魔王様は逃亡中

@naoto_yamagata

第一章

第0話 プロローグ

魔王、サイトゥは魔王になんかに、なりたくなかった。

そもそも事故みたいなものだ。

自分の稚拙な行動に反省の日々だ。


今日も新・魔王城に軟禁中のサイトゥは食堂で乾いたイカを齧っている。


「魔王様!コレコレ!」


突然、大声がして、食堂のドアが開けられる。

そこには、悪魔幼女のラウムがいた。

美少女だが、おかっぱ頭にはねじくれた角が生え、肌は燃えるような赤色だ。

首には暴力を体現する太いチョーカーをはめ、革でできた水着のような衣服を着ている。


そして、彼女の後ろには何処から持ってきたのかわからない、妙な鋼鉄製の人形の様なものが置かれてる。

ラウムは満面の笑みで、ドアになっている人形の胸部を開ける。

そこには無数の金属製の針が内向きに生える様にしつけられている。


「これは、アイアンメイデンと言われる、レジャー器具、いえ、健康器具です。」

「なん・・だと・・・」


明らかに拷問器具と思われる異形の人形を前に、これに俺を閉じ込めるつもりかと、ペットだか娘だか分からない、クロの変化しているナイフに手をかけるサイトゥ。


いよいよ、殺しの時間かと、わくわくするクロである。


「あー最近、肩がこるのですよ・・・あ、ここに健康器具が。では・・・・」


そう言って、ラウムはサイトゥの前で服を脱ぎだす。


「何故、服を脱ぐのだ?」


もう、わかってきたサイトゥ。


「はい、服が破れますので。この健康器具は。」


あくまで、健康器具と言い張るラウムは全裸になると、自ら、人形の中に入る。


「はぁはぁはぁ・・・さあ、魔王様。少しずつ、少しずつ、ゆっくりと扉を閉めてくださいな。」


上気した顔で、うっとりとし、呼吸を荒くするラウム。

こいつは、自分を拷問しろとサイトゥに言っているのだ。


「えぇ・・・・」


ドン引きするサイトゥ。


「お父様、この変質者の希望通り、とっとと扉を閉めちゃいましょう。私が、閉めちゃいましょうか?」


ナイフより妖精の姿に戻って、サイトゥの隣に浮かぶクロが、ニヤリと笑う。


「いやだぁ・・・魔王様がぃぃぃ・・・魔王様がぃぃぃぃぃ魔王様じゃなきゃいやだぁぁぁぁ・・グスグス・・」


既に針が体の各所に刺さりつつ、興奮して、泣きながらサイトゥに懇願するラウム。

悪魔幼女が全裸で針に刺され人形の中で懇願する様は、まさに地獄の光景であろう。

いや、そんな地獄など無い。


「死ね」


ガチャン!!!!


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!」


金属の大きな音を立てて、人形のドアが完全に閉まる。

それと同時に、鶏を絞め殺したかのような悲鳴が人形から聞こえる。


後ろからエプロン姿のアンナがドアを蹴り閉めたのだ。


アンナは今日も完璧な長身美人である。

エプロンを着ていても、その抜群のプロポーションを隠しきれない。


そのアンナは手に煙を上げて香ばし匂いをさせる中華鍋を持っている。

そして、熱い鍋を、素手で保持だ。


ぎぃぃぃぃぃ・・・


「お前じゃなぃぃぃぃ魔王様がぃぃぃぃ・・・お前は殺すぅぅぅぅ」


全身血まみれのラウムが人形のドアを開けて出てくる。


その姿に恐怖するサイトゥ。

サイトゥを守るべく、宙に浮きドリル状態になって回転を始めるクロ。

笑いながらそれを見るアンナ。


「面白い、やってみろ。セットアーップ!」


中華鍋を放り投げるアンナ。

それを恐怖の顔で避けるメイドのアンリエッタ。


アンナの後方で大きな魔法陣が展開し、そこから禍々しいフルプレートの鎧が亜空間より召喚される。


新・魔王城の食堂の混沌さは他に追随を許さない。


そこで、サイトゥは半泣きである。

魔王様なのに。


この物語はこういった酷い話なのである。

そして、話は少し前に遡る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る