第37話:王都観光1
異世界に渡れる平日の夜に、王様とどら焼きの特訓を続けていると、あっという間に月日が流れる。
最初からあまり時間がなかったことも影響して、すぐにホウオウさんと接待される日がやってきた。
不安要素はあるものの、完璧を求めていたら、何もできなくなってしまう。
今できる精一杯のことをやって、ホウオウさんをおもてなししよう、という形で話がまとまっている。
よって、ホウオウさんと一緒に王都を観光する私は、朝から大忙しだ。
異世界の貴族が通うオイルマッサージを受け、王城のメイドさんにおめかししてもらった後、オーダーメイドで作ってもらったワンピースを身につけた。
上質なシルクで作られているため、とても肌触りがよく、着心地がいい。
メイドさんが髪の毛も綺麗にセットしてくれたので、自分で言うのもなんだが、この世界で暮らす貴族令嬢に変身していた。
そんなこんなで、火の妖精をもてなす案内役でもある私は、ホウオウさん……改め、ホウさんと一緒に街に繰り出している。
身バレを防ぐために呼び名を変えているのだが、もしも彼が火の妖精だと知られたら、王都は大騒ぎになるだろう。
日本でトップ芸能人が身バレするよりも、遥かに危険な行為かもしれない。
街中で拝まれても困るし、火の妖精を偽っていると誤解されたら、どんな騒ぎに巻き込まれるかわからなかった。
ちなみに、あくまで今回はファンダール王国による接待なので、エマは日本で留守番している。朝と夕方に送り迎えをお願いしているので、漫画に夢中にならない限り、ちゃんと来てくれるだろう。
シルフくんに関しては、妖精が二人もいるとややこしくなるため、遠慮してもらっていた。
だから、今日は思う存分、観光と接待を楽しませてもらおうと思っているのだが……、ファンダール王国の立場も難しい。
国が祀っている火の妖精と、女神の使徒である私を怪我させるわけにはいかないと、騎士たちが離れて護衛してくれている。
安全に王都を観光できるのであれば、文句を言うつもりはない。
逆に気遣わせてしまって申し訳ないと思うので、その分ホウオウさんをいっぱいもてなそうと考えていた。
「随分と景色が変わったものだな」
興味深そうに周囲をキョロキョロ見回すホウオウさんは、早くも王都の観光を楽しんでいるように見える。
「やっぱり普段は大森林からあまり離れないんですね。王都に来られるのは久しぶりですか?」
「ああ。賑やかなところは嫌いではないが、妖精が街を巡回するものではあるまい。たまに思い立って、自国の街を上空から観察するくらいだ」
もしかしたら、火の妖精が信仰されているのも、そうやって姿を現してくれることが影響しているのかもしれない。
火を纏う大きな鳥を見たら、本当に妖精が実在して、国を守ってくれている感じられるから。
そのことを表すようにして、王都の街並みでも店の入り口に鳥の姿をしたホウオウさんの木彫りや雑貨品が飾られている。
すべての店がやっているわけではないので、自主的なものだろう。ホウオウさんが来るから用意したものではなさそうだった。
そもそも、王様に観光する許可をいただいただけで、私はどこに行くかを伝えていない。
自由に王都を楽しむ権利を得ているため、ブラブラと歩きながら、とある場所を目指していた。
異世界の文化に興味があるので、移動しながらも街中の光景を見て、ホウオウさんと一緒に楽しんでいる。
串焼き屋さんのおいしそうな肉の香りがしたり、カフェから甘い香りがしたりするが、ホウオウさんには食べさせられない。
エマやノエルさんの様子を見る限り、日本の方が食のレベルが高い……と自分に言い聞かせて、今回は我慢することにした。
これがエマと一緒に狩りをして、外でBBQするのであれば、話は変わってくるが。
……うん、そのプランの方がいいな。今度の休日は、BBQの予定を入れよう。
異世界に来てから、着実に充実した日々を迎えている私は、人生初のBBQを異世界ですることに決めるであった。
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