思ってるの! なんであんな風にベッドを共にしてるのぉっっ!」


「お、落ちついて、ねっ、ねっ! ノエちゃんは単に妹で、ここここれは保護者として……」


「どこがよっ! あんなツヤッぽい女子に何の保護してる! その上あんな事までっ!」


「え、いやいや、な、何にもしてないって、ちょちょちょホント落ち着いてぇ!」


「ふーん、何にもしてないんだ~。それであんな声を出すんだ~……初めて聞いたよあんなの! こんな風にねっっ!」


 サイで脳内へと記憶転送され、「ここここれ……誰?」とその声に赤面してうろたえるルナ。


「しらばっくれるなぁっっ! こうなったらアンタを殺して私も死ぬ!」

……グググ……

 目を血走らせたままサイキック+千倍フィジカルで首を締めるルカ。


「ぐ……ぐるじぃ――……シヌゥ――……」

グタッ……としたルナにハッと正気に戻るルカ。


「ハッ……ル、ルナ?……あれ……お―い……ガクガク……嘘だよね~……ペシペシ」


 死んだフリから戻るルナは呆然と遠い目をしてため息をつき、次第に瞳に涙がたまる。


「……はぅ……もう……死んだ方がいいかなって……」

「な……なに急に……死にたいのはこっちだよ!」


「だってボクはこんなにルカのこと想ってるのに分かって貰うこと出来ないんだから……」


「ど~考えてもそれはこっちのセリフ! 気でも変になった? ……確かにお互い永遠に結ばれぬジェンダー同士。それでも大切に想って我慢してきた……」


 不意に人差し指の背で涙を拭い始めるルカ。


「そしていつかは私の望むように努力するって言ってくれたのにナンパばかりかこんなあからさまな侮辱! ヒド過ぎる……面白がってワザと私の気持ちを上げてからおとしめてるんだ!」


 幽霊のように恨めしそうに睨んで呟いた。


「 絶対に許せない……」


 その声音からこれはマジに本気だと理解したルナ。血相を変えて訴える。


「違う! これは本当に偶然なの! 本当に本当にルカは大切なのっ! 信じてっ!」


 異様な沈黙が続いた。


「――― だったらどうして今迄好きの一言も言ってくれなかったの! いつもエロ目線とかナンパとか……私なんてどうでも良いからでしょ!

 怒ればいつも誤魔化して……言い訳なんて今更信じられない! 」


「ち、ちが…」

「ここまで裏切れるなんて人としてもう……ついていけない……」


ルカの余りに本気でこわばった表情。限界を悟ったルナは床目線のまま遂に本音をこぼした。




「……なら本当の事を言う!……だってボクが本気で追う存在なんてみんな消えてしまう……神様がボクから大事なものを全部取り上げるんだ。

 なのにもうルカへの想いを止められなくて……無理に斜め上目線とか他の人に目を向けて気持ちを逸らすしかなかった……」


「え!! ……だったら言ってよ! 第一、失った人達の事は偶然でしょ! 私はきっと大丈夫!」


「嘘……この前だって本気になりかけたらルカ、身を盾にして心臓破裂……

 こんな戦いの日々、その内 大戦たいせんが来るって言われて……そんなの絶対死別するに決まってるよ……」


 その虚ろな瞳はどうしようもない悲しみを湛えていた。やがて泣き声もなく涙だけが、


 ツイッ……、ツイッ……と流れてゆく。




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093076663998213




 息が止まり言葉に詰まってしまうルカ。微動だに出来ず硬直する。



 だが遂にルカもこらえきれず、神官から警告を受けていたそのルナのトラウマに正面から向き合う覚悟を決めて固唾を呑みこんだ。


 ゴクリ……








< continue to next time >


――――――――――――――――――――

自分の理解者は神に取り上げられる。そんなトラウマが思い込みを助長する。それ故の自分を偽る悪態の理由もバラさざるを得ず……。

二人が普通に分かり合える日は来るのか。

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