第24話:復活したシルフくん

「く、胡桃ちゃん……? こ、こちらは、か、風の妖精様じゃないかしら」


 突然現れたシルフくんを見て、ノエルさんは混乱していた。


 自分が神様だと崇めている存在が、急に目の前に現れたのだから、当然のことかもしれない。


 ノエルさんに隠すつもりはなかったけど、私もシルフくんのことがよくわからなくて、何とも言えなかったわけで……。


 ここは本人に直接話してもらった方が早いと思い、私はスポーツドリンクを出すことを条件にして、シルフくんに説明を任せた。


 真剣な表情で話を聞くノエルさんを前にして、シルフくんはスポーツドリンクをおいしそうに飲みながら話してくれる。


 出会って一緒に食事したことも、空間魔法で世界を渡ってはいけなかったことも、シルフくんと契約したことも。


 そして、彼の話が一区切りつく頃には、ノエルさんが申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「異界の人は魔力中毒に陥ると知らなかったとはいえ、胡桃ちゃんを危ない目に合わせてしまうなんて。本当にごめんなさい」

「いえいえ。体に異常をきたす前にシルフくんが助けてくれましたし、今後は異世界を動き回れるようになりましたから、問題ありませんよ」


 元はと言えば、私が行きたいと言いだしたのが原因であり、ノエルさんが悪いわけではない。


 女神に認められたお父さんが、エマの空間魔法で行ったり来たりしていた分、余計に問題をややこしくさせている。


 それが例外なだけだなんて、普通は気づくことがないから、仕方のないことだろう。


 結果的には、みんなが幸せな方向に向かっているので、文句を言うつもりはなかった。


「それにシルフくんの魔力があれば、普通ではいけないところも行けるようになるみたいなんですよ。異世界旅行が捗りますよね」


 日本でも『関係者以外立ち入り禁止』という区域が存在すると、興味本位に覗きたくなってしまう。


 異世界で女神に選ばれた人しか入れない聖域ともなれば、胸が躍らないわけがない。


 しかし、ノエルさんはそうではないみたいで、顔が引きつっていた。


「胡桃ちゃん? それって、聖女様のお仕事か、女神様のお仕事ではないのかしら」

「今、なんて言いましたか?」


 不穏なことを指摘され、思わずノエルさんに聞き返してしまう。


 私は異世界で自由に動ける権利を手にしただけであって、聖女や女神の仕事を委託された覚えはない、はずなのだが……。


「普通の人がいけない場所……つまり、王族が管理している神殿や妖精様が住まう土地、いわゆる聖域に足を運ぶのよね。遊びに行くような場所ではないから、何かしら役割を求められるんじゃないかしら」


 言われてみれば、確かにそうだ。いや、異世界という存在に浮かれて気づかなかっただけで、普通に考えればわかるだろう。


 観光に行ってもいい場所ではない、と。


 思わず、追及するようにシルフくんにジト目を向けたら、そっぽを向かれてしまった。


「シルフくん? 何か話さなきゃいけないことがあるんじゃないかな。大きな役割を担うことはない、とか言われた気がするんだけど?」

「ボ、ボクもちょうどその話をしようかなーって思ってたところだよ」


 本当かなー? と疑いたくなる気持ちはあるものの、わざわざ日本で姿を現したのであれば、何か理由があるはずだ。


 エマじゃあるまいし、どら焼きに釣られた、とかではない……と思う。


 残っていたものを一つ出してあげたら、喜んで食べ始めたけど。


「先に言っておくけど、昼間にも言った通り、胡桃にやってもらうことはほとんどないんだよ」

「ほとんど、ね?」

「そんなに揚げ足を取らないでよ。胡桃にも悪い話じゃないんだからさ。だって、ボクと一緒に聖域を訪れたら、絶対に出会うことがない妖精たちと触れ合えるんだよ?」


 うぐっ……。それは確かに魅力的ではある。


 異世界らしい場所に向かい、ファンタジーな妖精たちと触れ合えるとなれば、とても楽しい旅行になりそうだ。


「じゃあ、ノエルさんの言ってた聖女や女神様の仕事っていうのは?」

「今の世界には必要のないことだから、胡桃がやる必要はないって感じかな」


 どういう意味なんだろう……と思い、ノエルさんに顔を向けても、私と同じように首を傾げている。


 それを見たシルフくんは、仕方ないなーと言わんばかりに大きなため息を吐いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る