第10話 ルナ、性別を欲張る


 転生直前、煉獄界での取り決めの中で―――



 「では次の選択、転生先へは召喚村へ好きな年齢での『転送出現型フォアード』とするか、希望する家庭へ赤子として出生する『輪廻転生型リ・バ―ス』とするかじゃ」


「そうだな……ボクはモテなかった思春期をやり直したいから14才からの転送型にしたいな……あ、その世界はカワイイ女子とかいるの? あと転送型の場合、言葉とかは?」


 神官はあご髭に手をやり得意げに言う。色んな女子がいて、言葉は脳内に言語パックがインストールされるから心配ないと。


 

 そして見た目と性別の好みを聞いてきた。


「ボクはジェンダー的にずっと苦しんだからその問題に悩みたくない」


「私は膨大な世界への転生を司っておるが故、まかなう雑事も多い。じゃからあまり新出のワードだと語弊が生じかねんから確認じゃ。ソナタの言う『ジェンダー』とはなんぞや?」


「え、と確か社会的な性別?…… だから当人が女でも男として生きたければ男だと言える社会? だっけ? だから結構〈逆の性別〉を指すことも多いってカンジ……かな」


「なら簡単に言えば『ソナタなりのジェンダー』とは〈逆の性別〉ということか」


 ――― これは極めて重要な質問であった。


「う~ん、そんなとこかな? よく知らんけど。ま、とにかくカワイイことが正義。 だからボクは見た目と性別は『女装男子風女子』がいいんだよ」


「はい? なんだって?」


 女装男子風女子。また訳の分からぬ事を言い始めるルナに呆れ顔の神官。


「だから~、『女装男子風、の女子』だよ! 前もそうだったし、見た目は結構気に入ってた……のかな……でもあれじゃなきゃダメなんだ」


 急に深刻な顔になるルナ。


「普段は可愛い女子で……あとそう、明るい元気系女子になるんだった!

 そして―――いざ、何かを賭けてでも抗うべき時、『本物の男』の様に強くならないと……」


「囚われとるの、前世の事に。まあ、あそこまで酷い人生なら仕方ないがの。……なら最初から可愛い女装男子でどうじゃ」


「ああ、ルカがそうだったな……でもカワイイのは良いけど普段男になりたい訳じゃ……」


「……女子が好きなら結ばれれば深い仲にもなれるぞよ!」


 う、捨て難い……確かにルカみたいになれたらって……でもあの子はモテなかったって言ってた様な……だけどカワイイ女子と付き合えて幸せになれるなら……ン、待てよ、


「いや、でも自分もカワイイ女子になりたい~!……チョット考えさせて」


「では女子が良いなら『カワイイ男装女子』ではダメなのか?」

「男装でしょ? それだけで女子のカワイさ半減。男っぽいって事なんだよ?」


「いや、歌劇団とかの中性的イケメン美形ならどうじゃ? さぞかし女子にモテるぞよ」


「モテる! 捨てがたい!……あ、でもカワイくなきやダメ~! 可愛いこそ絶対!」


「なら最初から単なるカワイイ女子で良いではないか」


「ダメだ……それじゃダメだったんだよ! お兄ちゃんを……守れなかった……。

 結局……女の子じゃ守られる存在になっちゃう……

 だからボクはお兄ちゃんみたいに強い男の人になりたい……」


 突如失意に満ちた顔になるルナ。引きずる過去に囚われた持論をぶつける。


「モー、どっちにしたいんじゃ!」

「ンー……、必要なときだけ強い男、後は可愛い女子がいい」


 呆れて肩をすくめる老聖者。眉間に寄るシワ。


「だから前世では鍛えて強くなったんだ。でもカワイさの追求も捨てなかった。だけどどうしても美少女なだけじゃ女を越えられない! だから『女装男子風女子』!」


「ウ~ム、女子にモテたいのじゃろ? 結局男子ではないと意識された瞬間にガッカリされて、モテないんじゃないかのう。告白しても『友達としてなら』って言われるのがオチじゃろ」


「メチャクチャ言われてきた! え、良く分かるね ?! オジサン恋愛の達人?」


「フォッフォッ。生物学的に当然のこと。それじゃ永遠に浮かばれんぞよ」


「なら相手の望む様に都度性転換出来たら……それなら最強、ってボク、バカ?」



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093074993949581



「いや、任意切り替え型なら可能じゃぞ。なんなら両性具有とかも選べるぞよ」


「ククッ! マジィ~?! 言ってみるもんだなっ♪」


 やや呆れ顔の神官。だがすぐに神妙な面持ちとなり、


「じゃがこの世界ではそれらは巨大なリスクがある。そう、そこでは両性はエラく重要な存在、『絶対的強者』 に命を狙われる。推奨はせぬ」


「両性は危険? 狙われる?!」


「そうじゃ。ただし似て非なる、『一定条件での自動切替え型』なら大丈夫じゃろ。例えば〈相手を物凄~く意識した瞬間〉とか、つまりソナタの『想いがガッツリ溢れた瞬間』をトリガーにして勝手に切り替わるというヤツじゃ」




「想いが溢れた瞬間……切り替わる……」

「いかにも」



「してどんな切替条件とするか?」


「ズバリ、ボクが女と分かって離れてく人の時なんかに性別だけ男になれるとか!」


「もう何だか……早くこの話は終わらせよう、要するにツガイとなれる様、自動的に意識した相手のジェンダー〈逆の性別〉になりたいのじゃな?」


「ん? 意識した相手のジェンダー(社会的性別)じゃダメだよ! 意識した相手がボクに望むジェンダー(社会的な性別)になりたいんだよ!」


「ほう、相手がソナタに望むジェンダー〈逆の性別〉にしたいのか ?! 変わっとるの~。わかった。因みに一度決めたらもう変えられないぞ。良いな!」


 ボタンの掛け違いはこうして発生するもの。



 ワオ!……スゴいのを手に入れた! このダブルのジェンダーなら理解者を求めてさまよう事も無くなる!―――ああ、転生って良いかも! じゃ、行ってきマ~ス!



   * * *



 煉獄界での回想から我に返るルナ。


 街中は安全なため、買い出し中は護衛不要と言われ、しばらく気の赴くままに散策する。賑わう商店街を物珍しそうにキョロリと見回していると


「キャ――ッ引ったくり~っ! だれかぁ―――!」


 バッグを引ったくられ、奇声を上げて助けを呼ぶ女の子。その声にルナが即座に反応。


『ドシュンッッ!』


 音速移動して軽く首元へ手刀をトンッ。犯人を気絶させた。息を切らせてやって来る被害者。


「瞬間移動スゴッ! しかもメチャ可愛い魔女っ子。転生者さん? いや助かりましたぁ!」


「魔女っ子じゃなくて、鉄腕転生者のルナです! はい、このバッグ、無事でしたよ」


「フフ、鉄腕ってその可愛い顔で~ ?! 面白い人! ケドありがと、メッチャ助かりましたぁ。 今日は親の用で預かった大事な物を持ち歩いてたもので……何かお礼でも」


 タイミング良く『グ~』と鳴り、頬を赤らめお腹に手を当てテレ顔で誤魔化すルナ。


「ンフッ、カッワイイ~! ではあちらのお店で何かおごらせて下さい」


 そう言うその子自身も中々に美形の女子。こんな可愛い人からの食事の誘いに遠慮などする筈もないルナ。

 もちろんホイホイとついて行く。



   * *



 そして食事と共に会話も弾み、良い雰囲気に。

 意気投合した所でカラテ以外の不器用ぶりをこの異世界でもモロに発揮するポンコツぶり。

 話題にこと欠いて普段の特訓の話などを延々と捲し立てていた。



「フフフ、あなた可愛いのにトレーニングのムチャぶりとかの話、超楽しかった~!」


「ホ、ホント?! ボク、キミの事ス、スキかも。つ、付き合ってくれる?……」


「え?………それトモダチとして……ですよね?」


「それ以上という事で……どうかな……ボクなら絶対退屈させないつもり! そう、筋トレデートとか楽しいよ、あと一緒に海とかもどう? 足腰鍛えられてきっと最高だよ!」


「筋トレ? デート? どっちもチョット……あっそう私、このあと用があるのでまた今度ね」


「チョ、チョット待って! 思ってるのと違ってボクは今、男の子の筈……あ……」



 去りゆく女子を諦め、しょげつつ胸元を確認するが二つの山。男子化の様子はない。



「ってアレ ?! 女子のままだ……う~ん、これは何かの間違い? ボク、想いが溢れてたから相手の好みのジェンダーになれたハズなのに、あの子、女子好きだったのかな? で、ボクが強かったから男だと思ったとか? 」


 微妙に納得行かない様子だが、集合の時間になってしまい、



「ん~ま、そう言うことなら次ガンバるか~」

 







< continue to next time >


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相手の望む逆にしかなれないことに気付くまではまだまだ先のルナ。そしてその事が思いも依らぬ方向に ?!


こんなポンコツ少女のルナを憐れに思って頂ける方、☆・♡・フォローいただけると励みになります。もしよろしければお願いします。

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