オネエが悲劇の皇后エリザベートに転生したけどなんとかなる件について

カトリーヌ・ドゥ・ウッドウェル

第1話




「不幸にあってはじめて自分が何者なのかわかるのです」





そう言ったのフランス王妃マリーアントワネットだったけど、あの人おバカよ。


不幸になろうがなるまいが自分は自分でしかないんだから。




私はそんなことを思いながらスイスのチーズフォンデュやチョコレートを楽しんでいた。

私が働いている化粧品会社のビックプロジェクト。

新コスメティックライン「エヴァンタイユ」は大成功に終わった。

毎日鏡の前に座るのが楽しくなるような美しく可愛いパッケージデザイン、使えるカラーバリエーション、崩れにくく自然な仕上がりは世の女性に大ヒット。

価格もちょうどよく、外資系コスメみたいにオシャレということでこれからの飛躍に期待って感じよ。


私は成功のご褒美にヨーロッパの旅に出る長期休暇をゲットしてイギリス、フランス、モナコ、イタリア、

そしてスイスに来ているの、次はオーストリアでミュージカルを観たり宮殿を見学したり、スイーツを食べるほかに、王侯貴族がいた時代からある薬局などを周って、どんなスキンケアがあるか調査もするわ。

そうよ、ただ遊んでるわけじゃないのよ私。

イギリスではハーブやアロマのリサーチ、フランスでグラースの香料を学び、ヴェルサイユの貴族達が使っていた香り付き手袋からヒントをもらったハンドケアの案を日本に送ったりしたわ。

イタリアでは修道院コスメやフィレンツェのアイリスの香料を見せてもらったり色々したわ。

もちろん各国の殿方も色々物色しましたよ。

当たり前でしょ、まあ男なんて国は違えど変わらないわね。


「高橋さん、早く準備しないと船に乗り遅れますよ!」


そう呼びけてバタバタ荷物をまとめているのは優秀な同僚で友人の入間鈴香。

先にまとめておかないからバタバタするのよ、

多少遅れても気ままな旅だからいいわ。

私はホテルの部屋で近くの農場から取り寄せた搾りたてミルクをゆっくりと味わっている。


「入間!とにかくちょっと飲んでみなさいよ、美味しいミルクだから」


私はグラスにミルクを注ぎ渡した。


「もうっ!!……うまっ!やばいうまい」


「ね?やっぱり搾りたては香りも味も濃厚さも違うわね」


そう言いつつ、飲み切ったグラスを片付けて私たちは部屋を見渡したあと忘れ物がないことを確認してホテルを後にした。


「見て、こんなにはっきりモンブランが見えるなんて!」


私はため息混じりに言った。


「え?どこですか?ケーキ屋さんなんか見当たりませんよ」


「違うわよ、山!山よ!」


私は美しく雄大な山並みを見せるモンブランを指差した。


「山か……早く行きましょ」


「入間、なんだか落ち着かないわね、バスツアーじゃないんだからのんびりいきましょうよ」


「時間がズレるとオーストリアのホテルに着くのとミュージカルに間に合わなくなりますよ!」


「あら、いいじゃない荷物持ったまま劇場に行けば、なんのミュージカルを予約したの?」


「エリザベートですよ」


入間は誇らしげな笑顔で私に答えた。


「宝塚か東宝で見た気がするわ、なんか死神とかでてきたり刺されて死んだ美人よね」


「そうですよ!ちょうどここレマン……」


入間が話している途中で私は見知らぬ男性にぶつかってしまった。

男は謝りもしないで素早く立ち去っていった。


「だ…大丈夫ですか!?」


「え?」


入間は真っ青な顔で私を見ている。

私は胸のあたりがチクリとしたような感じがして

胸元を見てみると徐々に赤く染まっていくのが見えた。

力が抜けていく、痛みを感じる。


「私はいったいどうしたのか…し…ら」


「高橋さん!!Rufen Sie bitte einen Arzt!!(お医者さんをよんでください)」


目の前には青い空が見えてパニックを起こして泣き出した入間やなんとか助けようとしてくれてる現地の方々がみえる。

言葉を出そうにも力が出ない。

貧血みたいに目の前が暗くなるかと思いきや、どんどんぼやけて白い光の中に意識は消えていく。


みんなありがとう。

長くはない人生だったけど

美味しいもの食べて恋もして

欲しいものは手に入れてしたいことは全部して

私にはこれで良かったのかも知れないわ。

入間、マジごめん後のことよろしく。


神様、素敵な人生だった。

ありがとうございます。

父さん、母さん

今からそちらに行きます。


私はその思いを胸に意識を手放し、三十五年の生涯を終えたのだった。

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