第2話 あがきの日々 ~天才空手女子の憂鬱

 



 今日も放課後のルーティンワーク。

 依頼を受けて『虐め撲滅』ヘ。


 長い髪を後ろに束ね、淡いとき色の短い半袖カットソーにレギンスとホットパンツ姿。

 少女は子鹿のように軽やかにひた走ってゆく。



 ……とかくこの世は不条理だ。

 人生も、運命も、ロシアンルーレットに翻弄ほんろうされる様にどこに辿りつくかまるで解らない……

 善き行いで何かを得られたり、人助けしたら誰に見られてなくても評価される。そんな世界なら納得の行く人生に成るんだろうか……。



 息を弾ませ街を駆け抜ける少女。

 流れる視界、呼吸音だけの世界。

 そして脳内を巡るいつものボヤき。



 ……いじめや戦争、そうした中で割をくうのは大抵優しい人達だ。

 そんな者を生む世界を造り続ける神にとって善が理想では無いとでも?……


 第一こんな不運の連続で何を信じろって言うんだ!

 結局、この世に生まれた意味なんか一生分からないんだろうな……



 ブン、と首を強く横振りすると、更なる加速でガードレールをエアリーに飛び越え車道へ移る。


 今日もボクはこんな事を。これ以上壊れない為に。でも今はただ、こうしてないと……


 ハッ !! ……


 違う!! ボクは元気系女子になると決めたはず!

 天才カラテチャンプ・月夜野瑠奈つきよの るなだ! 誰にも、何にも負けないんだっ!



「今日も楽しくお助けトレーニング! 走り込みにシャドー、そんで必殺の蹴り技~っと」


 走りを弱めて蝶のようなフットワーク。突き、蹴りのコンビネーション連打を放つとフワリと跳躍、きっさき鋭い飛び後ろ回し蹴りを華麗に決めて再び走り出す。


「そしてそして~、依頼の場所へ! イジメっ子を容赦なくブッ潰す!」


 優しくて大人しい子ほどしいたげられる。何で罪の無い人がそんな目に!

 神よ、お前が不甲斐ないからだ!

 ボクもそうだった……そのせいで巡り巡ってお兄ちゃんが……くっ……。


「ん、あそこか。あの子、可愛そうに……」

 イジメの現場を押さえ、しばし確認。


 ……でも折角救って貰った命。

 天国のあの人に誇って貰える自分になる。

 今はもうそれでしか恩返し出来ない。

 ならやってやる! きっとこの才能は、その為に与えられたんだ!


『ドゴッ、バキッ、ドガッ、スパァァァァン』


 イジメの最中に割り込むや、その空手技が炸裂。問答無用に悪ガキ共をボコボコにして撃沈。

 被害者からの依頼と悟られぬよう、毎度の如く即座にその場から立ち去るルナ。



 いつもの公園に立ち寄り茜色の空へと報告する。


 お兄ちゃん……あなたが救ってくれた様に、今日もボク、やったよ ! これで良いんだよね ?!

 こうやって人の役に立ってれば、いつかきっとボクは……。



  ***



 翌日。

 依頼場所へと走るルナ。この日、既に2件目の現場へと向かう。


「いや~爽快爽快~。 虐め動画なんてスマホごと粉砕の刑! こ~んな感じでトレーニング兼ねて人助け。

 もう最っ高~! 」


 その2件目、実はルナの制裁活動への復讐だった。ネット掲示板を特定され、被害者を装われて誘い出されていた。だが依頼文が不自然な事からそれを見抜いていたルナ。


「んで、もっと楽しいのが、そう! お礼参りの返り討ち !!」


 待ち伏せする男達。ルナの強さを知るが故、ありったけの人数を掻き集めていた。

「おい、あのアマだ、こないだのサトシのカタキ、ふんづかまえてヤッちまえ!」


「フン、女って直ぐ舐められる。30人ってとこか。ま、でもこんなの軽~く一蹴!」


 優秀者のみが挑戦させて貰える空手の荒行『百人組手』の覇者ルナには何の恐れもない。


 そして並の高段者と比しても群を抜く速さの突きと蹴り。全身バネの攻めと引き戻し、天性の勘と判断で次々打ちのめしてゆく。


 とは言え可憐で細身の女子、とあなどっていると次の瞬間、息が止まる程の重い衝撃にあえぐ事になる。

 大地を蹴る抗力で瞬時に増やした体重を余す所なく、それも筋力と関節の動きを極限まで生かして野獣の如く獰猛どうもうに撃ち抜く。



「もっと強いヤツをよこしなよ! 手応え無さ過ぎ~!」


 スパンスパンスパンスパン、ズバンッ!!


 慎重派へは容赦無き怒涛の攻めですきを作り、左右の蹴りの連打からトドメのハイキック。


 それを恐れる者へは下段、中段蹴りの嵐。

 更には蹴り上がる猛襲を嫌って固くガードする腕を弾こうとする瞬間、膝からのフックで軌道を変える。


 シュパァァァ――――――ンッ!!!


 後頭部を上から蹴り落とす必殺のブラジリアンキックが炸裂。カマキリより速く刈って苛烈に地に叩き付ける。


 多勢を物ともせず面白い様にぎ倒して行く美少女。圧倒的な強さ。

 そう、ルナに敵など居なかった。


 こうして日々、虐めの連鎖を断って行った。

 



 だがこの日、打つ手を無くした男共は遂に……


『コ……コイツ……おいっ、遊びはここまでだ。お前らアレ、出しちまえ』


 残った10人程が刃物を抜く。本気の仕返しだ。

 ルナは驚きもせずそれを横目にダルそうにポケットに手を伸ばす。


 ジャラッ、シャキッ


 と携帯用の伸縮ヌンチャクを取り出し伸ばして構える。



「そっちが覚悟決めたんならこっちも受けて立つわ」



 目にも留まらぬ速さの威嚇回しと空気を切り裂く旋回音。伝説のカンフースターを凌ぐその多彩なさばきぶり。

 息を呑み怖気おじけ立つ刃物男たち。

 

 ピタッ、と決めのポーズから、

「来いよ……来ないなら行くぞ」




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16817330660964713605




 それは一瞬の出来事。

 飛び込んだ刹那、六人同時に卒倒。やられて初めて攻撃されていたと分かる不可視のヌンチャクの猛襲に頭から血を噴き出して倒れていた。


 残った四人は踏み込むブラフだけで恐れて逃げ出した。



「ただコレ、金属製で重いから当たるとマジ頭蓋骨骨折するわ大出血するわで無慈悲なんだよねー

……出来れば使わせないでね。じゃぁね~っ!」


 ドクドク流れ出る血の海をヒョイと乗り越えてく元気印風の空手美少女。



 でもちょっとやり過ぎ? 神様への腹いせっぽかった? いや、人助けの延長! あっちが悪い。

 にしてもこの天才の名を欲しいままにしたボクを満足させる奴はいないのか?! 手応えないね~!

 で、もう一つ手応え無いのがそう、



 ボクの恋愛事情だぁ――っ。



 今日も助けた可愛い子に精一杯の勇気を振り絞り、声をかける。あの妙な老婆にカノジョを作れと言われたのも気になっていた。


「ホントにありがとうございます。何かお礼出来ることがあれば……」


「じゃあ、その……ガールフレンド……っていうか、例えばカノジョとして付き合ってくれるって言うのは、どうカナ……」



「……え ?!」





 

< continue to next time >


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 その奇行にどんな理由が?!

 もし、こんなルナが報われる日が来るのを応援しても良いと思う方は、☆とフォローをいただけると嬉しいです。

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★ この作品は文庫本1.5冊くらいで完結です。結末へ向けて後半は怒涛の展開となります。


※ まだAIイラスト製作にトライ出来ていないので、挿絵はibisペイントでやってます。


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