第197話バーレン 巣くう者

「グ・ギィ・・・コロセ?・・・」



「ゴロス・・・・・」



竜魔人達は、アイシャとラゴを睨みつけている。



「前に会った時とは、少し違うように見えるが・・・」



「どういう事じゃ?」



「わからぬが、何か、おかしいのじゃ」




「ほぅ・・・・・」




確かに目の前の竜魔人達は、話し方が、カタコトで、不気味な感じがする。


だが、倒す以外の選択肢はない。


竜魔人の数は、10人。


ラゴとアイシャは、頷き合うと、速攻をかけた。



ラゴは、竜魔人の首を落としたが、

やはり、おかしい。


確かに、倒した体は、そこに横たわっている。


だが、切った感触に、違和感を感じた。


「むぅ・・・」


違和感を感じながらも、

残りの竜魔人との戦いに挑む。



アイシャも、負けじと攻撃を仕掛ける。


風の魔法『ウインドカッター』を使う。


四方に散らばった風の刃は、勢いを増し、竜魔人達に襲い掛かる。


その攻撃は、致命傷には、ならなかったものの、

竜魔人達の手足を負傷させ、身動きを鈍らせることに成功した。



「このまま、決めるのじゃ!」



2人は、足を止めることなく、止めを刺して回った。



「グギャァァァ!」


「グゥゥゥゥゥ・・・・・」



竜魔人達を、倒した。



「なんか、呆気無かったのぅ」



アイシャが剣を収め、一息ついたその時、

ラゴが切り落とした竜魔人の首が静かに動き、

アイシャの腕に噛みついたのだ。



「ガァァァァァ!」


突然、腕に噛みつかれ、叫び声を上げるアイシャ。


急いで、ラゴが引き剝がそうとするが、アイシャの右腕は食い千切られた。


そして、その竜魔人の首は、黒い鳥へと変化し、空へと舞い上がる。



「黒い鳥だと・・・・・」



「グェグェ」



あざ笑う様に、腕を咥えたままの黒い鳥が鳴く。



「絶対に許さぬ・・・・・」



血を流しながら

左手で剣を握るアイシャ。


勢いのまま、黒い鳥に襲い掛かるが、簡単に躱された。




「クェェェェェェエ!!」



アイシャの腕を飲み込んだ黒い鳥が、大きく一鳴きすると、

切り刻まれた竜人達の死体に変化が起きる。




突然、グネグネと動き始め

黒く大きな鳥へと変化したのだ。



「グェグェ!」




目の前の光景に呆気に取られるラゴとアイシャ。



「この者達は、何者なのだ・・・・・・」



驚いている間にも、変化した黒い鳥達が、2人に襲い掛かる。


必死に、変化した黒い鳥を倒したが、

結界の亀裂からも黒い鳥は現れ、襲い掛かってくる。



「クッ、切りがないのじゃ」



片腕で、必死に攻撃するアイシャだが、顔色が良くない。


ラゴにも、疲れが見える。



徐々に追い込まれ、疲労が蓄積する2人。


そんな2人を見てなのか、何処からともなく笑い声が聞こえてくる。



「フッ、ハァッハッハハハハハ・・・・・」



辺りを見渡すラゴの目に映ったのは、新たに現れた10人の竜魔人。



その中の1人が、仲間の竜魔人に苦言を呈す。



「【チェイング】、笑い過ぎだ」




「でもね、こうも簡単に引っ掛かると、可笑しくてしょうがないのよ。


 それとも、あたしが優秀なのかしら」




「それは否定はせぬ、だが、警戒は怠るな」




「わかっているわ、でもね、あの様子だと、残りの2人も知れているわね」




チェイングと呼ばれた竜魔人は、固有魔法『ダズル』で、2人を翻弄していたのだ。


ダズルは、幻惑を見せる魔法。


今まで、2人が戦っていたのは、全て幻惑。


だが、このダズルの厄介な所は、受けた攻撃は、現実となる事。


その為、アイシャの腕は、失われている。


「貴様ら・・・・・」


竜魔人を睨みつけるアイシャ。


そんなアイシャを庇うように立ち塞がるラゴ。


必死な形相の2人に向かって、チェイングが呟く。



「さて、そろそろ止めを・・・・・」



勝ち誇り、歪な笑みを浮かべた瞬間

チェイングの動きが止まる。



「おい、チェイング!?」



呼びかけられたチェイングは、

言葉を発する事無く、墜落していく。



驚き、呆気に取られる竜魔人達。



だが、よく見ると、墜落してゆくチェイングの頭部には、光りの矢が刺さっていた。



「攻撃を受けただと・・・・・」



辺りを見渡すが、姿が無い。


光の矢は、休む暇を与えることなく、竜魔人達に襲い掛かる。


必死に防御する中、1人の竜魔人が、その犯人を見つけた。



「あそこだ!」




太陽の陰に隠れて、天使の羽を持つ少女が、

竜魔人達に矢を向けていたのだ。


「バレちゃった」


そう言いながら、再び放たれる光の矢。


次々と、倒される竜魔人達。


先程までの余裕などない。



「ならば、あの2人だけでも・・・・・」



竜魔人達は、精神的にも肉体的にも傷ついている

ラゴとアイシャに狙いを定めた。



だが・・・・・・。



2人の姿がない。


「えっ?」


隙をつき、京太が救出していたのだ。



「いつの間に・・・・・」



京太の腕の中にいるラゴとアイシャ。


京太は、アイシャの右腕が無くなっている事に気が付いた。


「・・・・・遅くなってごめん」


怒りが湧き上がる中、静かにリカバリーを唱え、

右腕が復活すると、続けて、ハイヒールを唱えた。


精神的な疲労は残っているが、

2人は、回復する。


「主様・・・・・」


「京太・・・・・」


『遅くなってごめん』と再び謝罪を口にした後、2人をその場に残し、

ゆっくりと前に進む。


そして、竜魔人達の前に立つ。


「仲間が、お世話になったね、御礼をするよ」



一気に解き放たれる神のオーラ。



だが、それは、愚策ともいえる判断となった。



永きに渡り、封印されて来た『アビスホール』の奥に巣くう者が、動き出す。




「カミガ、・・・・・・マタワレノ・・・・・ジャマヲスルカ」



何処からともなく響く声。


同時に起きる地震。



今迄以上の地震が、世界各地を襲う。


そして、ひび割れた結界が、大きく開く。



「ワレノタメニ・・・・・クモツヲ・・・ササゲヨ」


その声に従い、結界の亀裂から、飛び立つ竜魔人達と黒く大きな鳥。


その者達は、京太達には目もくれず、四方へと飛び立って行く。




――不味い!・・・・・・




飛び立つ群れに飛び込む京太達。


しかし、あまりの数の多さに、対応出来ていない。



「クッ、どうしたら・・・・・」



その時に思い出す、記憶と夢。



京太は、結界の亀裂へと近づく。



――【魔法の神、イシス】力を・・・・・


体から、浮かび上がるオーラ。


アビスホールの奥に巣くう者は気付く。



「ソノモノヲ、トメヨォォォォォ!!」



叫び声に似た命令に従う、竜魔人と大きく黒い鳥。


結界の亀裂から、出て来た者達は、京太に襲い掛かる。



「邪魔は、させぬ!」



ラゴ、フーカ、アイシャの3人は、京太を取り囲む。


だが、敵もなりふり構わず、襲い掛かる。



多勢に無勢。


3人は、傷つきながらも、必死に京太を守る。


しかし、体中は傷つき、倒れるのも時間の問題。



その事に、京太も気付いている。



――時間が足りない・・・・・

  でも、このままだとみんなが・・・・・

  


京太は、覚悟を決め、魔法を放つ。


不十分だとわかっていたが、仕方がなかった。




放たれた魔法は、ひび割れた結界を修復し、敵の放出を止めた。


だが、解放された竜魔人と黒く大きな鳥達は、四方へと飛び去っていた。


本来なら、追いかけていくところだが、

傷ついた3人を放って置けない。



「・・・・・一旦、戻ろう」



京太は、再び3人に、ハイヒールをかけた後、

シャトの街へと、向かった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る