うっかり生配信中に秘匿の魔術を披露した魔術師、大バズりして芸能界入りしてしまう ~怪異に悩むアイドル、女優、芸能人を救って芸能界で成り上がる~
黒井カラス
第1話 生放送
この世には人々に知られていない秘匿された事柄が幾つも存在する。
「すばしっこい奴!」
例えば普通の人間には視認すら出来ない怪異と呼ばれる化け物が存在することや。
「イヅナ。目立ちすぎだ、一度戻れ」
「嫌だね」
怪異を祓うために魔術師が存在すること。
この秘匿は決して開示してはならない。
「あと少しで追い付く!」
ビルの壁面を蹴って跳び回り、紫色の稲妻が尾を引く。
全身で風を切りながら眼下に捉えるのは、空を泳ぐ大蛇。
するりするりと隙間を縫い、どんどん都心へと近づいていく。
「やるなら速くしてくれ。人目が多くなると怪異が視えやすくなる」
「わかってるって。一般人にこんな馬鹿デカい蛇を見せたらパニックになっちまうだろ!」
怪異は一般人には見えないとはいえ、人が多いと視認されやすくなる。
携帯端末とかカメラとか何か一つフィルターを挟むだけでも段違い。
昔はよくテレビでやってたらしい心霊写真が発生するのもそのせいだ。
「そうら、頭上を取ったぞ!
「人使い、というか式神使いが荒いな」
背後に現れる魔力を帯びた大鷲。
翻ったその背中を蹴って急落下。
稲妻が落ちるように、雷鳴を轟かせて大蛇の頭部を打つ。
頭蓋を砕き、脳を壊した致命傷。
通常ならここで塵に成って消えるはずだけど、今回は往生際が悪かった。
「うおっと。この死に損ないめっ!」
高度を落としながら、のたうち回る。
存在が霧散するまで暴れ回る気だ。
「不味いぞ、イズナ。大勢が下敷きになる!」
「わかってんだよ、そんなことは!」
振り回されながらも右手に稲妻を集束させ、再び脳天に稲妻を落とす。
雷鳴を伴う一撃は今度こそ大蛇の存在を霧散させ、地面スレスレで事なきを得る。
「ふぅー……危ねぇー。もうちょっとで大勢ぺちゃんこに――あ」
大蛇の霧が消え失せて露わになった周囲には考え得る限り最悪の光景があった。
大勢の一般人と、どこかで見た覚えのある顔ぶれと、テレビカメラ。
この場にいる誰もが唖然とした表情で俺を見てる。
あれ、これ、もしかして不味い?
「……じゃ、じゃーん! ゲリラパフォーマンスでしたー!」
大げさに身振り手振りをして、口が動くままに出任せを言う。
「今のってパフォーマンスなの?」
「本人がそう言ってるし」
「なにこれ? ドッキリ?」
「てか、今のどうやった? 立体映像?」
「なんか大きな蛇と雷が見えたけど」
「すごーい」
これは誤魔化せたか? 怪しい?
「え、えーっと。というわけでね、飛び込みのパフォーマーみたいですね、えぇ。みなさんどうでしたか? 私なんかはそれはもう驚きましたけれども。大変、素晴らしいパフォーマンスだったのではないでしょうか」
どこか見覚えのあると思ったら、お昼の番組でよく見てる芸能人だった。
その中でも一番のベテランが場を繋いでくれている。
今のうちに逃げたほうがよさそう。
「それじゃあ、バイバーイ」
軽く手を振って足早に退散。
人混みに紛れて姿を消し、人気のない路地へと逃げ込んだ。
「やべぇ、どうしよう」
「やってしまったな、イズナ」
空から大鷲が下りて来て、八百人の腕に止まると同時に掻き消える。
「地上波進出おめでとう。魔術界は大激怒間違いなしだ」
「脅かすなよ、八百人。今までにもこう言うことはあったろ? また圧力掛けてもみ消せば万事解決だ」
「いつもならね。でも今回はそうはいかないと思うよ」
「なんで」
「ほら」
八百人が俺に見せたのはタブレット。
光を放つ液晶には先ほどみたばかりの出演者たちが描かれている。
場所も、数いる一般人の規模も同じ。
すなわち。
「この番組、生放送だから。生配信もされてるよ」
「うそぉおおおおおおおおおお!?」
俺の人生、終わったかも知れない。
§
魔術師は古来より怪異から人々を守ってきた影だ。
その存在は決して知られてはならず、今日に至るまで秘匿され続けて来た。
秘匿され続けて来たんだけど。
「この大馬鹿もんが!」
年老いた爺とは思えない大声が魔術師の総本山、霊峰
「あれほどっ、あれほど気を付けろと散々言いつけてきたというのに!」
「面目次第もないです」
「本当にっ、本当にお前という奴はっ」
まだ怒鳴り足りないのか、大きく息を吸い込んだ。
鼓膜の無事を祈りつつ大声に備えていると、後ろのほうで障子が開く音がした。
「和尚、そこまでにしてあげてくださいよ。彼も反省してるみたいですし」
「音無か」
髭を生やした四十代ほどの男。
彼の名は
魔術師の最高戦力の証である白冠の称号を持つ数少ない者の一人。
「それにね、和尚。今の時代、テレビやネットを相手にして魔術師や怪異の秘匿には限界が来てるんです。今回の一件はある意味、起こるべくして起きたことだと僕は思いますけどね」
「お前の言うとることはわかる。だが失態は失態だ。なんらかの処罰を与えんことには他に示しが付かん」
「そう言うと思って持ってきましたよ。彼の処遇がここに書いてある」
「ふむ。どれ」
音無さんから和尚に書類が渡る。
気分はさながら判決を言い渡される前の被告だ。
俺はどうなる? 最悪、家が潰される可能性もある。
それだけは、これまで脈々と受け継がれてきた血統魔術を、俺の代で途絶えさせるのだけは阻止しなければならない。
あの書類にはなにが書いてある?
最悪のことが書いてあったのなら、それをどう回避する?
頭の中は目まぐるしく、巡っていた。
「ほう、なるほど。こう来たか」
「こう、とは?」
「
「はい」
「お前、芸能人になれ」
「は?」
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