シークレット・シークレット

秋野 圭

秘密1

 裕也の紀子に対する第一印象は、彼女の履いていた赤い十センチほどのハイヒールだった。

 背の低い彼女が履くと、まるで背伸びをしているようで可愛らしかった。

 ハイヒールを履く女性たちの目的は背丈を誤摩化すことではない、ということはわかっている。ハイヒールは女の足を美しく見せる武器だ。すらりと伸びる細い足を魅力的に魅せ、ヒールの色がアクセントになって女の白肌を艶かしくし、そして歩く度に上品にカンカンと音を起てる。

 彼女たちはあの鋭い切っ先を使って裕也たち男性に挑戦的に挑みかかっているのだ。そういう道具だと裕也は思っている。

 だけど、そんなハイヒールは紀子には似合わないと思っていた。

 彼女の足は太いし趣味のスポーツで日に焼けてしまい浅黒い。ハイヒールの赤と混ざって遠目から見るとヒールと生足が一体化した怪物じみた下半身に見えた。さらに言えば、彼女の歩く姿は乱暴なのだ。足を踏み出す度に、ヒールの先を床に穴を打ち開ける釘の如くガンガンと叩き付ける。

 がさつで乱暴で、身体と合っていない靴を履いているセンスのない女。

 だから可愛い。

 彼女には言っていないけれど。

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