第6話
大サロンで座って待っていると
ゾフィー皇太后に皇帝フランツ・ヨーゼフ、そしてカール・ルートヴィヒが入ってきた。
挨拶は型通りに無事に済んだし、みんなが口には出さないけど何を決めるために集まったのか分かっているから会話が空々しく聞こえる。
ルドヴィカお母さんやゾフィー皇太后は気を利かせて、イレーネと皇帝陛下、私とルートヴィヒをグループ化して席を分けてくれた。
グッジョブよ!
「殿下、素敵な贈り物や、お見舞いの品をありがとうございました」
特に話す話題もないのでお礼を述べることにした。
「喜んでくれたならよかった、昔、インスブルックで会った時よりも美しいプリンセスになったね」
あら、やっぱり皇帝の弟となると口もうまくなるのね。
なんとなく思い出したわ、たしかヨルダンだかエジプトで生水飲んで死んじゃった人だわ。
「まぁ、ありがとうございます、でもこんな喪服で髪も纏まってないから恥ずかしいですわ」
こんな他愛もない会話でなんとか暇つぶしをしていた。
お茶とお茶菓子や果物が出されたけど、お茶はともかくお菓子は誰か先に食べてくれないと食べづらいわ……。
砂糖ぶちまけたクッキーがザントクーヘンで
マリーアントワネットでお馴染みのクグロフがグーゲルフプフ、クロワッサンの基がキプフェルン。
見事に茶色い。
高校男子の弁当並みにベージュ茶色の食べ物だわ。
でも、茶色の食べ物って美味しいのよね。
「このお茶、良い香りですわね」
「たしかに、良い香りだね、薔薇とスミレをあわせたような柔らかな香りだ」
カール・ルートヴィヒったら意外に詩人なのね。
ふと、イレーネの方を見ると、はにかむイレーネに
内気な皇帝がモジモジしてる中でゾフィー皇太后と肝っ玉母さんルドヴィカが代理で会話してるみたいなコントが繰り広げられている。
「まぁああ、へレーネは顔立ちが可愛くて綺麗ね、宮廷にもこんな美人さんはなかなかいませんよ、そうよねフランツ!」
「はい……」
「皇帝陛下はまさにおとぎ話に出てくる王様以上にハンサムで魅力的ですわね、そのお声にも心が花開くようですわ、そうよねイレーネ!」
「はぃ……お母さま……」
こんな感じなので見なかったことにして、とりあえずカール・ルートヴィヒとの当たり障りない会話で耐え忍ぼう。
「シシィって呼んでいいかな?」
「殿下がお望みならば」
「僕のこともカール・ルートヴィヒって呼んでよ」
「殿下がお望みならば」
「じゃあ果物投げ合いっこしよ」
「それはダメです」
「ちゃんと話は聞いてるんだね、同じ返しが続いてたから聞いてないのかと思ったよ」
小さな声でカール・ルートヴィヒ殿下がそう言うので私も
「そんな無礼なことしたら母に叱られますもの、それよりもお菓子食べません?飾りじゃないんだから食べた方がいいと思うのよ」
と囁くとカール・ルートヴィヒ殿下は頷き
砂糖をぶちまけたクッキーを手に取り、私にも渡してくれて二人で食べ始めた。
「日持ちするようになんでしょうけど甘いわね、でもザラメがついてるのはいいアクセントだしバターの香りもいいわね」
「たしかにちょっと甘いよね」
カール・ルートヴィヒ殿下と私はお菓子を批評しながら過ごすことにした。
じゃないと大した会話の内容がお互い思いつかなかったからだ。
お菓子を全種類食べてフルーツ食べるか迷っていると
「それではみなさん、食事にしましょう」
とゾフィー皇太后が言うので、皇帝はイレーネをカール・ルートヴィヒは私をエスコートして食事を始めることになった。
「微妙にお腹いっぱいだわ、私」
「シシィ、僕もだよ」
私達は囁きあい微笑んだ。
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