第2話「おれはロボット、動けはしないが!」

その1「父が示した理想と現実」

「おいおい、こんなに来てるとかマジかよ!!」

「私たちは! 私たちは助かりますよね!?」

「落ち着いてください! 全員収容できますからー!!」


――この島、こんな軍艦ばっかり初めてだろうね。警察の人だけで捌ききれない程集まってるし、


「大丈夫、大丈夫ですからぁー!!」

「大丈夫だぁ!? 火曜日はハンジャラゲなんだよ!!」

「月曜にしろ、火曜にしろ一体何ですか!!」

「お爺さん、お婆さん! 変なおじさんみたいに言わないでください!!」

「あー、もう!石投げちゃお!!」


 いや、正直言ってる事よくわからないけどけど……やっぱここから離れたいのかな。あんなことあったばっかだし、みんなパニックになるの分かるけど。もう少し落ち着いて……っ!!


「ちょっと石投げないでください! 人いますから!!」

「あの赤い奴も白い奴と同じ類だろ!? 宇宙人や地底人が送り込んできたとかで!!」

「そんなバカな話ある訳ないでしょうに! 無茶苦茶しますと現行犯で……」

「そんなバカな話が現実だろ!? あんたこそ気づけよ!!」

「おれたちゃアウトサイダー、硬いルールは苦手なぶっちぎりなんだよ!!」


 ――俺がこの体で一応は助かったのかな。たかが石ころと宇宙の凄い人なら言い切れるとか才人言ってたけど、石ぶつけられても痒いで済むんだし。でも……こんな俺が嫌われてるのもそりゃ現実そうだって、流石に言わざるを得ないんだよね。みんなどころか、海も怒りに染まってる時なんじゃね……?


「はい。元々大学の論文の資料集めで白座島に来ました。付近の島も含めまして1か月は……」

「それで掛尾君はシュガースポットに呼ばれた。そうなのかな?」

「えぇ、呼ばれたと言いますか夢遊病でしょうか……未だ信じられないですけど」


 ――俺の後ろにはあいつら4人。半袖の制服姿の人に色々聞かれてるんだけど軍の人だよな? カカオが飛び級してる天才なのは初めて知ったけど、


「……熊野橋君はわざわざ大阪から三河まで?」

「ちゅう事になりますわ。そっから京まで飛ばしたんは覚えとりますけど」

「京都? それでも大分距離があるのでは……」

「長官! 鉄道会社から届きましたので!!」


 今度はクマさんが事情徴収されてたけど、部下らしい人が慌てて映像持ってきたら俺も思わず絶句したよ――貨物列車が走る様子をスローモーションで映る一部始終だけど、俺も軍の人も似た反応してたようで、


「……まさか無意識に、しがみついてたとか?」

「……せや! 港からの船に這いつくばっとった。そこで落っこちても泳げたの思い出したわ」

「道理でびしょ濡れ……ってそんな事どうでもいいですよ! 流石に馬鹿、馬鹿のやる事ですよ!?」

「……関係各所にはこちらで対応するけどね……もう二度とやらないように」


 流石にそこまでやってのけるクマさんはどうしようか。カカオが平常心で居られないのも当然だし、軍の人も対応に困っているのも当然だけど、


「クマさんすごーい! 大阪からトライアスロン、鉄人レースだよね!?」

「それは違うが……クマさんもエスパーだから出来るかもしれない」

「それ言いましたら私はフランス……って二人ともどんな感心してるんです!?」


 残りの二人――ガムとアンがこの場でクマさん凄いって言ってる訳ね。カカオが一人だけ突っ込みに回っても、まともに話が進むかなんだけど、


「さっきから、フランスだ大阪だと聞いてどうするつもりじゃ?」

「迎えをよこすなり、こちらで送るなりしますよ。このままではいけませんし」

「それでどうなるんじゃ? 余計な事しかしとらんが」

「……子供の彼らを戦わせてる貴方こそ、余計です」


 博士が不機嫌そうでも、軍の人が言ってる方がごもっともなんだけど……確かこう軍の人がしゃしゃり出てきて、子供たちに戦わせないムーブもロボットアニメあるあるだって、才人言ってたな。もしかして今が丁度その流れで、


「だったら早く来んかい。肝心な時に助けてくれない警察の署長さんじゃるまいし」

「……それに関してはおっしゃる通りですが」

「ほれ、そういう事じゃ。こういうよくわからん物はカチコチな軍人の手には負えんわ」

「そういう貴方も持て余しているように見えますね」


 あぁ、プロの軍人より素人が案外戦えるパターンとかか……まんま才人が言ってた流れなんじゃ?と思ってたらこれだよ。グラニューのディスプレイに昨日の俺、こないだの戦いっぷりがお披露目されてたんだけど、まぁ、その、ねぇ……。


「グラニュー! わしの許可もなしに見せるなと!!」

「カイザーの研究に、異ナル視点も必要デス。青柳長官も当テハマリマス」

「どうやら、ロボットの彼はまともみたいですね」

「よくも裏切りおって、ロボット三原則を忘れたんかい!!」

「それに基づきますと、私も同じ人間ですから」


 青柳長官ら軍の人からしたら、こないだの戦いはラッキーで勝てたに過ぎないっぽい……少し悔しいけど、こないだの戦いはこっちも無我夢中だったのも大きいからね……。


「こちらでビットカイザーを運用します為に研究させてもらいます。島民の収容と並行してですが」

「それで私たちはどうなります? この流れですと……」

「悪いようにはしないよ。こちらでも動かせると分かり次第直ぐに」


 俺を自衛隊は求めてる訳か――カカオが何か言いたげな顔してるんだけど、


「……アンたちだからカイザーは動く!そうだよね!!」

「え、えぇ……確かにそう言うつもりでしたが」

「多分俺たち以外では動きませんよ。根拠がない事承知で言いますけど」


 アンが珍しくカカオを代弁してたけど、アンでも流石にそれは分かってたか。ガムは予知している上での意見だと思うけど、


「カカオもガムも当事者なんじゃ! 実際動かさんと分からんわ!!」

「そう偉そうに言ってますけど、博士は動かしてませんよね! 前にも言いましたが!!」

「ワイよぉ分からんけど、ゴタゴタ理屈並べても始まらんちゃうか?」

「……案外俺も同じです。クマさん」


 正直超能力で動くとか、確かにその原理とかわかるもんかな。クマさんだから多分考えてもないと思うんだけど、ガムも俺も同じ気がするよ。そもそも俺がこうロボットに転生しましたが考えても無駄な気がするし、


「どの道俺たちが動かす以外ない気がします。俺は別にそれで……」

「またレールから外れる気か!?」

「……父さん! それに母さんも」


 俺の視界にも二人が見えた――ガムの両親っぽい二人組が。息子と違って随分と横に大きく、ガムの親父はお世辞にも息子と似てないね。寧ろ母さん似なら一理あるんだけど、親父の陰に隠れたまま。親子の対面の筈なんだけど……あんまりいい空気じゃないような。


「人質じゃな! わしがカイザーを渡さんから!!」

「何を人聞き悪い事言ってるんですか! 貴方は!!」

「寧ろ保護者の方が会いたいと言いますから」

「お父様、お母様に万が一があっては困りますから、こうして……」


 ――やっぱ子供が巻き込まれてるんだから、親が子供の身を案じるのも当たり前かな。ガムもだけどアンも喜んでないように見えるけど。そういえば親父がレールだとか言ってるから、どうなんだろう……


「お前はこんな島で収まる器じゃない! 俺がレールを敷いてやったが!」

「……貴方が喜ぶ1位は維持してますよ、父さん」

「そんなレベルで1位は当たり前だ! それなのに……!!」

「貴方が嫌いな馬鹿になりますからね! そう言いたいんでしょう!?」

「貴方、やめて! ガムも落ち着いて!!」

  

 やはりこの親子一筋縄ではいかない様子。多分レベルの高い所へ行くの自分から断ったのかな。親父前にガムが少し落ち着いてない気がするけど、


「貴方が言う天才なんか望んでなかったですよ! 此処迄しろと……!!」

「……ガム君!」

「お前、産んだ母さんにまでそんな事を!!」

「だから、そう言ってないでしょう! 貴方のレールに嵌める事ですよ!!」


 ――例え余所でも親父にぶたれた所、初めて見たよ。正直見ても気分が良い訳ないし、アンと同じ心境かも。俺はお袋にぶたれた事あっただけで、親父にぶたれた事ないんだけど、


「チーフは確かに切れ者ですけど、それ程……」

「……馬鹿やなくても、しんどい事あるんやて」

「お父さん、どうか冷静に。興奮するのもわかりますけど」


 気のせいかもしれないけど、クマさん何か思う所あるのかな――長官が親子喧嘩に割って入ってクールダウンさせてるんだけど、


「駄目だよガム君! 行っちゃう嫌だよ!!」

「あかんで! これワイらでどうにかなる問題ちゃう!!」

「離して! 離してよぉクマさん!!」

「……その程度の理由か。人生棒に振るのも!」


 ――あの親父の頭ごなしに決めつける言い方、イラっとするのもあるんだけどね。いけ好かないガムが親父のレールを拒む理由もわかる気がしたよ。正直いけ好かない所あるイケメンだったんだけど、少し見直したというか、



「その程度だとか言いますけどね! 俺は貴方のレールを走るロボットじゃないです!!」



 ――うん、ガムの言いたいこと分かるんだけどね。でも今の俺、そのロボットですから、優しい心を置いてきた、ロボットの胸に預けておいたじゃないんだけど、ロボットの足元でそれ聞くのは辛いね。少し胸が痛いというか、


「貴方、此処で言い争っても……」

「お前に指摘されるのは癪だが……支度がまだだ」

「ガム君駄目! いかないでぇ!!」

「……」


 他の人々も似た事を外野で騒いでいるみたいだけど……アンからしたら自分事みたいなものだろうな。正直そこまで想われてるならよ、もう男らしくビシッと親父に啖呵切ってやれって気もするんだけど。うん、まぁ俺も親父相手にいつも下に下にだから人の事言えないんだけど。ガムはゆっくり見回した後、


「そうですね、此処は母さんの顔を立てますよ」

「そんな……!!」

「ホンマか! ワイらでどうにも出来んっちゅうたけど」


 おいおい、そこで弱気になっちゃ男としてどうなのよ。クマさんだって顔だけじゃない男らしいお前の事期待してたと思うんだけど……あぁ! ホント、出来るなら俺があいつらに一発二発といきたいんだけど! 流石に苛立ってくるんだし!!


「博士、一旦家に戻らせてください。納得いく答え出しますから」

「全く決まっとる筈だと思うがのう! 納得いく答えも何も!」

「……直ぐに答えは出ますので」


 博士もモヤモヤしてるの流石に分かるよ。正直直ぐに答えが出るならもうその場で言えば済む話な気がするけど。誰かガムを引き留めりゃあ良いのに


「それよりなんじゃ! そんな処でぼーっと突っ立ってのぉ!!」

「突っ立ってるだけと言いますけど! カイザーの収容から始めますよ!!」

「カイザーからですか? 此処にいる人たちのほうを……」

「野次馬で集まった人も多いはずだよ。支度はしてほしいからね」


 避難する人たちより俺の方を優先って、派遣してた身からしたらあるある……って何考えてるんだよ俺、こんな状況なのに。カカオが疑問なのも分かるけど、長官の言ってる事もまた一理ある気もするから、どっちが正しいのかなだけど、


「ほぉ、カイザーをどう運べと」

「それはまず貴方達に……あっ!」


 ――もしかして博士、こうなる事分かってた? 俺としては出来れば自分から動きたいんだけど、生憎ガムがいないから動こうとしても全然、体中が石像になったみたいにピクリとも動かないから、


「クレーンでカイザーを倒せるかの? トレーラーとかにカイザーを乗せれるかの?」

「長官、ここは人々の収容を優先した方が……」

「ヒューマニズムとしては分かるがのぉ、こーんな所にカイザーが突っ立ってると狙われんかのぉ~」

「……まず野次馬を帰させるんだ! 防衛態勢だ!!」


 ――博士、絶好調でしょ。こう俺が港に突っ立っているだけで、ここまで軍の計算が狂うとか考えてもみなかったんだけど、


「全く、程々に自分らの利益も計算してのヒューマニズムじゃからのぉ」

「博士デシタラ、利己主義に徹シテマスカラネ」

「そうじゃの。わしなら迷わずカイザー一択じゃ……って何言わせるんじゃ!」


 グラニューを蹴飛ばしたくなる位えげつない本音だけど――案外この流れだと博士の言ってることも間違いじゃない気も。


「も、勿論お前さんらも一緒じゃの。カイザーのついでじゃが」

「ワイら二番目に大事って訳やな! 流石や!!」

「……一体何処に感心するところあります!?」

「それよりもじゃて、クマもカカオも来てくれんかのぉ」


 凄い博士が誤魔化してた気がするけど、その話を棚に上げて、また別の手を打とうとしているみたい。正直信頼できるかどうか相変わらず胡散臭いんだけど、


「長塔博士、まだ貴方は居てもらいませんと」

「どの道カイザーは動かんからの、今のうちに腕の一本ぐらい」

「腕一本……確かに博士言ってましたね」

「スペアも何も、本物じゃが。二人にも手伝ってほしいからの」


 ――俺自身も忘れかけてた気がするんだけど、右手があるなら早いうちに欲しいかな。確かに昨日から痛みは引いても、まだ右手の感覚残っているような気がしてて、違和感があるんだし。こういう痛みって才人が言ってたファントムペイン……何かチーム名だとか言ってた気もするんだけど、


「アンは!? アンも一緒のほうが!!」

「すまんがグラニューと待ってくれんかのぉ、4人乗れるかじゃし」

「確か座席は4つやったはずやけど……博士が分裂するからか?」

「ナチュラルに訳わからん事やめてください! 一つじゃ足らないんですよ!!」


 カカオが指さした通り、博士のサイズを考えたらね……。よくある4つの座席も、前の2つの座席も一人でキャパシティギリギリなんだよね。



「それまで軍の人に守ってもらえばええ。程々のヒューマニズムでも何とかなるわい」

「程々のヒューマニズムって、一体私らなんだと思ってますか!!」

「わしもガムもはよ戻る。お前さんらが全滅しとるかもじゃが」

「その前提で言わないでください! 犠牲者ゼロですよ!!」


 相変わらず博士は軍の人を煽ってるけど……そこまで自信ありげで居られるのは凄いな。それにガムも戻ってくるって言い切ってるし、そのままアンとグラニュー残してトレーラーが走り去ったら、アンだけになっちゃうけど、


「……やっぱり寂しいのかな?」

「アン、誰ト喋ッテマスカ、話シ相手グライデシタラ、私モ」


 ぽつりと取り残されたアンだけど――何か俺の方を見上げて呼んでいる気がした。俺も寂しいかどうかとなると多少はだけど、


「……カイザーだよ。みんな一緒になってカイザーも一緒だったよね」

「カイザーは喋ラナイデスガ」

「分かるよ、カイザーもアンも独りぼっちだから」


 ――今の俺は言葉を喋れない。ロボットだからマシーンだからかもしれないけど。


「独りぼっちはヤだよ。クマさんも真芽ちゃんも一緒がいいし」

「……ガムもデスヨネ」

「勿論! ガム君絶対帰ってくるもん! あぁいうガム君の顔見てたら分かるもん!! 本当だよ!!」


 ――根拠があるかどうか分からないけどね。だけどわかるぜって言ってやりたいよ。燃える友情とか正義の心とか格好良いフレーズじゃないかもしれないけど、


「カイザーもそうだよね! みんなまた一緒だよね!!」


 ――正直昨日目覚めたばっかなんだけどね。本当まだみんなよくわからないし、俺がこう巨大ロボットライフを受け入れたわけでもないんだけどね。ガムの事はいけ好かないって思う事あるけど、こう足元でアンが信じてくれてるとね。俺がこう突っ立ってるだけなのが情けないね。ちょっとばかりだけど。


(こんなにお前を信じてくれてるんだぞ……戻ってこい、早く!!)


 軍の人に保護されて、その場からいなくなるアンの代わりじゃないけど……俺もガムが気がかりになってた。俺が必死に念じてどうなるか分からないし、そもそもあいつら全員バラバラなのに、俺がどうしてこう意識が続いているかも分かんなかったけど。そんな事今考えるのもナンセンスな気もしてたと思う……多分ね。

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