第43話
どんな国にも、美しい風景に隠された歴史があるのだろうな、なんて周囲を見ながら思う。やはり、場所によっては生活水準の差が大きい。まだ、帝国は対処をしている方だと思うけれど、帝都に近いほど水準は高い。それもよくある話だ、どこの国も一番発展するのは地方ではなく都。
道行く人々の顔は柔らかな雰囲気で、何かに困った様子などは見られない。観光客にも、優しく道案内をしているのを見ると、心に余裕のある暮らしをしているのはすぐにわかった。私がエインズワース伯爵領では見られなかったものだ。外出もなかったので、ずっと見ていたわけではない。
それでも、なんとなくで窺い知ることはできるくらいに、疲弊していたのは言うまでもない。領主の裁量が悪かった、と言える典型例でもあるか。領主どころか国家としての統治能力にも問題があったけどね。
「まもなく、次の地方です」
「もうですか、あっという間ですね」
「移動がゲートに変わったので、かなりの短縮に。殿下の仰る通り、馬車移動なら次の目的地までは、さらに三日ほどかかります」
「さすが転移ゲートです。私は、こちらに来るまで転移ゲートを使ったことがなくて、とてもびっくりしました。一部地域の設置かと、勝手に想像していたので」
まず驚いたのは、転移ゲートの設置場所。まさか全地域に設置されているなんて、思いもしなかった。帝都に五ヶ所、各領地に一ヶ所の設置だが、そもそも設置するにも魔法を扱える人物がいないとメンテナンスもできない。魔法を扱える人たちの地方での雇用を生むと同時に、物流などの不便さも解消。
転移の魔法陣を安全に使うには、当然メンテナンスを行う必要がある。そのメンテナンスを行うには、魔法を扱える人が必要。人材を首都に集めるのはよくあるけれど、そうすれば地方は人が少なくなり、衰退していく。それらの状況を踏まえて、考えたうえでの設置。
「たしかに、最初はその案で進む予定でした。ですが、それに待ったをかけて全領地への設置をさせたのが、シリル殿下です」
「シリル兄さまが、ですか?」
「はい。シリル殿下は、魔法を学ぶ者たちが就職先に困っているのを、よくご存知でした。学校で高水準の魔法を学んでも、地方に帰れば活かせる場所などない。そんな状況なら、いっそのこと全ての領地にゲートを設置すれば、地方に帰って働きたい者たちに職がある。ゲートを設置できれば、今度は物流も解決する。予算のオーバーは、十分に後で巻き返せる範囲だ、と」
「そう、ですよね……設置には多額の予算が必要……でも、それを取り戻せるだけのメリットが十分にあった……」
ある意味、勇気のある行動とも言えよう。予算内に収めることが重要ではあるが、それを超えてでも行う価値があると設置するのは。わかっていても、実際に使ってみないとわからない。試しにどこかに設置とかならまだ、試験的な運航なので他貴族の反発も少ない。
でもそれは、設置されない地域の貴族からすると、設置してもらえないのはなぜか、という争いに発展しかねない。どこの地域も平等に、恩恵を受けられるように。これはシリル兄さまだけではない、この国を支える国民たちの声を、皇族たちがよく聞いている証。
「もちろん、反発は多くあったと聞いております。予算オーバーの件も含めて、使うかどうかもわからないものに、そこまでの投資をする価値があるのか、という厳しい意見もありました。警備で城内を歩いている私にも、そういった声が聞こえるくらいには長い審議でした」
「実際に使われないとわからないですものね……」
「はい。ですが、結果的にここまでさらに国は発展しました。自分たちの声が届いているのだと、私の故郷でも喜びの声が上がっていて……」
嬉しそうに笑うアランに、私まで嬉しくなってくる。ここまで評価をしてもらえると言うのは、すごいことだから。誰しも意見は違うし、その時に持つ感情だって違う。きっと、別にあってもなくてもいい、と思っている人たちもいたはずだ。
結果論でしかなくとも、きちんと良いように国を発展させたシリル兄さまも、お父さまも、凄い人。私は辺境伯の娘だったけれど、何一つ力にはなれなかった。すでに腐敗しきった国、と言えばそれまでだが。
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