閑話 石遊び

 『錬金術』スキルを捨てた蒼唯。一番の理由は、蒼唯の脆弱な肉体では肥大化した『錬金術』スキルを維持できないためであるが、それ以外に製作の自由度の関係などもあり捨てることを決断したのであった。


「これをポーンと、よしできたです」

「ぬいぬい!」

「まあできたって言っても粗が多いですね。既製品でこれの精度だとです、流石にぬいやまっくよを弄るのは躊躇われるです」

「まくま~」

【私としましては、スキルを捨てた直後にそのレベルのアイテムを数分で造り出せてることが衝撃なのですが…】


 前々からスキルを用いない製作も取り入れていたこともあり、スキルを捨てたからと言って製作できずオロオロする等と言う事は無い。とは言え、やはり完全手動での製作は初めてなため、完成品は蒼唯にしては粗が目立つ仕上がりとなった。

 まあ、蒼唯にしてはと言うだけで、一般基準からすれば充分すぎる完成度であるが。


「自由度が上がったですから、より良い選択肢を選べる判断力と、そのための技術力は必須ですね」

「ぬいぬい」


 しかし、必要があったとは言え自らの意思でスキルを捨てたのだから、最低限スキル保有時と同等の精度は保っていたい。

 俯き少し考え込んだ後、蒼唯は決心する。


「判断力は色んなモノ造るくらいしかねーですけど、技術力は反復練習でいけるです。…となると久しぶりにでもやるかです。石の在庫あったかなです?」

「まく?」

「石は石です。素材名は『ただの石』とかそんなだった気が……あー、まあこれくらいなら出来そうですね」


 蒼唯は様々なアイテムが置かれている保管部屋に赴き、棚に置いてあった『時空鞄』の内の1つを確認しそう呟く。

 蒼唯が『時空鞄』から取り出したのはなんの変哲もない『ただの石』である。低位であればどこのダンジョンからでも採れるその素材は、しかしなんの役にも立たないため、誰からも見向きされない素材であった。


【こ。これくらいって、そんなに『ただの石』がストックされているの見たことありませんよ】

「そうです? 本当はもっと多い方が好ましいですけど…まあ足りなくなったらぬいたちに集めて貰うです」

「ぬいぬい!」

「まくま~」

【『ただの石』に使い道があることに驚きなのですが。 元の世界でも、ゴミとして廃棄されてしまうような素材ですので】


 それはリリスの元の世界でも同様のようで、『時空鞄』から大量の『ただの石』を取り出すと驚いていた。


「まあ、これ自体は単なるゴミです。ただ『ただの石』同士を合成すると…『硬石』になるです」

【『硬石』ですか…】

「そうしたらもう1つ『硬石』を造って『硬石』同士を合成するです。ってのを『ただの石』が無くなるまで反復するです」

「ぬいぬい? ぬい!」

「意味です? 合成と合成物の均一化、制御力、単純作業による苦痛耐性の向上とか色々です」

【最後だけ何か違う気がしましたが…ですが合成や魔力制御ならば尚更、いつものように高位の素材を使っての製作をした方が効率が良いような気がしますが?】


 リリスの疑問は当然である。低位の素材は初心者でも簡単に扱える程度のモノであり、蒼唯レベルであれば片手間で合成できてしまう。それでは練習になるのか疑問となるのも当然である。


「流石に私も、不揃いな高位素材の合成は難しいです。普段のモノ造りだとあんまし合成は使わないですし」

【合成を使わない? 普段からお使いになられていませんか?】

「広義だと使ってるですけど、細かく言えばいつも使ってるのは基本的に強化とか付与ですね」

【何か違いが?】

「違いです? 敢えて言うなら主となるモノを決めるか決めないかです?」

【主となる…】

「説明が難しいですね。あの爺さんは何て言ってたですっけ? うーんと、薬草同士を掛け合わせて「特薬草」にするのが合成で、『薬草+1』とかにするのが強化とか付与です」

【なるほど。素材同士を掛け合わせ別のモノに進化させるか、主の素材に強化用の素材の良さを追加するのかの違いですね】


 蒼唯に限らず『錬金術師』による製作は、主となる装備品なりアイテムに対して素材を掛け合わせる、つまり付与や強化が主体となる。

 そのため合成をやったことの無い、やったとしても低位素材くらいである『錬金術師』は多い。それなのにも関わらず合成失敗のリスクは、強化や付与の失敗のリスクに比べて明らかに大きい。

 

 例えば『硬石』の硬いという特性をリリスに付与しようとした場合、失敗しても石の匂いが染み付いたリリスが誕生するだけで済む。

 一方リリスと『硬石』を合成しストーンリリスを造ろうとして失敗すれば、最悪の場合はリリス成分配合の『硬石』が爆誕する羽目になってしまうのだ。

 

 しかも、リリスと『硬石』では合成する上で必要な魔力量も違ければ、魔力への抵抗力も違う。そんな不揃いな素材たちを魔力によって均一化させつつ、錬金術を行使し合成させる。普通に考えれば成功する訳がない話である。

 

【分かりやすかったですが、例えはもっと別の…いえ、だからこそ合成の練習は大切だと。ですが探索者協会でもこのような練習方法は聞いたことありませんが、蒼唯様が自らの開発させたのですか?】

「この『石遊び』です? 違うですよ」

【ですが、蒼唯様はあまり他の『錬金術師』の方々と交流がありませんよね? では誰から】

「『錬金術師』を授かったダンジョンに、何か変な爺さんがいたですよ。その人が何か色々と教えてきたです」


 謎の人物の登場に驚くリリス。


【変なお爺様ですか?】

「そうです。何か偉そうな爺さんで、この『石遊び』で『不壊石アダマンタイト』まで合成できれば一人前じゃとか言ってたです」

【『ただの石』から『不壊石アダマンタイト』まで! そんな事が可能なのですか!】

「出来るですよ。まあそう言う私も最初の頃は全然でしたです。『不壊石アダマンタイト』の二つくらい手前の『金剛石』くらいで失敗しちゃったです」

【充分すぎるでしょうそれは…】

「そうです? その爺さんも呆れちゃったのか、口パクパクさせてどっかに消えちゃってそれ以降会えてねーですよ?」

【それは呆れたのでは…まあ別の意味で呆れたのでしょうけど】


 昔から蒼唯は蒼唯だと再確認できるエピソードである。だが謎の多いエピソードでもある。


「まあでもあの爺さんが色々教えてくれたから興味を持って『錬金術』を続けたのはあるですね。変な爺さんでしたけど」

【そうですが。…ダンジョンに現れた謎の老人、元の世界でも疎かになっていた合成、それを鍛える『石遊び』】


 そんな事を昔話を語りながら『石遊び』を続けるのであった。

 


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