第39話
改めて貴族と交換した魔石に魔力を注ぐことになりました。グリーベアの魔石とほぼ大きさが変わらない二つの魔石をパウラが手にしてじっと見つめています。
「後で返せって言われないかしら?」
自分で交渉しておいて取り引きの結果に疑問があるようです。
「あれ程の品ならわざわざ討伐隊に自ら参加せずとも魔石を寄付するだけで貢献者に名を連ねることができる。あやつらはどう見ても三流の騎士、わざわざ危険を侵さなくとも名誉を得る機会があるならそちらを選ぶであろ」
ネーポムクが自画自賛とも言える発言をしました。あれは彼の魔力ですからね。
「そうなんだ……もっとふっかけておけば良かったかしら」
パウラの後悔はさておき、ネーポムクが魔石の一つを手に取り魔力を注入していきました。
眩い光に目を細め、パウラがその様子をじっと見つめています。
次は彼女の番ですから。
ネーポムクはあっさりと魔力の注入を終えるとパウラに向き直り彼女の掌にのる魔石を指さしました。
「この中にはB級の魔力が入っておる。それらを押し出し、自分の魔力で染め上げる気で一気に押し込め」
パウラにとっては魔石に魔力を込めることも、魔石から誰かの魔力を押し出す事も染め上げる事も何もかもが初めての事らしくかなり緊張しています。
何度も深呼吸してさぁ始めるかと思いきやこちらを見て情けない顔をしました。
「ロータルぅ、貴方からやってよぉ〜」
仕方無い娘ですね。
「パウラ、自信を持っていいぞ。お前はこの数ケ月でかなり腕を上げた。きっとちゃんと審査すればA級だ。だから気負わず軽く仕上げるつもりでやれ」
「でもぉ……」
面倒いです。
「他の魔法師に依頼したら幾らかかかるか知ってるか?魔石一個で名誉が買える金額なんだぞ」
「あっ……」
さっきの事を思い出したのか急に背筋を伸ばすと意識を魔石へ集中させ始めました。やはりパウラには金ですね、やれやれ。
パウラの掌にある魔石はほんのり光り始めました。
「もっと集中しろ!」
ネーポムクの言葉にググっと眉間にシワを寄せていきます。すると魔石が更に輝き出し魔力がどんどん注ぎ込まれるのがわかります。
「パウラ凄いな……」
ここまでの流れを黙って見ていたエアハルトがボソリと呟きました。
ふふっ、彼女は貴方の為に頑張っているってこと自覚してます?
なんだかホコホコした気持ちで二人を見守っているとパウラが持っている魔石がひときわ輝き魔力を注入し終えたことがわかりました。
「そこまでだ!」
ネーポムクの言葉に彼女はふっと力を抜きました。掌には透明感のある蒼い魔石が美しい輝きを放っています。
「うむ、上出来だ。よくやったな、パウラ」
ネーポムクからお褒めの言葉をもらってやり遂げた事を実感したのか、パウラはその場にへたり込みました。
「大丈夫かよ?」
私の問いかけに彼女はヘラっと笑います。
「次はロータルの番よ」
「わかってるさ」
早速エアハルトがこれまでの二ヶ月間で集めた大きさが入り混じった魔石が詰まった布袋を差し出しました。
「ほらこれ、頼む」
「あぁ」
布袋を持つなりグッと魔力を込めると一気に注がれた魔力の輝きは布袋越しでもかなり眩しく、皆がどよめきました。
「わぁー、待って!なにそれ!?」
「ちょっとやり過ぎだぞ!」
「うぬぅ、これ程とは……」
「なっ!?」
ナジブまでも加わってそれぞれが叫んでいましたが光が収まると同時に声も収まりました。
「出来たぞ」
すっと差し出すその袋を誰も受け取ってくれません。
「それ持ったら爆発するとかない?」
パウラが恐る恐る尋ねてきます。
「そんな事あるわけないだろ。ただの魔石だぞ」
「いや
エアハルトがそろっと手を伸ばし受け取った袋の中身を取出しました。
「ほぅ……」
ネーポムクがそれを見て感心した声を溢しました。
「こんなに透き通った魔石を見たことがない」
補助魔法を得意とする私の魔力は無色透明で、透き通った魔石は光の屈折により自身が発光しているようにも見えます。
「綺麗ね……この小さいの一つもらってもいい?」
パウラが中でも形の良いひと粒をそっと取り出しました。
「あぁ、こんなにいらないからな。剣の為にはこの半分の量でいい」
割り込んできたナジブが雑な手付きで袋からわしっと手掴みで魔石を一掴み取り出し、パウラとネーポムクからも魔石を奪うとそのまま小屋へ入って行きました。
「あやつも刀鍛冶として腕がなるのであろ。出来上がるまでは放っておこう。それよりこの魔石には補助魔法の魔力がそなわっているということであろ?使えるのではないか?」
「あぁ、勿論」
魔石は使い方によっては持っている者にその能力を発揮できる事がある。
エアハルトの剣は三種の魔石を材料として使うことによって攻撃力と頑強さを増し、補助がそれを底上げする。
魔力が入った魔石も上手く道具に組み込めば能力を発揮できる。
「まぁ、これは補助魔法を基準にして考えれば盾や防具に組み込んで防御力向上を見込むのが通常だな」
私はそう言ってエアハルトが持っている防具の肩当てを出すように言うとそこへ魔石をザラッと並べて魔力で装着させた。
「こうすれば防御力が上がる。普通に魔法だけで付与するより強力だぞ」
魔石が装着された肩当ては少々古ぼけていましたが今は魔石がキラキラと光りを反射しちょっと高級感がでました。イイ感じです。
「ちょっとそんな杜撰なやり方で魔石を無駄遣いしないで!!」
良かれと思ってやったことをパウラが物凄い勢いで怒ってきました。
「こういう事はちゃんと並べるとか、計算して作るものでしょう!それをこんなバラバラに張り付けて……いいから私に任せなさい!」
そう言って布袋を奪い取ったパウラは皆の防具やマントを集め魔石の残りを数えてどれに魔石を幾つつけるかを考え始めた。
「良い事したはずなのに……」
解せない気持ちでいるとエアハルトがポンと肩を叩きました。
「パウラは皆に平等に防御力を付与させたいんだよ」
「平等じゃなくていいだろ?突っ込んで剣で戦うエアハルトが一番防御力を上げなきゃいけないだろ?」
「基本はそうだろうけど、ロータルの事だって心配なんだよ」
「俺は自分で自分を守れる」
補助や防御は私の仕事ですからね。
「それでも心配する気持ちに変わりはないよ。お前だって油断したり自分で防御出来ない時があるかもしれないじゃないか」
ニコッと笑うエアハルトを不思議な感覚で見ていました。
油断してやられてしまうのは私の責任です。それに多少の事なら回復出来ます。そうです、回復出来ることはまだ話していませんでした。だからですね。
「俺は回復も使えるから平気だ」
「そうか、凄いな。でも怪我すれば痛みを感じるんだからしないことが重要だぞ」
ワシワシと頭を撫でるエアハルトはやはり私を弟扱いしているのでしょう。それも、悪くありませんけどね。
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