第38話 天才魔法使いの血を引く者



「さあ、今日は一緒に見回りに出かけるよ、ノエルちゃん。あ、大事なもの持ってかないと……あれ? 中が……普通のポシェット……」


「う~うん、 ちがうよ~! ちょっとかして……ホラ~、なかひろいよ~」


そんな筈は、ともう一回手にするルナ、やはりどこにも通じていない只のバッグ。今一度ノエルに持たせると中を覗いたノエルは愛らしい笑顔で、


「ひろくて~、のえるがいっぱいっ!……いしししし」


「あっ……てことは……もしかしてノエルが触れてるときだけ有効で、そうでない時、ただの小袋になっちゃうんじゃ?」


「なるほど! これはノエルの魔法力を閉じ込めとく物だったのかも! そして無意識にその魔法力を引き出すアイテムだったんだよ! これなら莫大な魔力でも暴走しないし」


「そうかもね。それに落としても悪用されない工夫。さすが天才魔法使いのお母さん!」





―――早速国境の見回りを三人で歩いて開始する。しかし。


「にしっ。のえるは~、ルナねえねと、て、つなぐの」


 テクテクテク……平和なひと時。お花。虫。止まり止まりで全然進まない。そこへタブレットからの通知音。連絡網からで隣国からの緊急要請の便りが。


『大変です! 助けて下さい! 今、正にお姉ちゃんがさらわれたんです! すごく一杯いて、デッカい蟻みたいな怪物に! お願い急いで!』


「ん! ちょっと見て来るよ。ルカ、ノエちゃんをお願い。ここらで遊んでて」

「いっちゃやだっ! ルナねえねといっしょ!」


「タハハ、ん~でもどうしよう……じゃ、ポシェットにちゃんと隠れてたならいいよ!」


 超ピュアな眼差しに負けてつい条件付き許可をすると、『うんっ!』 と力強く良い子の返事。ルカにも中でノエルを見守るように頼み、さあ、行くよ~と溜めを作る。


 ドギュンッッッ! ドゴォォォォ――――ン………全速でソニックブーム発生。





「お待たせ―っ、[取り返し隊]で~す! で、どこ?」

「わっ、はやっ……あの穴に連れ込まれたんですっ!」


呼び出した子が案内した先には子供サイズの巣穴が。


「どうしよう、ギリ入れても屈みながらじゃ戦いづらい……」


 ポシェットから『ねえね、こっちこっち!』 と声が。中を覗くと外の世界が見える池からルナの世界を見ているルカとノエルの姿。そして小さくみえる鏡を指差すノエル。


 そっか、それを使えば小さくなれるんだった、と早速小型化するルナ。


「これでよし、じゃ行こう。二人はこのままポシェットで待ってて」




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093076234334791




 再びポシェットを肩から下げ発進と同時にズバッ、ドシュッ。

 あり得ぬ速攻と小型化しても有り余る強さ。女子を引きずり込む三匹を手刀と蹴りで真っ二つ。相手にもならない。


「助けに来たよ! このポシェットに入って。連れ帰るよ」

「ありがとう、でも待って! 学校の帰りで、あと10人いるの」


 ポシェットから出たルカと二人がかりの奪い返しで、


 ビュビュビュピュピュンッ――――と超速で往来。


 その動きは正に『タイムラプス動画』そのもの。

 「この子達のこと?」と、瞬時に目前に現れた仲間の子達にアングリ……

 巣穴の中で屈み気味の年頃の女子達。


「うん、そう。……あなたたち、もしかして今話題の?……でもなんか小さいけど」

「そう! [取り返し隊] だよ、今、闘いやすくするために小型化してるんだよ」


「うそ、そんな事もできるの~、スゴ~ッ! やった~、後でサイン下さい」

「クスッ、この国でも有名に? ペンと紙あったっけ……でも取りあえず外へ出よう! ヘンなのが一杯奪い返しに来たからみんなこのポシェットへ急いで!」



 全員をニュルっと仕舞い込み穴から脱出した後、通常サイズに戻る二人。するとノエルも出て来てホースを取りだし『ニシッ』とイタズラっぽく笑った。



「アリさんであそぶ――。まず~、あなに~、おみずいれる―っ。じょばばば~っ」


 そんな穏やかな口ぶりに反してポシェットから伸びたホースの水量はダムの一斉放流さえ思わせる正に怒涛の量。目を丸くするルナ達。


 穴の中は大洪水となり敵の蟻型魔物の群れが一気に奥へと流される。怒って凶悪な戦闘モード化、毒矢と強力なアゴキバを剥き出しにした羽アリ姿となって猛烈な勢いで大群をなして襲来して来た。


「シシシシ~、つぎのホ―スわ~……ウンチ~ッ! どばばばば――――っ」


グボボ……オゾマシキ生き埋め。この死に方だけは……。


「ダハハ、スッゴイ量……うわクッサ~、容赦ね――っ! しかも穴が完全に塞がったし」


「子供時代ってこんな風に残酷だったよね。クスッ、キャッ、こっちに向けないで!」


「あれ~? あのね、あっちのあなから~、さっきのみずがでてきたの―! じゃあね、こんどはそのあなに~、ひのホースッ! ぼわわあぁ――――――」


 グゴオオオオオオオオォ……

 渦を巻き容赦なく襲い掛かる巨大高速火炎放射。


「ハンパない火力……そこいらの火の魔法使いの数十倍……こりゃ完全に地獄行きだな」


そこへ地上へ先に出ていた女王アリ型の魔物が強大なアゴ牙を鳴らして睨んでいた。


 ガィ―ン、ガィ―ン、ガィ―ン

「よくも我が配下と巣をやってくれたな!」




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093076234340294





 突如その体躯を数十倍に巨大化、実体は50Mクラスの巨大怪物だった。急いで身構えるルナとルカ。しかしノエルはまだまだ遊んでる気分。見上げる瞳の星が超キラリ!


「のわっ~ ?! ずっとおっきいアリさんがきた―!

 あそぶ―――――っ!!」


 ドバッフォォォォォ――――ン……




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093076234347433




 ホースからその怪物の10倍を超える業火の超巨大爆噴流と衝撃波。


 ギャアアアァァァァ…………

 と声だけ残し灰すら残らず消し飛ぶ。



「って、瞬っ殺っ!……ノ、ノエルって相当コワイかも…………」


「あれ~? アリさんどっかいっちゃった~。あのね、みんなでてきてい~よ~。さいごにシャボンだまのホ―ス。これであそぼ―よ! しょばばばばばばぁ―――――っ」



 にゅるるん、とポシェットから全員出てくると、

「うわーっ、大っき~い、いっぱ~い!」


「これゎ~、なかにはいるとのれるんだよ~。それで~、いきたいとこおねがいすると~、とんでくのっ! ニシシシ」


「よし、みんな乗って~。じゃ、家の方へとお願いしてみよ~う!!」


 ムニュンッと大型バブルの中へ入ると早速フワリ上昇。おうちへレッツゴー!


「キャハハ……楽しーっ……」


 空には蝶やトンボが行き交っている。


『スゴーイ! 家があんなに小さ~い!』


 更にフワフワ高々と舞い上がり、雲と併走しながらしばし街を遊覧。



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093075897585813




 タンポポの綿毛もフワフワ、大きな猛禽類が物珍しそうに近付いて来て、悠々と飛び去っていく。



 やがて家の近くまで着くと夢のようにフッとはじけて魔法のシャボン玉は消えていった。




 そしてルナたちはまだ慣れないサインをねだられ、テレながらも三人でそれを書き記した。








< continue to next time >


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平和と遊びが大好きな妖精ノエル。なのに強い。 三人の今後の異世界での活躍にもし応援頂けるなら ☆・♡・フォローのタップにて宜しくお願いします。

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イメージBGM (youtube)

▼ North Pole Express

https://youtu.be/5aPpRZAdfkE

(ノエルがイタズラ心でヤンチャ大活躍する場面にピッタリ)


▼ I Pledge Allogiance

https://youtu.be/1v2jcEqOVB0

(シャボン玉にのって全員の大行進・大遊覧飛行。まさに夢の一時を勇壮に。)


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