第39話 名前がつきました ○

 目の前が真っ暗になり、何かに吸い込まれるような感覚を味わったその次の瞬間には、僕は室内にしては広い建物の中で、水色の髪の美少女の前に座っていた。


「にゃ~?」


 どうやら召喚魔法は成功だったようだが、肝心の召喚主が何も喋らずただこっちをジッと見てくるだけなので、僕の方から声を出してみた。


 すると召喚主の女の子が反応する前に、周りから笑い声が聞こえてきた。召喚前は気がつかなかったが、どうやら一緒に数名の子ども達と一人の女性がいたようだ。召喚前は周囲の状況はもやがかかったみたいに見えなかったから仕方ないよね。


 彼らの話を聞くに僕はただの猫だと思われていて、召喚獣として認められるのかと言った内容だと理解した。


(まずい、隠蔽の仕方を間違えたかな? 召喚したのが猫だとわかったら、この子がバカにされちゃうかも!?)


 僕がステータスを再調整しようかどうか迷っていると、目の前の少女が自己紹介してくれた。その表情からはがっかりした様子は見られないが……。彼女の名前はオーロラ。名前だけきくとミラージュキャットの僕との相性はよさそうだな。


 オーロラはそのまま僕を抱き上げると、ギュッと抱きしめてくれた。よかった、周りのやじ馬達とは違ってこの子には歓迎されているようだ。ただ、向こうからしたらただの猫なんだろうけど、転生者の僕には彼女が美少女過ぎて少々刺激が強過ぎる。頭が真っ白になってしまった隙に、いかにも怪しげな水晶を向けられた。


(何だあれ!? "鑑定"!)


アイテム名 鑑定の水晶

付与効果 鑑定Lv9


 危ない危ない、どうやら鑑定アイテムだったようだ。質が低かったおかげで、隠蔽がバレることはなかったが、今度からは油断せずに魔道具にも気をつけなければ。


 それから僕はオーロラに抱き抱えられたまま教室へと戻り、オーロラの熱い視線を感じながら先生が話す帝国の歴史に耳を傾けていた。




 自分で承諾しておいてこんなこと言うのも何だけど、突然の召喚に少々興奮して我を忘れていた自分がいる。オーロラの机の隅に座りながら、帝国の歴史についての話を聞いているうちに段々と冷静になってくると、先ほどまでの行動が恥ずかしくなってきた。美少女に抱かれて教室にinとは……とは言ってもいつまでも動揺してばかりはいられないので、改めて自分の置かれた状況を確認してみることにする。


 まずは授業中だというのに僕を見つめながらぶつぶつと独り言呟いているのは、僕を召喚した少女オーロラだ。そして、教室の前で授業をしているのがエリザベートと呼ばれていた。おそらくこのクラスの担当教師なのだろう。彼女の授業から、ここが帝国領だということはわかった。


 それから、ざっと周りを見回すとオーロラの他に生徒と思われる人が4人。オーロラも含めて、5人が一列に並んでいる。


 真ん中に座っているのは、茶色の短髪に自信に満ちあふれた目。僕が召喚されたときに真っ先に猫だと笑った人物。確か名前はドルイドと言ったはず。腕に絡みついているのはDランクの魔物ポイズンスネークだ。彼の召喚獣なのだろう。


 その右隣に座っているのはカルストと呼ばれていた金髪のロン毛で細目の少年。彼が座る椅子の横に行儀よく座っているのは、彼の召喚獣であるキラードッグであろう。


 ドルイドの左隣は女の子でイザベラと呼ばれていたはず。椅子の下で丸くなって寝ているのは、鑑定でツインテイルフォックスとなっていた。名前の通りなら、尾が2本あるキツネの魔物だろうか。


 そして、オーロラから一番遠い右端に座っているのは、唯一僕をバカにしなかった人物。カレンと呼ばれていた少女だ。まあ、バカにしなかったと言うよりかわいいものに目がないと言った方がいいのかもしれないが。彼女の周りをマイラの村で見かけた幻惑蝶が飛んでおり、さらに右肩にはウインドバードと呼ばれる風属性を持つ小鳥がとまっている。


 彼らの会話から全員が召喚士でしかも召喚獣を2匹所持しているらしく、この教室にいない召喚獣は学園内にある専用の獣舎に預けられているようだ。


 さて、見た感じでわかるのはこのくらいなので、後はこれからの生活で追々調べていこう。

 それから、教室の前で授業をしているエリザベート先生の話だが、これはこれで中々興味深い。先ほどまでは帝国の誕生の話をしていたが、今は帝国の方針的な話に変わっている。それによると、帝国は皇帝カリグラ・クリフォードが治める国で主に軍事力増強に力を入れているそうだ。もちろん皇帝一家を始め、貴族が国の重役を担っていることが多いようだが、それでも実力があれば平民だろうが、場合によっては奴隷であろうが重役に抜擢されることもあるらしい。


 特に帝国が誇る帝国騎士団や帝国魔術団の部隊長には、平民出身の者が少なからずいるという。かく言う皇帝も第一皇子が継げるわけではなく、子ども達の中から一番優秀なものが次の皇帝になるそうだ。それこそ男も女も関係なく。


 現在の皇帝には3人の皇子と2人の皇女がいる。この5人が次期皇帝を目指して、互いに競い合っているという話だ。この辺りが王位継承権に順番がある王国とは違うところだ。


 そして最終的エリザベート先生は、ここで優秀な成績を収めて帝国魔術団に入れるように頑張りましょうと締めてこの授業が終了した。久しぶりに学校で授業を受けたが、どうして中々面白い内容だった。転生する前はそれほど社会の授業が好きなわけではなかったが、自分が将来関わることがあるかもしれないと思うと楽しく話を聞くことができた。




「よし! 君の名前は『ミスト』に決めた!」


 授業が終わり、エリザベート先生が教室から出ていった後、突然オーロラが僕を抱き上げてそんなことを言い出した。と言うかこの子、先生の話をちっとも聞いてないと思ったらずっと僕の名前を考えていたのか。授業を聞いてないのはどうかと思うが、それとは別にこれはこれで嬉しいような……


 そして、『ミスト』という名前。僕の種族がミラージュキャットとは知らないはずだが、狙ったようにしっくりとくる名前をつけてくれた。オーロラにミラージュにミスト。おまけに街の名前はレインボウ。幻想的な自然現象シリーズといったところかな。


種族 ミラージュキャット(変異種)

名前 ミスト

ランク A

レベル  12 

体力    648/648

魔力    760/760

攻撃力   498

防御力   478

魔法攻撃力 802

魔法防御力 792

敏捷    710


スキル

特殊進化

言語理解

詠唱破棄

暗視

念話

アイテムボックス Lv25

鑑定 Lv25

ステータス隠蔽 Lv19

思考加速 Lv26

生命探知 Lv26

魔力探知 Lv26

敵意察知 Lv24

危機察知 Lv24

気配遮断 Lv19

魔力遮断 Lv19

体力自動回復 Lv23

魔力自動回復 Lv26

幻惑 Lv21

魔眼(麻痺) Lv18

光魔法 Lv24

水魔法 Lv28

風魔法 Lv19

土魔法 Lv19

雷魔法 Lv21

時空魔法 Lv14

重力魔法 Lv14

猛毒生成 Lv22

麻痺毒生成 Lv18

睡眠毒生成 Lv18

混乱毒生成 Lv18

痛覚耐性 Lv19

猛毒耐性 Lv22

麻痺耐性 Lv18

睡眠耐性 Lv18

混乱耐性 Lv18

幻惑耐性 Lv18

水耐性 Lv19

風耐性 Lv19

土耐性 Lv19

雷耐性 Lv19

瘴気 Lv17

硬化 Lv16

雷纏 Lv20


称号

転生者 

スキルコレクター

進化者

大物食いジャイアントキリング

暗殺者

同族殺し

加護主 New!


 おや? 称号に新しい……うわ!? 何だ!?


 僕がステータスを確認していると、突然僕の頭に機械質な声が響いてきた。


『条件を満たしましたので、加護を与えることができるようになりました』


 突然の声に驚いたけど、これは今まさに見つけた新しい称号と関係あるのでは? ミラージュキャットに進化した瞬間ではなく、今手に入ったということは、名前が関係あるのか? かといって、誰も彼もが加護主になれるわけじゃあないだろうから一定のランクと名前が条件ということかもしれないな。


 加護主を鑑定してみると『波長の合う者に加護を与えることができる。効果は加護主のランク・称号・スキルに依存する』と出ている。なるほど、波長の合う者という条件はつくが加護を与える立場になれたということか。僕もまあ、ずいぶんと成長したものだ。


 何てほのぼのしている場合ではない。せっかく加護を与えることができるようになったのだから、ぜひオーロラに加護をあげたい。僕のことをただの猫だと思っているのに嫌な顔一つせずに受け入れてくれた、心優しい召喚士。そんな彼女に早速恩返しができるチャンスが来たのだから、活用させて貰おう。ただし、隠蔽する必要はありそうだけどね。


 名前をつけたことで満足げな表情を浮かべるオーロラを見つめ、『加護を与えたい』と願った……すると


種族 人族

名前 オーロラ

ランク  なし

レベル 5

体力    22/22

魔力    2/25

攻撃力    15

防御力    18

魔法攻撃力 21

魔法防御力 26

敏捷     14


スキル

召喚魔法 Lv5


(称号)

(ミストの加護)


 よしよし、隠蔽も含めて上手くいったようだ。ちなみに"ミストの加護"を鑑定してみると『スキルレベルが上がりやすくなる・体力の回復速度が上昇する・魔力の回復速度が上昇する』ってなってた……。いや、これ隠蔽してもすぐにバレるやつじゃないの?


 とは思ったが、彼女のためになるなら付けておいた方がいいだろう。ステータスでは見えないのだから、おかしいとは思っても僕のせいだとは気がつかないかもしれないしね。


 僕が加護をつけ終わったところで、オーロラはようやく帰り支度を始めた。どうやら先ほどの授業が今日の最後の授業だったようで。他の4人はとっくに帰る支度を終えている。

 一人遅れているオーロラを待っている者は誰もいないが、帰りがけに声をかけてくれている辺りを見るとそれほど仲が悪いわけではないのかもしれない。


 僕が召喚されたときはちょっとバカにされたような言動が目立っていたから、いじめられているのかとも心配したがそうではなさそうだとわかってちょっとホッとした。

 ただ、レベルや召喚魔法のスキルが低いので一緒に行動する機会が少ないのだろう。オーロラの方からもちょっと距離をおいている感じもするし。

 だがしかし、僕が来たからには大丈夫。僕があげた加護がスキルレベルを上げやすくしてくれるだろうし、レベルだって僕が本気を出せばすぐに上がるだろう。もちろん、バカみたいに本気を出すつもりはないが、僕の実力がバレない程度には協力してあげたい。


 一足遅れて教室から出た僕達は、おそらく他のクラスであろう他の人達に混ざって校舎を出た。真っ黒な猫が珍しいのか、すれ違う人みんなに見られたが話しかけてくる人はいなかった。

 あー、真っ黒というか魔物ではない動物の猫がいるのが珍しいのかも……幻惑の効果で本当にただの黒猫にしか見えないようにしているからね。スキルレベルも高いから、魔物特有の気配も隠せているし余計にただの猫に見えるんだろうな。


 さて、今日の授業は終わったようだからこの後はこの街がどんな街なのか、これからどんな生活が待っているのか、しっかりと情報収集をしていこう。

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