第35話 キミのために生きたくて! 遠ざけられた想い



 ルナって一体何でこんなに浮気性?

 そんな人じゃないと思ってた。―――いや、やっぱそんな適当な子とは思えない。でも実際何度も無視されるわ他の子ばかり追いかけるわ。


 もうサイの力で頭の中を全部盗み見る?

 ……いや、それはダメ。

 


 その夜、元の女子に戻れたか心配する風を装ってルナの部屋まで押し掛けたルカ。


 ―――でもルナ……やっぱ来ちゃった

 ……だって、こんなんじゃモヤモヤが収まらない……


 


「ちゃんと戻れて良かったね。 でもルナはやっぱり恋人が欲しいんでしょ? ナンパばっかして寂しいの? 私ならスキマ位埋めてあげられるよ。慰めてあげる……だから……」


 一歩、二歩とルカに迫られ部屋の隅のベッドまで後ずさり、遂に膝裏が当たり仰け反るルナ。ルカのややタレ目の甘い小顔が真近に寄って来る。


  その切なそうな潤んだ眼差しと桜色の小振りな唇がみるみる近づいて来る。



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16817330661161684843



「ダメだよ……」


 軽く胸を突き返されたルカは、その拒絶にワナワナと怒りを露にする。


「ヒドい! 誰にも声かけないなら分かるけど、あんなにするなら何で私じゃダメなの!」


 ……もうエイッ!


 遂にベッドに押し倒し馬乗りで顔を急接近。伏し目で顔を逸らすルナ。


「そんなにボクが好きなの? だって今キミは男子になっちゃったよ。 だからボクはキョーミない。ゴメンネ、ルカ……多分ボクの気晴らしみたいなことで翻弄させて……」


「せめてその気晴らしの対象にしてくれてもいいのにっっ!」


「それは……出来ない……」

「なんで! 事故の直前、あの時私が男子でも! 確かに私達はっ」


「……自分でも良く分からない……けど急に気が変わった……」

「じゃあ聞く。何で今ルナもまた男子になったの? 本当は私の事を……何で誤魔化すの!」


 まさかと言った表情のルナ。確かめる様に胸元に腕を押し当てて『ん!』と声をもらす。確かに平らになっている。


「あの日、言葉を越えて分かり合ったのに。はぅ……あの頃、ズット虚しくて。私の力を使うに値するものも見出だせず……でも命まで引き換えに助けられて、初めて本気で護りたいと思えるものに出逢えた。キミこそが! 私の中の全てになったんだよ……あうう…」


 ポロポロ涙をルナの頬に落とすルカ。 バツ悪く目を逸らすルナ。


「そんなキミの為に生きたくて! 全てを捧げるつもりでついて来た。 少しでも好みに近付けた。なのに私にだけ言い寄ってくれない! どうして? ……セイカちゃんのせい?」




「……あの子も命を賭してボクを助けてくれた大事な人……ルカと同じくらい大事……」


「もう意味わかんない! そんな風に言ってくれるのにっ! いや、やっぱりこれは違う! あの子に誠意を示したいなら他の子に声かけたりしない筈! だったら気晴らしでも何でもいいから私を見てよ!」


「……見てるし……」


「 嘘。それとも大事なのは友人としてだけ? 確かに最初はそれで良いと思ってた……でもルナがああやって恋人を求めるなら、それになりたい!」


「それは……今は……どうすれば……」


「……キミ自身が分からないって言うならもういい。

 サイで心の中を何もかも覗いてやるっ!」


「ダメ――――――っっ!

 もしそうするなら二度と会わない……

 コ、コンビ解消するぅっ!

 …………はうっ……うぐ……ううう……あううあああああああぁぁぁぁぁ……」



 あまりにも急な狼狽ぶり。慌てたルカは、


「え?!……わ、わ、分かった……ルナがそんなに嫌ならやらない…………」



 はぁ…………



「でも悲しいよ。だって……私はキミの一番の理解者になりたかった……」


 あれほど欲しがっていた理解者。だがより深刻な表情となるルナ。


「そ……そんな事したからきっとあの人達はあんな事に………はもう十分色々して貰えてるからいいの! こんな壊れた身勝手な子なんて、もう放っといていいから!」



「そんな事いうけどルナ…………」




 !!!  ……お、お兄……ちゃん……




 その言葉に突如とつじょ蒼ざめたルナ。

 息を乱し頭を抱えてガタガタと震え出す。目は怯え髪を掻き乱し、


「ああ……はあああ……や……いやだ……もうあんな……はあ……はあ……思い出して……頭がぐちゃぐちゃになるんだよっ!……苦しくて、苦しくて……今にも死にたくなるんだよっ!……ううう……うっく……あああ……うぐっ……うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……」


 異常な強さでしがみ付いて呼吸さえ震え出す。

 瞳は焦点も定まらず、涙も止まらない。




 ど、どうした?!……そこまで?……


 ルカは再び神官からの忠告を思い出した。




〈あの者、普段は見せぬが途轍もなく大きなトラウマを持つ。下手に接した事でもし、しくじれば再び塞ぎ込んで戻れなくなる程の……〉




 地雷を踏み抜いてしまったと思った。


 確かお兄さん……ルナの為に犠牲となった世界一大切な人って言ってた……なのに恨み続けてるって……二人には一体何が……


「ルナ! 大丈夫。大丈夫だから落ち着いて! 私ならここにいるよ……」


 急いで強く胸に抱くルカ。その腕の中で言葉にならぬ文句のようなものを繰り返すルナ。


「ズッ……私だって本当は感謝したかった……でもこんなんじゃ出来るわけ……絶対に守りきるって約束してくれたのにっ!……これじゃまるで逆なんだよ!……うううあああああああああああ……」




 しばらく泣き続けたルナ。 抱きながら頭と背をさすり続けるルカ。




 …………




 ようやく幾分納まると、かすれた鼻声ですすりながらルカに囁いた。



「……でもいつか……キミの望む様に……そうなれる様に……努力する……」



―――『私』?……『努力』?……


 耳慣れぬ物言いに小首を傾げ、届かぬ想いに溜め息をつきながら胸の中でルナの頭を撫でるルカ。

 暫くはこの事には触れぬ様にと心に留める。



「まあ、でも今ので少しは報われるよ……時間が要るなら待つよ……

 またあした頑張ろ、ルナ……」




 優しい声とその腕で、再び包み込むルカだった。









< continue to next time >


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ルナの真意にまだ気付かずすれ違うルカ。 こんな二人でも今後の異世界での活躍にもし応援頂けるなら ☆・♡・フォローのタップにて宜しくお願いします。

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