10・料理

 完全に油断をしていた。

 こういったミスが命取りになってしまう。

 辺りを確認して慎重に行動せねばな。


「たっ助かったわ。ありがとう、ケイト」


「いえ、怪我無くて良かったです。この辺りにいるとまた襲われるので、丘にあがりましょう」


「あ、うん……」


 確かに危険な肉食のモンスターだ。

 けど、こいつの身は食べられるし貝殻はすごく硬いから一部地域では鍋として使ったり、鈍器といった道具として使われている。

 食料と同時に道具も手に入る……これはぜひとも捕獲したいところだな。


「……ケイト、あの貝のモンスターを捕るわよ」


「えっ? あれをですか?」


「うん。身は食べられるし、貝殻は硬いから道具として使えるの……つまり……」


「見逃す選択肢はない……ですか。ですが、どう捕獲するのですか?」


 陸にさえ上げてしまえば殻を閉じてしまうから、そこを手に入れたロープで縛れば大丈夫だろう。

 問題はどうやって触手を交わして本体を陸に上げるかだ。


 やっぱりこういう時の定番は、食べ物を与えて食っている間に捕まえるだよな。

 今手元にあるのはスライム貝……さすがに小さすぎて、隙を作れるほどの時間を稼げるとは思えない。


「……う~ん」


 物は試しで木の棒をつっこんでみるか。

 それで隙が出来れば万々歳だし。

 俺はさっそく流木の中で手ごろなサイズの木を手に取った。


「……? お嬢様、その木の棒で捕獲するんですか?」


「獲物と間違えてくれるかどうかね……もしこの木の棒を食べ始めたらサッと海の中から出しちゃうわよ」


「わかりました」


 木の棒をゆっくり貝のモンスターの前へと持って行った。

 すると木の棒に触手が絡みつき、貝殻の中へと引き摺り込みバキバキと木を食べる音が聞こえ始めた。

 おいおい、なんでもかんでも触手で捕獲したのは食べるってか。

 まぁそのおかげで触手は出ていない、これならいけるぞ。


「ケイト、今よ!」


「はい!」


 ケイトと力を合わせて貝のモンスターを海の中から引きずり出す事に成功した。

 サイズ的にはバスケットボールくらいだろうか。

 陸にあがればもうこっちの物だ、ロープで口が開かない様に結べばこれでもう大丈夫。


「今日1番の大物ですね!」


「そうね」


 この大きさならみんなのお腹も満たせるだろう。

 あー食べるのが楽しみだ。

 俺達は意気揚々とシェルターへと帰った。



 シェルターに戻ると、ユキネさんとトモヒロが戻っていた。

 ユキネさんは貝を見るなり大喜びの声をあげた。


「まさか、こんな大きいな貝を食べられるなんて思いもしいひんだわ!!」


 正確にはモンスターなんだけどな。

 まぁそれはどうでもいいか、一応貝でもあるし。


「で、これをどうやって料理するん?」


「この貝殻は鍋にも使われるほど頑丈なので、このまま火の上に置いちゃいます」


「へぇ~……それはすごいな~」


「えっ!? 鍋ぇ!」


 ベルルさんが鍋の言葉に反応したぞ。

 そんなに驚く事かな?

 まぁいいや、話を進めよう。


「とはいえ、固定して焼ける様にかまどは作らないといけないですけどね」


「かまど?」


「はい、まずは穴を掘って……その周りに大きな石を並べます」


 並べる形はコの字型、これがかなり重要。

 そしてコの字型に並べたら、崩れない様に石を積み上げていく。

 ある程度積み上げたらコの字の入り口部分の横に、長くて平たい石をまたがるように渡す。

 こうすれば、この上の空いている部分がロの形になって貝殻を乗せても固定されて、直火もあてられる。


「……これで完成っ! 今日からここがキッチンです!」


「おぉ~! アンちゃんすごいわぁ!!」


 ベルルさんの目を開いて、瞳を輝かせて喜んでいるぞ。

 え? なに? どういう事なの?


「わたしねぇ、料理が趣味なのよぉ!!」


「そ、そうだったんですか」


 なるほど、それでこんなに喜んでいたのか。


「だからぁこの貝、わたしに料理をさせてほしいなぁ~」


 料理か。

 そのまま焼くだけのつもりだったから、それもいいな。

 料理好きに任せるとしよう。


「いいですよ、よろしくお願いします」


「よぉ~し! 頑張るわよぉ!」


 ベルルさんがいそいそとかまどに火を入れる準備を始めた。

 となれば、ユキネさんとトモヒロが採って来てくれた物も選別して料理の食材として使ってもらおう。


「ユキネさん、何が採れました?」


「あ、それやけど……見つけられたのは、このくらいやったわ」


 ユキネさんが地面から大きな葉っぱを持ち上げた。

 その上には木のみ3種類とキノコが2個乗っていた。

 うーん……これは島全体で探さないと駄目っぽいな。



「これと、これは食べられる……後は無理ですね」


 米つぶみたいな黒い実も直接は食べられないけど、コショウみたいに調味料として使えるから大丈夫としても……食べられるのが木苺によく似た奴と、実が小さいミニ枝豆のみか。

 キンコはどっちも毒。

 つか、こんな赤くてまだら模様と全体が濃い紫色のキノコは見た目からして毒と思うだろ。

 何で持って帰ってくるかな。


「ええっ! キノコは全部だめなん!? この赤くてまだら模様のキノコはうまそうやんか!」


 嘘でしょ……本気で言っているのか?


「……ん? そこの草の束は何ですか?」


 ふと、ユキネさんの足元にいろな種類の草の束がある事に気が付いた。


「あれはトモヒロが集めたんや。自分が食べたいからって全く……」


「……これ、食べられる野草ですよ」


「えっ?」


 現実世界でいうとヨモギ、たんぽぽ、ノビル、ハコベといった生で食べられるのもあれば、ふきみたいに調理をすれば食えるのもある。


「トモヒロ! よくやったわ!」


 これは大きい収穫だぞ。

 一気に食べ物の種類が増えた!

 俺はトモヒロの頭を撫でてあげた。


『ウホホホー』


 褒められてトモヒロも嬉しそうだ。

 さっそくベルルさんに野草を持って行こう。


「~~~~このこのこの!!」


「ウホッ? ウホッ??」


 ベルルさんに野草を持って行こうとすると、ユキネさんがトモヒロをポカポカと叩き出した。

 突然の事にトモヒロも困惑した様子。

 何で急にじゃれ合っているんだろうか。




「みんなぁ~! 出来たわよぉ~!」


 ベルルさんの声が響き渡った。

 薪作りの作業をしていた俺達は手を止め、かまどへと向かった。


「お~! 良い匂い!」


 貝殻の鍋にはタコの足の様な触手と野草が入ったスープが出来上がっていた。

 そのスープを、石器で木の中をくり抜いて作った器の中へと入れた。

 無人島でこんなうまそうな料理を食べられるとは思いもしなかった。


「はい、召し上がれぇ~」


「「いただきま~す!」」


「いただきます」


『ウホッ!』


 ベルルさんの言葉で俺達は一斉にスープを口の中へと入れた。













「――はっ!」


 あ、あぶねぇ!

 今意識が飛んでしまっていたぞ。

 なんだこのスープは!? 激マズすぎるぞ!!

 甘いような苦いような辛いようなすっぱいような……とにかく、ありとあらゆる味が混じり合ってこの世の物とは思えない味になっている! 

 何をどうしたらこんな味になるんだよ!?


「「『……』」」


 ケイトたちの顔を見ると、にが虫を噛んだかのように歪んでいる。

 多分俺と同じ事を思っているんだろうな。


「どおぉ~? おいしいかなぁ~?」


「え? あ~……え~と……」


 これはなんて答えるのが正解なんだ。

 あのニッコニコの笑顔を見るとマズイだなんてとても言えない。


「……これ、マズ――むがっ!?」


 マズイと言いかけたユキネさんの口を、ケイトがとっさに押さえた。

 そして、ケイトは俺の顔を見てアイコンタクトをとって来た。

 ……何とかしろって事かよ。


「え、え~と…………あっ! 内臓はちゃんと取りましたか?」


「内臓ぉ? とってないわぁ」


 これはある意味本当。

 種類にもよるが、魚や動物の内臓はちゃんと取らないと味が悪くなる。


「やっぱりそうでしたか、ちょっと……というかかなり苦味が強くて……その……」


「そ、それはごめんねぇ! 今度から気を付けるわぁ」


 今度なんてない。

 これからは、あれこれと理由をつけてケイトに料理をしてもらおう。

 じゃないと命に関わる事だから……。

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