5.コメント欄は何かを察した。
ダンジョンをしばし進むと、前回ドラゴンと戦闘したあたりに到着する。
アニメとか漫画だと何かしらアイテムをドロップする、というシーンがあった。だが現実はそんなに甘くなく、モンスターは倒されると紫の霧になって消滅するだけ。アイテムとか何とかは、一つも落としてくれないのだった。
何かしらの資源が採取できるなら、政府も自衛隊なりを送り込んでいただろう。だけど何も得るものがないなら、派遣するだけで軍事費がかさむだけだった。
「色々な背景があって、いまの状態になったんだなぁ……」
そんな話を知ったのは、いまの視聴者がコメントで説明してくれたから。
現在では武器などの装備品も売られているし、数年前では考えられないような情勢になっている、とのことだった。一般的な会社員をしていた俺にとっては、縁遠い話でもある。
基本的に、興味がなければ知ろうともしないだろう。
『ところで、たっちゃん氏とリョウちゃんの関係は?』
「えー……リョウとの関係、ですか」
そう思いつつ歩いていると、俺に対する質問が目に入った。
俺は少しだけ考え、身バレするような情報は避けながら軽い説明をする。
「アイツと俺は、普通の従兄妹同士ですよ。年の差がそこそこあるので、こっちとしては妹的な存在かな」
『ほうほう、つまりは妹萌え、と?』
「どこをどう取ったら、妹萌えに!?」
すると、コメントに茶化されてしまった。
思わずツッコミを入れると、それはそれで盛り上がっているようだ。そんな視聴者の様子を見て俺も少し笑っていると、こんなコメントがされる。
『ふーん、アタシは妹、かー……』――と。
……ちょっと待て。
俺はあえてそれを拾わなかったが、目敏いリスナーは気付いたらしい。
『リョウちゃんキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!』
『まさかの本人登場!』
『リョウちゃんも、よう見とる』
たしかに、この場にいないのなら涼子が配信を見る可能性は十分あった。
しかしコメントの意図が掴めない。俺が困惑していると、彼女は続けてこう書き込みを続けるのだった。
『アタシはどうせ、妹ですよー……だ』
「おい、リョウ……?」
『まったく、たっちゃんはコレだからモテないんだよ』
「お前なにを……!?」
どうにも従兄妹はイジケているらしい。
だがやはり、理由らしい理由が見つけられなかった。
そう困っていると、先にコメントたちの方が何かに気付いたらしい。
『ほーん……』
『これはこれは』
『あ……(察し』
みな明言こそしないが、匂わせ振りなことを書き込み続けていた。
おい、頼むから俺を置いて行かないでくれ……。
『とりあえず、気を付けてね。たっちゃん』
「お、おう……」
最後に、涼子はそう残して退出したらしい。
俺はそれを確認して、苦笑してしまう。そしてその後しばらく、コメントたちに意味の分からない『からかい』を受けるのだった。
◆
――涼子は額に冷えピッタンを貼りつつ、スマホの電源を切る。
表情は少し怒っているような、あるいは憤っているような感じだった。
「たっちゃんのニブちん……」
そして、そう呟いて布団に包まる。
片田舎の昼下がり。
成人した女性である彼女も、一人の少女に戻ることはあるようだった。
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