4-朝 猫ならば


 朝からマナがフニャってない。

 これは珍しいことなのだが、シャキッと元気なわけでもなかった。ため息が大きい。


「にゃーうー」

「コタロウいい子だね、ありがと」


 足首にスリスリとしてやったら、力なく笑われた。重症だ。


「今、お店の空気悪くてさ」

「ふみゅう」

「アライさんとワタリさん、前のことで注意されてから私にツンケンするの。今日店長に面談申し込んだらしくて。辞めるのかなあ」


 愚痴をぶちぶち言いながら化粧する。俺は横に座って聞いてやった。


「辞めるのはいいんだよ。とっとと辞めてくれてかまわないけど、なんかね」


 何がどうなのかわからないが、嫌な感じなんだな。まあ人間だって動物だ。そういう勘は大事だろう。


「やーだなー。行きたくないなー。私も猫ならよかった。コタロウとムギュってして寝てたい」


 それは――そうさせてやりたいが、無理な話だ。


 だって、マナは人間だからな。


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