evil cat blues

遠藤みりん

evil cat blues

 俺は夜の王様

 この街は俺のテリトリー


 AM2:00 真夜中に徘徊するのが俺の日課だ。

 昼間は大人しく人間に飼われている。

 所謂ネコ科茶トラの雑種と呼ばれておりオマケに“みりん”って可愛い名前付きだ。


 季節は夏、昼の照りつける日差しを避け

夜を待ち家を抜け出す。


 こんな狭い街でも昼は煩くて堪らない。

集まって騒ぐの学生の群れ、噂話でもちきりのマダム、死んだ魚の様な目のサラリーマンなにより俺たちの敵、鉄のカタマリ

“車”って奴だ。全く何処を見渡しても車、車、車、ほとほと嫌になっちまう。


 人間って奴は本当に怠け者だ。自分の脚が二本も有るのにあんな鉄のカタマリに乗りやがって。俺たちネコからしたら邪魔で邪魔で仕方がない。


 俺の仕事は鉄のカタマリにやられた同族の復讐だ。

 その為にこうして毎夜、仲間の亡骸を探し街を歩く。


「おい、居るんだろ?出てこいよ」


 そう言うと電柱の影から一匹のネコがひょこりと顔を出した。


「お呼びですか?みりんさん」


 コイツは情報屋の“いちご”灰色でボブテールがトレードマークの俺の相棒だ。コイツのタレコミを元に俺は動く。


「さぁいつもの様に情報をくれ」


 そう言うといちごが話し始めた。


「本日の現場は三丁目のT字路 被害猫は白猫の“しらす”さんです。犯行時刻は14:20分でした」


 しらすか……あの高飛車なメスネコ

すぐしゃーしゃーと怒っていたが居なくなっちまうのも寂しいもんだ。


「いちごよどんな車だ?ナンバーは覚えているか?」


「もちろんです!車は黒い外車 ナンバーは369です」


「黒の外車……369……潰れかけた蕎麦屋近くのアパートに止まってる車だな」


 この狭い街は全て俺のテリトリー

住人の顔、行動パターン、乗ってる車

大方俺の頭に入っている。


「流石ですみりんさん!行きましょう!」


 いちごの言葉を合図に二匹は歩き出す。


 目的地へ向かい暗い路地を進むと寂れたアパートに着いた。


「この車か……間違いないな?」


「はい!まさにこの車です!」


 二匹は車を確認するとアパートをぐるぐると探索し始めた。


「あっみりんさん!風呂場の窓が開いていますよ!そこから入りましょう!」


 いちごが侵入経路を確保すると二匹は音もなく忍び込んだ。


 汚れたバスルーム、散らかった部屋、溜まりに溜まった洗濯物に使用済みの食器、まさにネコを轢き逃げする様な屑の部屋だ。


 真っ暗な部屋の寝室に入ると犯人の男がマヌケな顔でイビキをかいていた。


 俺は音もなく忍び寄りベッドに沈む男の上に立つ。


「おい……起きろ……」


 俺はドスを効かした声で鳴くと男は驚いた様子で飛び起きた。


「誰だ!?……ネコ!?」


「あぁネコだ……何故俺がここにいるか分かるか?」


 俺は男の首筋に爪を立て男に聞き出した。


「ネコが喋っている!?夢を見ているのか!?」


 男は夢か現実か区別がついていないようだ。

 ネコも何年もやってりゃ人間の言葉位覚える。


「昼間に俺の仲間を轢き殺したな?忘れたとは言わせないぞ?」


「あのT字路で飛び出してきたネコか!?」


「あぁそうだしっかり復讐させてもらうぞ」


「待ってくれ!助けてくれ!」


 俺は男の命乞いを聞かず、首筋を思い切り噛みちぎった。

 勢いよく血が飛び出すと部屋はあっという間に赤く染まる。

 伊達に何年もネコはやってない、日頃から固い餌で鍛えた顎の威力は絶大だ。

 たった一噛みで男はピクピクと痙攣しそして全く動かなくなった。


「終わったな……」


「はい!見事なお仕事でしたね!」


 返り血に汚れた体をグルーミングし終わるとアパートを跡にし夜明け近くの街を歩き出した。


「骨が折れたな……また頼む」


「もちろんです!」


 その会話を最後に二匹はそれぞれの家に帰りまた夜を待つ。



 俺は夜の王様 

 この街は俺のテリトリー

 オマエも狙われないよう気をつける事だ

 忠告はしたぞ!


 evil cat blues







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