第9話 薄弱

「おっ、やっときた」

 着いた時にはもう先生はすでに待っていた

「何で………道着なの?」

「いや、鍛えるとかって言ってたからてっきり運動するもんかと思って…」

 「いやいや、今日は鍛えるんじゃなくてズルしに行くだけだから道着なんていらないらない」

「ズル?」

「そ、今から君に神?呪い?みたいなのを取り憑けにいく」

「………………え?」

「まぁそりゃ急に言われても困惑するか…」

「え、いや、そんな、だって、君には面白い能力があるって昨日言ってくれたじゃないですか……なんで…、そんな…呪いなんて…」

 もうつらい目に遭いたくなかった

 期待込めて飛び込んだ世界にこれ以上絶望したく無かった

 だから昨日話された『黒』とかいう能力に胸が躍った

 もうつらい目に遭わなくて済むと

 もう自分に絶望しなくて良いと

 それなのに…なんで…

「ちょっとキツいこと言うけど…君はかけられる時間の割に元々強くないから、なさすぎるから…だね」

「ぶっちゃけると今から君を全力で鍛えてもとてもじゃないけど、行かせたいレベル…まぁ君の場合は自分で自分を守れるレベル…まで絶対行かない」

「いや…そんなわけ…自分で自分を守るって…そんぐらい…今でも…」

「今は…ね、まぁ少し経ったら…分かるよ」

「…」

 何も言えなくなった

 自分だけだろうか。『分かるよ』という言葉が『後悔するよ』と言う意味にしか聞こえないのは

「まぁ、こんなに脅したこと言ってるけどる多分大丈夫だけどね」

「……?」

「取り憑かせるって言っても君の体、ちょっと特殊だから…、意識乗っ取られる、なんて事はないと思う……多分」

「……多分かよ…」

「まぁ、君が警戒してるよりはリスクはないってこと。……………で、……それをふまえて結局、やる?………辞退するなら今のうちだけど」

 先生が俺の顔をのぞき込む

 (…………ここまで言われたら拒否れる訳無いだろ…)

「……やり…ます…」

「……」

「……」

「…まぁ……ちょっと気に食わない所あるけど…まぁ…いいいや。じゃあ行こうか」

 そう言って先生は本棚の方に歩き出した

「ん?え?」

「え~とぉっ、どの本押すんだっけ」

「え?まさか学校で封印してるの?」

「ん?あぁ、この学校の本来の役割は二人?二神?の封印の守護と監視だからな」

「???」

「この学校ができる前…、二百年?三百年?何年前か忘れたけどどっかのなんとか賢者とやらが二人の神をこの地に封印した時に…おっ、これかな」


 ゴゴゴゴ…


 レンガや重い石がずれたような音と共に本棚と壁がずれて階段が現れた

「んで、その賢者がどうせ結界貼る奴必要なら学校用と封印用で人員わけるより兼用できた方がいいし封印の結界守る奴学校で育てられるし木の葉隠すなら森の中てきなことできるからコスパいいんじゃね!って言ってこの学校建てたってわけ………よし、行こうか」

 階段は地下に続いていて灯りがなく真っ暗だった

 先生がランプを持って螺旋状の階段を下っていく

「まぁ、だからこの学校の校長は代々結界が得意な奴がやってるんだよね」

「ふ~ん」

「あ、さっき二人封印してるって言ったけど君に取り憑かせるのは一人だけね」

「なんていう奴らなんですか?」

「邪神フェルン、伝承によると精神を乗っ取ることによる精神支配を得意とするらしい」

「精神支配って……大丈夫なんですか?」

「…多分」

「……」

「……」

「……そのもう一人の方は?」

「もう一人の方はそもそも取り憑かせることとか出来ません!期待しても無駄です!残念!」

「…」

「お、着いたね」

 階段を下りきると少し広めの部屋に出た


「何なんですか……あれ」

 部屋の真ん中にはナイフのような物が突き刺さっている棺桶が置いてあった

「あれが邪神フェルンを封印してる物だよ。あの中にフェルンが今、取り憑いている生物が封印してある。今からその封印を解いて君にフェルンを憑依させる」

「…どうやって?」

「僕が封印を解いたら君はあの刺さってるナイフを抜いて体のどこか一部分に傷をつけるんだ。そしたらフェルンの魂が君の体に移る」

「……」

「……………今ならまだ引き返せるけど、どうする?」

 本当は怖い

 やりたくない

 何で強くなる選択肢すらないのかと今も思ってる

 でも…

 未来で

 自分の無力さを分かりたくはなかった

「………一度決めたことです。やります」


「………ふっ……、りょーかい」

 先生が少しだけ笑ったように見えた

「封印解除ふういんかいじょ!」

 棺桶を縛っていた鎖が外れた

「んじゃ先に上がってるから落ち着いたら上がってきなさい」

 そう言って先生は階段を上り、闇に消えていった




「ふぅ…んじゃあさっさと終わらせますか…」

 棺桶に刺さっていたナイフを抜く

 手が震えている

 指が緊張でかじかんで力が上手く入らない

「くそ…くそ……手が震えて…少し指切るだけなのに…」

 なぜさっさと終わらせたい時に限って体が言うことを聞かないのか

「ああ!もう、こうなったら!やってやるよ!」

 自分を奮い立たせるために思いっきり力を入れる

「うおおおお!」

 ザクッ

「いってててぇえぇぇぇ」

 やはり深くいってしまった

「ああぁぁぁぁぁぁ!」




『アホか』




「ああぁぁぁぁぁぁ………ぁ……ぁ……ぁ…………………え?」




『普通そんなにいかんじゃろ』




 俺の目の前には半透明の少女が立っていた




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