吸血鬼のお嬢さん

 辺りには緊迫した空気が伝わる。


 ネクロスは目の前にいる美女を睨む。


 ロベリアは目の前の少年を見て妖しい笑みを浮かべる。


「会うのは2度目ね」


「あぁ」


「私はこの都市の人間が殺せればいいと思ってたのよ。なのに貴方が現れるなんてとても嬉しいわ」


「そうか」


「こんな幸運があるのね」


「だな」


「あら。そんな余裕そうにして……勘違いしているようだけど死ぬのはあなたよ……ネクロスさん?」


「そうかもな……お嬢さん?」


 2人は戦闘態勢をとる。


 強き者同士、相手の実力が並外れたものではないと分かる。


 互いを相当な実力者と理解しているからこそ、なめてはかからない。


 本気勝負だ。


───ネクロスは剣を。


───ロベリアは水と融合した大量の血を向ける。


 そして戦いは始まった。


 最初に動いたのはネクロスだった。地面を踏み込み間合いを詰め剣で薙いだ。


 だがロベリアは血をあやつりそれを防ぎ「そんなもの食らうわけ」と言わんばかりに嗤う。


 そして。


「……っ!!」


 都市を崩壊させた大量の血が闘技場内のネクロスを襲う。観客は悲鳴を上げながらも避難を急ぐ。


 大量の血の触手は刃に姿を変え1本1本に「殺してやる」と意思が宿っているかのようにネクロスを追う。


 凄まじい速さに加え不規則に動くそれにネクロスは傷を負いながらも臨機応変に対応していく。


 時には大量の血が融合し巨大な刃の一撃としてネクロスを襲うがそれらを受け流し。


 時には無数の槍に形状を変えネクロスを囲むが剣を天へ振り上げ吹き飛ばす。


───そして長くも短い防戦の末に辺りに脅威はいなくなる……


 ロベリアはネクロスを鮮やかな血の色をした瞳で捉える。


「前に見た時は『善人は殺せない』腑抜けで、か弱い子って印象だったけど間違いだったわね……」


「それで油断してくれたら良かったがな」


「対峙したらあなたが強い事ぐらい分かるわ」


 ネクロスを襲った大量の血は彼により切り刻まれ、地面を這い周りの血と融合し元に戻ろうとしている。


 だが邪魔な血が融合する前にネクロスはロベリアに接近戦を仕掛ける。お喋りは中断だ。

 

 ネクロスは魔力で強化された1歩でロベリアの前に現れた。


 ロベリアは驚きはしたがその動きに対応し、体内の血液を操りネクロスにぶつける。


 ……だがそれはロベリア視点での話。対応したつもりだったがもうそこにネクロスはいなかった。


 そして背後から声が聞こえた。


「お嬢さん。こっちですよッ」


「……ッ!?」


 ロベリアの腕が宙を舞う。ボタボタと血が垂れていく。


 ネクロスは手をゆるめず次のモーションに移り、ロベリアの脳天を目掛けて剣を振り下ろそうとする。


 ロベリアはその攻撃を右に跳んで避けようとしたが失敗に終わった。ロベリアは転んだのだ。


「なッ!?」


 ロベリアは何も無い所で転ぶほどドジではない。ならなぜ?ロベリアは脚に感触を憶えそこを見た。


 そこには持っていた剣を鞘にしまい、ロベリアの片脚を両手でガッチリと掴んでいるネクロスの姿があった。


「避けると思ったよ。だから逃げられないよう掴ませてもらった」


「放しなさいッ」


 ロベリアは再生しだしている腕で立ち上がろうとしながら脚をバタバタさせる。


「離しなさいッて……ぎゃッ!?」


 「離しなさいッて」そう言った瞬間ロベリアは宙で加速した。


 ネクロスが本気でぶん投げたのだ。そして闘技場の壁をぶち抜き外に出た。


 破壊された壁の瓦礫に埋もれながらも立ち上がる。吸血鬼の再生力は凄まじく腕はもう再生している。壁をぶち抜いた時の傷も治っている。


 なぜだか黒のローブを回収してからネクロスが迫り来る。


「思ってたより弱いな」


「舐めないでくれる?闘技場が狭くて自由に動けなかっただけよ」


「口だけじゃなきゃいいな」


「あなたこそ。私を煽って自分を大きく見せて恐怖を軽減させようとしてるくせに」


「なんのことだか」


 ネクロスとロベリアの戦いは場所は闘技場内から闘技場外へ移行した。


 ネクロスは一瞬にしてロベリアの間合いへと詰める。ロベリアはそれに反応出来ずに剣を食らう。


 腹を斬られ出血するがすぐに再生した。


「吸血鬼の能力か」


 ロベリアは近接戦は相手が格上。近づかれたら危険と感じ、崩れた建物を跳び移り後退する。


 そして大量の血をネクロスへぶつける。


 ネクロスを体を捻りながら血の触手のようなものを避ける。


 だがキリがないと見てネクロスはその場に止まり魔力で体を全力強化する。


 そしてまばたき一回分で全ての触手を細切れにし、一時的操作不能にした。


「もう、準備は出来たわ……!」


 だが血の触手を相手している間にロベリアは余った血で技の準備をしていた。


「……プラネット・スピア」


 ネクロスの周りには大量の球体が宙を浮かんでいた。


「───ッ!?」


 そしてその球体は突然、槍に変貌してネクロスに襲いかかる。


 だが彼は剣でそれを防ぐ。防ぐことは出来る。


 しかし防いでいたら反撃に繋がらず、相手の思うがままに動く事になる。


 そして血の槍の死角から美女が飛び込んできた。


 その手には血で造られた深紅の大鎌があった。


 ロベリアは大鎌を振り下ろした。


 しかし。


「なッ!?」


 ロベリアは「今なら行ける!」と思い血で鎌を造り背後から切り裂こうとした。


 それが失敗だった。


 ネクロスは剣の達人。


 遠距離はロベリアでも、接近戦は彼のテリトリーなのだ。


 彼女の攻撃をネクロスは普通に避け首根っこを掴み首を180度折った。


 続き、ネクロスを襲っていた血の槍の盾にされ、遠くに投げ捨てられた。


「痛いわね。はぁ、もう近づきません……」


 ロベリアは首をギュルンッと元に戻し槍に貫かれた体を再生する。


 ネクロスに血の触手を向けようとしたが、どこにもいない。


 周囲を見渡すと瓦礫の山に覆われていた。投げ捨てられ場所が変わったのだろう。


 そう思っていたら。


「ッ!?ゴフッゴホッ」


 口から血が垂れていた。肺に穴が空いていた。


「どこ?」


 ロベリアはすぐに傷を再生し見つからないネクロスの気配を探る。


───目の前!?


「バレた」


 ロベリアは目を疑った。そこには先程までいなかったはずのネクロスがいた。


 いや、先程までもいたのだ。崩壊した光なき都市の夜。ネクロスが羽織る黒のローブが夜に紛れ込む。


 目を凝らしてもギリギリ見えるかどうか、そのくらいまでに闇に擬態していたのだ。


 そして影は動き出した。


 ロベリアはその影に触手を放つ。だが当たらない。そこにはもうネクロスはいない。


 そして気配を探りまたそこに触手をぶつける。だが当たらない。


 ロベリアの体にだけに傷がついていく。


 気配はあるのに、目で見えないだけで。


 ロベリアの胴と脚が分かれる。


 混乱し動きが遅れる。


 続いて胴と腕が、最後に心臓を狙われる。


 だが。


「ッ。やめ、なさいッ!!!」


「ッ!!」


 全方位に血の触手が強襲する。これは見える見えない関係なく近づけば攻撃があたる。雑だが強い。


 ロベリアは体を再生し状況の打破に取り掛かる。全方位に放った血の触手を分離させ大量の球体をつくる。


「プラネット……」


 ネクロスはさっき見た槍に変化する球体だと考え防御態勢をとるがそれが失敗だった。


「オーシャン」


「───ッ!?」


 血の球体は槍に変化する事無く弾けた。


 そして辺りには血の海が出来上がる。周りにあった瓦礫など全てが血の色に染まった。


 それは真っ黒なローブも例外なく。


「みぃ〜つけた」


 弾けて血の海へと変わった血はすぐに槍へ変化した。もちろんローブに付着した血も例外なく。


 そして、一気に貫いた。


 だがネクロスは血が弾け付着した時にはローブを脱ぎ捨てていた。


 だが一瞬の攻防、一度でも槍の攻撃がくると思ってしまったネクロスは甘かったのだ。


 ネクロスの脇腹が貫かれてしまっていた。出血が多い。早く決着をつけなければいけなくなった。


「ゴフッ……少しやばいかも……」


 ネクロスは吐血し自分の血を見て呟く。


「ふふふ。苦しそうね」


「はっ。このくらいなら、まだ動けはするさ」


 そしてネクロスが不利な状況で戦いは第2ラウンドへ移った。



 


 

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