no22...最悪

 ネルフィム様とのダンスを踊り終え、領地の基色で彩られたテーブルへ戻るとルインが暖かい紅茶を用意してくれていた。


「お疲れ様です、ベネッサ様。素晴らしいダンスでしたよ」


「ありがとう」


「ただ、やはり罠でしたね」


「罠?」


 私の回答に、ルインは声のトーンを落として耳打ちした。


「はい。ベネッサ様が男性パートを踊られたので、周りからは第二領地もついに頭を垂れたか。などと言われておりました」


 舞踏会で男性同士のダンスは御法度とされているが、女性同士で踊る事は禁止されていない。ただ、周りからはそう見られるのか……。


「まぁどうとでも思わせておきなさい。これで私は顔面パイ事件の清算が出来ました。それだけで十分です」


 シファが衣服の乱れを直してくれている間、紅茶を飲んで一息ついていると、可愛らしい男の子の声が私の名を呼んだ。


「あ、あの……。ベネッサ様」


「あら、リルト様。どうなさいました?」


 第七領地ザードクロスのリルト様は、白髪に黒い毛が混じった独特な髪色をしている。その気持ち小柄な風貌から貴族女性、とりわけ年配女性から絶大な人気を誇っている。


 黒を基調とする服も凛とした雰囲気を持ち、リルト様の幼い顔とよミスマッチがまた良い異質感を出している。


「よ、よかったら。僕とダンスを……」


 顔を赤ながら差し伸べられたリルト様の手を取ろうと、身体を起こした時だった。


「ククク。やめとけやめとけ、足りねぇだろ?」


 割って入ってきたのは、先ほども絡んできた第三領地のティナード様だった。私がネルフィム様と踊り終わるのを待っていたらしい。


「足りないって……。何がですか」


 リルト様が敵意を剥き出しで拳を握り一歩出ると、背後に控えた護衛達にも緊張が走る。


「ククク。言わせんのかよ。お前じゃ背が足りねぇって言ったんだよ。チビ」


「なッ……。貴様……!」


 リルト様がティナードの胸ぐらを掴もうと伸ばしたその手は、ティナード様によって掴まれた。


「知ってるぞ? フェルトグランにお前らが資源提供してるらしいな。それも法外に安く」


「違う! 隣り合った領地だから運賃が安く済んでいるだけだ!」


 第七領地ザードクロスは、フェルトグランのすぐの隣にある領地で、先祖の代から交友がある。特にザードクロスで採掘される鉄がうちで取れる鉄よりも上質なため、たくさん買い取らせてもらっている。


 もちろん王の承認は得ているし、独占買取しているわけではない。隣り合った領のために運賃が安く済み、必然的に他領がザードクロスから鉄を買うよりも、安く買えているに過ぎない。


「さぁてどうかな? お前らの関係性を洗うと怪しい点が多くてなぁ。特定の領地の順位を上げるために、裏で結託するのは禁止されていはずだが?」


「断じて、その様な事はしていない!」


 リルト様の発言にも熱が入りだした。二人とも直情型だから、一度ぶつかるとこじれることが多い。


「リルト様、落ち着いてください」


「そうですよ。どうしたのですか。騒がしい」


「ネルフィム様……」


 私たちの騒ぎを聞きつけて、ネルフィム様がやってきてくれた。


「またティナード様が何か仰ったのでしょう。リルト様も相手にしてはなりません」


「おいおい、酷いな。ネルフィム様。貴女だって本当はベネッサ様を蹴落とすとために、ドレスを切ったり水をかけたのではないですか? ククク」


 ティナード様は嫌な奴で嫌いだけど、この質問内容はとても良い。私も本当の答えを知りたかったからだ。


「ドレスを? 何のことですか? ベネッサ様と私は仲良しですわ。ほら、ね?」


 ネルフィム様が私の隣にきて、腕を絡めてポーズを取った。距離が近い……。私もポーズを取るべきだろうか? そう思った時だった。


「ぅ……」


 ネルフィム様が口元を抑えると、手の隙間から血が見えた。


 まずい。まさかもう毒が?! 狙うなら領主会議後の晩餐会だと思っていて油断した。症状が出てるなら、もう服毒して五分経ってる可能性がある。


「ごめんなさい! ネルフィム様!」


 私はネルフィム様の腹部を思いっきり殴ると、毒消しの指輪を発動させた。


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