no18...王都レティーナ

 中央の城下町へ入ると私たちを歓迎してくれたのは、香ばしい香りに人々の笑い声が混じるお祭りの賑わいだった。


 領主会議が開催されるこの期間、中央ではレティーナ王国の誕生を記念した王国生誕祭が開催されている。


 既に日は落ちてきているが、どこもかしこも賑わいを見せていて、それを羨ましそうに見ているシファの横顔が可愛かった。


 賑わう街中を抜けると、私達の馬車は真っ直ぐレティーナ城へと向かった。


 レティーナ城は、領塔、本殿、離宮の大きな三つの建物から成っている。


 それぞれの建物は連絡通路で繋がっており行き来出来るが、領塔と離宮は繋がっていない。中央の本殿は、謁見の間や騎士団の詰め所など対外的な部分を占めており、三階には舞踏会などを行う大広間、四階には領主会議を行う大きな会議室が存在する。


 本殿から見て左にある領塔は、一階に大きな馬宿があり、二階と三階には各階に四つの領室がある。三階の連絡通路から本殿の広間に移ることが出来る。本殿からしか入れない離宮は王族の居住地となっており、領主であっても入ることは許されない。


 私達は馬車を降りると、フェルトグランの領室へと向かった。領室とは言ってもその広さは桁違いで、三十人程度が食事や歓談可能な談話室と台所、複数の寝室が用意されている。これが八領地分あるのだから、レティーナ城の大きさが伺い知れる。


 私たちはフェルトグランの領室に着くと、荷解きの後に軽く夕食を取った。その後は明日の領主会議と舞踏会の打ち合わせをすると、早めに就寝した。



――翌朝


「ベネッサ。毎年のことだが、これだけは言わせてくれ」


「なんでしょう。お父様」


 朝食を食べ終え談話室で本を読んでいると、支度を終えたお父様とお母様が話かけてきた。


「お前には素晴らしい物作りの才能がある。代々伝わるその才で、我々フェルトグランは第二領地まで躍進した。だがそこまでだ。第一領地を目指す必要はない」


 本日行われる領主会議。そこでは王族より今年の順位を発表される。その順位は去年の納税額や、国への文化的貢献度など様々な値が考慮される。なぜ皆が上位領地を目指すのか。それは――。


「王子の結婚相手は、ネルフィム様で良い。これは暗黙の了解だ」


 来年、王子が十九歳になり結婚式が執り行われる。結婚相手は、その年の第一領地の領主の娘。そういう決まりがこの国にはある。


 王子と結婚すれば、自領から王族が出る。それは領地の安定を目指す上で、とても栄誉なことであり、とても重要な意味を持つ。


 なぜなら王命は基本的に絶対だし、自領に有利な法案を通しやすい点もある。だから、どの領地も上位領地になる事を目指して日夜努力している。


「わかってますわ。お父様。私は第二領地で十分です。王子なんかと結婚したら、好きな研究をやらせてもらえなくなりますもの」


「これ、滅多な事を言うでない」


「そうよ。領室の中とはいえ言葉は慎みなさい」


「ごめんなさい」


 お父様とお母様からお叱りを受けつつも、それが私の真意だと二人は理解してくれている。


「おっと。もうこんな時間か、シエラ行くぞ」


「ええそうね。ベネッサ、舞踏会の方は任せましたよ。ルイン、ベネッサから目を離さないように」


「はい、シエラ様お任せください」


 ルインは両親に向かって丁寧にお辞儀をすると、お父様とお母様はそれぞれの側近達を連れて出て行った。


 私達は割り当てられた部屋に戻って舞踏会の準備をしていると、ルインの小言が飛んできた。


「ベネッサ様、舞踏会の立ち振る舞いはわかってますか?」


「毎年のことじゃない」


「去年の行いを見る限り、売られた喧嘩を買いそうな気がしましたので」


 さすがルイン鋭い。私は本当に順位に興味はない。第何領地だろうと別に良いと思っているけど、周りはそうじゃない。他の領地から見ると、私たちが第一を狙っていると思われているらしく、不必要に嫌がらせをしてくる。


「何度も言うけど、あれは誰かが背後から私のドレスに水をかけてきたから、お返しにパイを投げつけたらネルフィム様がそこにいただけよ。私は悪くないわ」


「それですよ……」


 ハァとルインは溜め息を吐きシファも苦笑しているが、私は悪くない。水をかけられたのだから、倍以上で返さないと気が済まない。やられっぱなしは嫌だから。


「ベネッサ様がなんと言われてるかご存知ですか? 悪役令嬢ですよ?」


 最近巷で流行ってる令嬢物の本がある。私もさっき読んでたけど、王子とヒロインの結婚を邪魔する悪い令嬢が出る話で、とにかく極悪非道な令嬢として書かれている。


「先に手を出したのは、ネルフィム様です」


「いいえ、ネルフィム様がやったという証拠はありません。周りからは、ベネッサ様がいきなり顔面にパイを投げつけたようにしか見えませんでしたよ」


 確かにネルフィム様ではないかもしれないけど、とにかく私への意地悪は度が過ぎている。水をかけるなんてのは序ノ口。時にはダンスの最中に私のドレスが斬られたりしたこともある。舞踏会は毎年領主候補生による問題行動が後を経たないのだ。


「わかったわよ。なるべく誰にも近寄らないようにするわ」


「よろしくお願いしますよ?」


 疑いの眼差しをするルインを放置して、持ってきた研究道具のチェックや改良の続きをやっていると、シファが声をかけてきた。


「ベネッサ様、そろそろお化粧を致します」


「あ、ちょっと待って。《サモンテイム》リトルラビット、ミクロホーク」


 両方の手のひらに二つの魔法陣が現れ、二匹のモンスターが召喚された。


―――――――――――――――――――――


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