第44話 それぞれの生き様



 伝説の勇者……


「天才妖精さんなんですよね」

 確か武器商のマスターがそう言っていた。


「たしか戦士としてだけじゃなくて魔道具制作とか、錬金術とかにも秀でてたとか。ボクのヌンチャク、その方のものなんです!」


「そうか。縁起いいなぁ!……で、その勇者はギカダンジョン最深部第6層まで行って、地下世界最強の統率者を倒した。それが拐われた者達を救い出した唯一の事例だ……」


 ルナの聞きたかった核心を語り出すエマ。



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093076234353662




 当時、勇者はその際に受けたダメージも大きく、蜘蛛の子を散らす様に逃げ行く残党を追えるほど余力も無く、駆けつけた援軍と共に拐われていた人と妖精、合わせて二千人程を連れ帰り、引退宣言をして妖精の森に隠遁いんとんしていると語った。


「引退してしまったんですか……それで魔の者達は滅ばなかったと……」


「ああ。勇者も回復には百年以上かかる程の深手と聞いた。逃げ戻った魔の者も暫くは再興に力を入れ地上へは手を出して来なかった……

 で、地上にも凄い戦士がいた事を知ったヤツらは防御にも力を入れて、地上からの千里眼をも通さぬ結界を厳重に張り、あまつさえ第二層を鉄壁の防御にしたとかで、以来そこから先へ行けなくなってしまった……」


「そんなに防御するなんて我々を恐れていると?」


「イヤ、多分そのかつての敗戦がヤツらを用心深くさせた。地上ダントツ最強の天才勇者をして、『相手の弱点を突く戦略が上だったから勝てたが実力は敵の王の方が上だった』と伝記でも言ってる」


 テーブルに両肘を着き、組んだ手の甲にアゴを載せ、その麗しい顔から鋭い眼差しを覗かせるエマ。


「で、その王の実子が生き延びて今の支配者になってると聞いた……それがジャナス! 奇跡の生命体、アンドロジャナス族……

 そう、魔王さえも配下に置くという……」


『ま、魔王が配下~?!?!?!?!』


 その驚きに声も抑えず弾けるように叫ぶルナ達。ガタリと思わず席を立って一斉に注目を浴びてしまう。


「あ……失礼しました~、テヘヘ……」

 後頭部をポリポリとテレ笑いで誤魔化すと、そこへ偶然レイ・メイBROSがランチに現れた。


 気づいたエマからキャ……妙な声色。

「どどどうしようっ」

 とそれまでに見せた事もない 初々しくも可愛い狼狽ろうばいを見せた。


「……って何がですか? 一緒に食べたらいいじゃないですか」


「そ、それもそうよね、コホン、そうだな」


 なんか噛みました?……といぶかるルナの陰に隠れるかの様に身を丸め、頬を染めるエマ。


「お~っ、エミ―じゃないか!」


 どうやらかなり親しいらしい事はその愛称呼びでわかる。が、エマは他所行きの声で、


「レ、レイさんお元気でしたか? 私……忙しかったものでご無沙汰してしまいまして」


 は? エマさん?!……なんか声まで乙女になってますケド?


「あ~! なんだエミ~、ルナちゃんともお友達だったんだ! 知らなかったよ」


「えっ、レ、レイさんもお知りあいだったんですか? ルナちゃんと」


……ちゃん……って


「うん、最近何だかんだでちょくちょくね、な、ルナちゃん、ルカちゃん!」


「ハイッ! お世話になってマス! こっちで一緒に食べましょう。ボク達エマさん側の席へ行くので、こちらの席へどうぞ」


「じゃ、一緒に失礼。……マスター、いつもので……」


 常連らしく、マスターと目配せひとつでオーダーを済まし着座するレイメイBROS。


「レイさんはね、 私が小さくてか弱いころ、人拐いから身を挺して守って下さったのよ! 少年なのにとっても強くて……それ以来心配してよく見回りに来てくれたりも……」


「さすがレイさん、その頃から紳士だったんですね……」


「フフ、よく見回りに行った。エミ―は小さい頃から飛び抜けてキレイで可愛かったから人一倍連れて行かれそうな気がしてね」


「まぁなんて事! 私なんかそんなぁ……」


 照れ隠しにヒジでルナをズン、ピシャアンと一閃。



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093076234359321




 ルカ、ノエルまで真っ黒コゲに。




「今は俺より全然素早いから心配の必要がなくなったけどね」



「でも私なんかまだまだ弱いからもし捕まってしまったら……その時は私を捕まえに来て、コホン、た、助けに来て……くれます……か?…………」


[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093076234367575







「もちろんさ」  ズキュン!


 はうぅっっ!! ……





 フシュ――――ッ、と蒸気の上がる音が聞こえて来そうなくらい真っ赤に茹で上がるエマ。ルナに耳打ちして



「だめ……もうもたん、話題を変えてくれ……」


 もっと見ていたくて「自分でふった話題じゃ……」

 と言いかけるも「いいからっ!」


 ジ卜ッと半眼のルナ。そして鼻から溜め息。ま、でも世話になってるし、と助け舟。


「そう、さっきまで前世の話をしてたんです! レイさんたちの前世はどんなでした?」


 ちょっとアタシはお化粧室へ……と逃げるように席を外すエマ。


「うん、どうぞ。前世か……ハハッ、オレは女だった。プロダクトデザイナーっていって色んな製品のデザインをやってたんだ。

 ある日脳出血で倒れて半身動きづらくなった……そしたら当時の恋人が『そんなのと付き合えるか』って言って去って行った……あれ程愛してるとかって言ってたクセに男気ぐらい見せろよって……

 生まれ変わったら絶対男になって男の生き様は自分ならこうする! なんて思っちゃってね。それで転生では男に」


 BROSのオーダーはさながらサラダ風パスタの様な物で、盛り付けまでオシャレな彩りで、前世が女子だった時の食の趣味を伺わせる。

 麺を巻くフォークを持つ手の小指も少しだけ立っている。そもそも美しい手だ。その手に少し見とれるルナ。


「だからあの頃臓器ドナーとかにもなってツラい人にこそ何かしてあげなきゃって……そしてある日駅のホームで落ちそうになった人を引き戻して自分が転落して人身事故……やっぱり半身動きづらいと上手く行かなくてね。でもその徳で転生者に。メイは……」


「僕はその時のドナーを受けて数年長く生きれたんだ。だから僕も見習って誰かの為に役立てたんだ。 

 で、延命の感謝で転生時に兄さんの所へと希望したんだ。僕も女だったけど体が弱いのを知った彼氏はまるで兄さんの前世の彼の様だった。

 それで共感して意気投合、以来ずっと一緒さ。実際ここでの兄さんの生き様も最高! 兄さん、一生ついてきますっ!」


「クスッ……なんか色々いい話ですね!」


 その瞬間、メイへの見方が変わったルナだった。









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