第22話 面白くなってきました
こんなもんですかね。
パウラ魔力を吸引していましたが頃合いをみて終了しました。
「気分はどうだ?」
ネーポムクが確かめるとパウラは小さくため息をついて頷きました。
「さっきまでのムカつきが嘘みたい。本当に私の魔力が暴走してたんだね」
魔法師になるための訓練を始めたばかりの彼女はまだ自分の魔力量を自覚していません。おまけにこれまでよりも格段に増えたと言われても実感は無いでしょう。
「パウラもロータルも魔法を使い始めたばかりだからこれからは訓練の中で自分の力量を測っていかねばならん」
「それってネーポムクから見てもわからないものなの?」
「そうだ、魔力は人それぞれであるし同じ魔法を使うにしても必要な魔力量は微妙に違うと言われておる。だから自ら訓練の中で覚えていくしか無い。例えば氷の攻撃魔法の初級の"凍てつけ"なら十回使えるとか、火の攻撃魔法の中級の"
そうなんだぁと頷いているパウラ。魔法師としての自分というモノを理解していくのはとても大切な事だとは思うのですが私は他の事に気を取られていました。
今聞いた攻撃魔法の詠唱……"凍てつけ"くらいはまだましですが、"燎原の火"とか。
「プッ……」
一瞬吹き出しそうになりました。いやわかっていましたよ、かつて何度も人類と戦って来たのですから。ですが自分が詠唱しなければいけない立場になって初めて実感しました。これって戦っている最中に叫ばなくてはいけないんですよね?まぁ叫ばなくてもいいんでしょうけど……
恥ずかし過ぎませんか真顔で『燎原の火!』とか『氷の楔!』とかいいながらの攻撃なんて。
うわぁ~、やだやだ恥ずか死過ぎるぅ~!良かった、回復系で。こっちは割りとそのまんまな詠唱の言葉ですからね。ぷふっ、きっと今頃『右手』のやつ恥ずかしさで身悶えているに違いありません。
「パウラの魔力は落ち着いたようだがロータルはどうだ?」
「えっ、俺がどうした?」
想像の中の右手が詠唱している姿の恥ずかしさに堪えているとネーポムクに名を呼ばれちょっと驚きました。
「パウラの魔力を吸引して体に不調はないかと聞いておる」
「不調……特には感じない」
誰かの魔力を吸引したことなどありませんでしたが、自分の中に他の魔力が入っているというのは不思議な感覚です。
「なら良い、これからしばらくはパウラと行動を共にしてやれ。魔力が溢れそうになったら直ぐに吸引出来れば吐き気も無くなる」
「ごめんね、ロータル。迷惑かけちゃうよね」
パウラが申し訳無さそうな顔で私の手をとりました。
「……いいよ別に」
握られた手を握り返しそれをじっと見つめます。
「どうしたの?大丈夫?」
私の行動が変だったのかパウラがもう一方の手をそこに添えてきました。
「あぁ、平気だ。パウラの手が温かくて柔らかいから」
私も両手でパウラの手を握りもにゅもにゅ感触を確かめているとエアハルトがちょっと頬を染めました。
「ロ、ロータル。女性の手をそんな不躾に触るんじゃない」
彼のアタフタしたような様子にこれが駄目な行動だったのかと思い至りました。
「ごめん、パウラ」
手を離そうとするとパウラはニコニコしてまたぎゅっと握って来ました。
「いいのよ、ロータル。別に嫌じゃないわ」
そう言ってポンポンと私の手の甲を軽く叩いてから離しました。その行為はまるで魔法を上手く使う事が出来て褒められた時のようにほんわり心地良いものでした。
パウラから吸引した魔力もすんなりと私の魔力と混じり合いなんだか変な気持ちになります。
「ではそろそろ良いか。魔法を使って自分の得意不得意を確認しそれを使用しながら魔力の限界を把握していくぞ」
ネーポムクがパウラの具合が良くなった事を確認し訓練を開始しました。
そこからパウラは火魔法の初歩である"燃えろ"を二十回連続で使わされていました。"燃えろ"は生活の中でも良く使われる魔法ですからパウラも始めは難なくこなしていました。
エアハルトが拾って来てくれた小枝に火をつけては消してを繰り返し、燃え尽きるとまた次の小枝に火をつける。
「"燃えろ"…………"燃えろ"……"燃えろ"」
連続で詠唱するのは難しいらしく、始めの方は次の詠唱まで少し時間を要していました。パウラはそれでも何とか続け、三十回目あたりで一旦詠唱するのを止め俯きました。
「まぁ、最初はこんなもんであろ。次はロータル」
ネーポムクが詠唱するパウラを見ていた視線を私に移すと彼女は慌てて顔をあげます。
「ま、まだやれるわ」
「当たり前だ、少し休んだらもう一度だ」
自分はまだ疲れていないとアピールした割にパウラはうへぇという顔した。結構きつかったようです。
「ではロータル……」
ネーポムクは私に顔を向けたもののどうしたもんかと考えているようです。
「拘束、強化は使えるな。探索も立体で使える……盾は?」
と聞かれたので頷きました。
何でも出来ますよ。どこまで明かしていいかの判断はお任せです。
「では盾の魔法を使ってエアハルトの攻撃をどれだけ防げるかを見るとしよう」
「えぇ?何回防げば正解なんだ?」
さじ加減を聞いておかないときっと永遠に防げるんでエアハルトが力尽きるまで終われない。
「エアハルト、五段階の強さで攻撃してくれ。どれ程の強さまで耐えれるかを見たい」
なるほど、っていうことは五回ですね。人類の剣の強さなんて大した事無いですから。
「わかった。ロータル、崩れても当たらないように攻撃するから心配するな」
エアハルトは腰に帯びた剣をすらりと抜くと肩慣らしするように軽く何度か振って私に向き直りました。ネーポムクがさり気なく詠唱の言葉を私に告げました。
「"鉄壁"だ」
おっふぅ、まさかのちょっと恥ずかしい風じゃないですか。そう言えば魔王として戦っていた時にそんな言葉が聞こえていた気がしますね。殆どの人類が全く防げていませんでしたけど。
仕方ないです、覚悟を決めましょう。
「て、"鉄壁"」
ちょっと気弱に唱えてから自分の前に盾を展開しました。
魔法で作る盾は見えるものと見えないものがあります。ひとつは曇った硝子のような状態で少しぼんやりと向こう側が見えます。そしてもう一つは無色透明でどこに盾を展開しているか殆ど見えませんがよく見ると光の加減でわかる感じです。見えない盾は敵を追い込めたり罠を仕掛けたりと何かと便利で私はよくそちらを利用していたのですが、人類はより魔力の消費量が少ない『見える方』を使いがちでした。
この場では『見える盾』を展開するほうがいいと判断しました。
「では行くぞ」
少しぼやけた盾の向こうでカーンと軽くエアハルトが剣を振り下ろしました。彼は全く力を込めた様子もなく盾も傷一つついていません。
「ふむ、ではもう少し強目で」
またもやカーンと軽い音がしましたがさっきよりは真剣に振ったようです。ですが勿論盾はビクともしません。
「おっ、結構やるな。そろそろ気を入れるか」
エアハルトはやっとしっかりと剣を構えじりっと足を踏ん張りました。
「せいっ!」
鍛錬している時のように剣を振り下ろす速さが格段にあがり掛け声も響きます。私が作り出した盾は全く崩れる気配もありません。
ここに来てエアハルトの目つきが変わりました。恐らく良くても三段階くらいで駄目だろうと踏んでいたようです。初心者が作る盾なんてこれまで何度も突破してきた経験があるのでしょう。なのに全く揺るがない盾にいよいよ本気になったようです。
「やるじゃないか、ロータル」
「ヘヘっ、エアハルト、意外と弱っちいとか?」
自分ではA級になるつもりは無いとか言いながら本気をだせばいつでもなれるという気持ちでいたエアハルトのプライドを刺激したようです。曇った盾の向こうにいるエアハルトからゆらりと何かが立ち昇るような気配がしました。
いよいよ気合がはいりましたね。
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