no49...食い意地
「やったの……?」
『ああ、リナティスの魔力は感じられない』
「よかっ、たぁ……」
《神剣解放》が解除されると、カグラは元の剣に戻った。どっと疲労感に襲われた私は、尻餅をついた。
(涼音さん! やりましたね!)
「あ、ベネッサ! なんか静かだった?」
(涼音さんとカグラさんのラブラブなシーンに、口出しなんて出来ませんよ)
「ラブラブって、えへへ」
改めて言われるとめちゃくちゃ恥ずかしい。カグラを手に持ってるだけで、胸がキュンキュンしちゃう。
(申し訳ありませんでした。私の呼び出したゾア・スライムのせいで大変なことに……)
「ああ、びっくりしたよね。まさか魔剣カグラが十本に増えるなんてさ」
『終わったことだ。ベネッサが気にする必要はない』
その時、レベルアップのアナウンスの合間に配信魔法のレベルアップを知らせるアナウンスが流れた。
【配信累計時間が12時間を超えました】
【配信魔法がLv5へ上がりました】
あー、そういえばLv4に上がった時も見てなかったかも。私は《良さげな鑑定》で配信魔法を見てみると、処刑場に集まった群衆に私たちの声が聞こえていた理由が判明した。 これでモニタースライムから声が出てたのか……。
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配信魔法
Lv1:コメ視聴:コメントが聞ける
Lv2:ゆっくり配信:ゆっくりになる
Lv3:記憶配信:指定した者の記憶を映し出す
Lv4:音声オン:モニタースライムから音が出る(パッシブ:デフォルトon)
Lv5:3Dライブ配信:仮の姿を映し出す
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Lv4のこれ、デフォルトonなんだ……。なるほどね。ってLv5のこれおもしろそーやってみよ。
「《配信魔法》3Dライブ配信:宮森涼音」
ブゥゥウンと、生前の私の姿が現れた。たぶん私の記憶から再生したのか、くたびれたリクルートスーツに後ろで一つ結びにしたポニーテール。あの日、雑な事故で殺された会社帰りの私そのままだ。右手を上げると、3Dライブの私も右手を上げた。
「おお?! すご! 同じ動きするね!」
『それが涼音の本来の姿なのか? 黒髪なのだな』
「そうだよ。マサラと一緒だね。本人補正入ってるからか可愛い! カグラもやってみよ。《配信魔法》3Dライブ配信:神剣カグラ・マサラ」
同じくブゥゥウンと、背の高い黒髪の男性が現れた。記憶配信で見たマサラの姿だ。カッコ良さ増し増し。
『確かに動かせるな。魂とリンクしているのか』
(あの涼音さん……申し訳ないんですけど)
――ズキ
痛っ。そうだった。遊んでる場合じゃなかった……。もう私がこの世界に、ベネッサの中にいられる時間はないんだった……。
「ベネッサ。ちょっと疲れちゃったから、変わってもらってもいい?」
(はい! ゆっくり休んでください!)
やけに喜んでるベネッサの声を聞いて私は交代〈スイッチ〉した。
「交代〈スイッチ〉」
ギュン!と引っ張られる感覚に襲われると、私はベネッサの中へと引っ込んだ。でも、やはりいつもと違う。いつもはしっかり入り込むけど、いまはどこかふわふわしている。
「フェリオル王子!」
私と変わるや否や、ベネッサは横たわる王子の元へ駆けた。そうだった。完全に忘れてたけど、フェルリオル王子が死にかけてるんだった。
ベネッサは、一秒でも早く王子の元にいきたかったのに、私が遊んでるから言いにくかったよね。悪いことしちゃったな。
(あれ、カグラ。私たちの3Dライブ映像出したままだね)
『そうだな。身体を動かす感覚。久しぶりだな……』
(へへー。くっついちゃお)
『透けていて触れんぞ』
(いいんだよ。心の問題)
ベネッサのフェルリオルを呼ぶ声を聞いて、ルインが飛び起きると、それに合わせてカルナセシルや他のみんなも目を覚ました。
「そんな……王子。うぅ……」
ベネッサが王子を抱き抱えながら泣いている。
「ベネッサ様!」
ルインが駆け寄り、ネルフィム様から預かっていた【女神の雫】の蓋を開けてフェルリオル王子の全身にかけた。すると、無くなった右腕が生え、穴のあいた心臓が塞がり、肉体としては完全に蘇生された。
「お願い! フェルリオル! 戻ってきて!」
だが、女神の雫の効果はそれで終わりだった。
「女神の雫の効果は……、肉体な完全蘇生です。王子の肉体は完全に復活しましたが……。恐らく魂はもう既に……」
ネルフィム様が絞り出すように言葉をつぐむ。
「戻ってきてよ! 私と結婚するって言ったじゃない! フェルリオル!」
王子の亡骸を前に取り乱すベネッサを、ネルフィム様やティナードをはじめ、みんなはただ静かに見守った。
「おい、剣! なんとからないのか?!」
ルインがカグラに突っかかる。
『なんとかなるならしている』
カグラの能力は、基本的に使い手である私を手助けするための能力ばかりだ。他人の魂を戻すようなスキルは……。
魂を……戻す?
(ベネッサ! あるよ! 王子を救う方法!)
「ぐす……。ほ、本当ですか?!」
(思い出して、ベネッサがどうやって生き返ったか)
それだけでベネッサは理解した。
「《サモンテイム》エンドフィッシュ!」
パァと小さな魔法陣が展開されると、中から私が後で食べようと思ってテイムしてもらっていた、エンドフィッシュが現れた。
(反魂の泉の水か、エンドフィッシュ、どっちが魂を呼び戻す効果かがあるのかわからないから、再現しよう!)
「わかりました!」
魚を取り出して一人で喋るベネッサを、心配する仲間達。
その彼らの心配を他所に、ベネッサはエンドフィッシュの中にある反魂の泉の水をフェルリオル王子の口に流し込むと、ルインとカルナセシルに火を焚かせて魚を焼き始めた。
「おい、ベネッサのやつ、頭がおかしくなったのか?」
「なんで魚を焼き始めたんでしょう。いい匂いですね」
「きっとお腹が空いているのよ。ダンジョンの中にいたんですもの」
「しかし、自分の従魔を食うなんて……テイマーとしてそれでいいのか?」
見事に勘違いした三名が、王子の亡骸を前にパタパタと魚を焼いているベネッサを残念そうな瞳で見つめた。
(もういいと思うよ)
「はい! えーっとどうやって……」
(そりゃ王子は死んでるから、まずはベネッサが魚食べて細かくして、口移ししかないよねぇ)
「わ、わかりました……。はむ。もぐもぐ。おうひ、ひつれいひまふ」
前代未聞の焼き魚を口移しする貴族。なかなか見れる光景ではないね! もうみんなの視線が痛いッ!
「フェルリオル王子……。戻ってきてください……」
ベネッサは焼き魚の良い匂いの中、王子の手を取り必死に願うと、その願いは通じた。フェルリオル王子の身体が光り輝き、顔色に赤みがさすと指先が微かに動いたのだ。
「う……。ここは……」
「あぁ! よかった!」
目を覚まして身体を起こした王子に、思わずベネッサが抱きついた。よかったー。途中でエンドフィッシュ食べなくて。でもめちゃ美味しいんだよねぇ。また食べたいなぁ。
『まさか涼音の食い意地が、人の命を助けるとはな……』
(こ、こうなることくらい、わかってたんだからね!)
『嘘をつけ……』
反魂の泉の水なのか、エンドフィッシュの効果なのかはよくわからないけど、王子は魂を取り戻した。
そして一番大きな歓声を上げたのは、モニタースライムで一連の流れを見ていた生き残りの群衆達だった。
「ベネッサ様が奇跡を起こした……」
「嘘だろ……。まさか生き返るなんて……」
「ベネッサ様は救世主だ! うおおおー!」
「焼き魚バンザイ!」
「あの魚は何の魚だ? うちにも仕入れたい!」
万物分断で殺されてしまった人たちは助けられなかったのは残念だけど……。全ての人を救えるほど、私は強くない……。それはカグラだって同じだ。自分の手の届く範囲しか救えない。今回はその範囲内の人を救うことができただけでも、良しとしよう。
「フェルリオル、よかった……。本当によかった……」
「ベネッサ……? 何が起きた? なんだか口の中が魚臭いな」
ベネッサは「すごく美味しいでしょ」と、泣きながら笑顔でフェルリオルへ抱きついた。
――配信累計時間:12時間14分
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