第24話 魔王、師匠始めました
「……ほら! また動きが単調になってる……ですぞ!」
「うるせえ! 魔王のくせに師匠面するな! ていうか、その語尾ムカつく!」
「えー。そんなに変ですかなぁ。結構上手くやれたと思ったんですぞけど……」
「やれてねえよ! ていうか、ですぞけどってなんだ! うさんくせえオッサンみたいになってるぞお前!」
そう叫びながら、斬撃を続けるトールくん。
格闘技経験があるとはいえ、女子高生、姫野葵には十分驚異の一撃なのだろうが、今の私には、騎士団長に剣で勝ってしまうレムリア・ルーゼンシュタインの決闘の記憶、バフ魔法と魔王モード(もう面倒なのでこう呼ぶことにした)による、アニメのヒーローみたいな身体能力が加算されている。
そのせいで、子供がよろよろしながら棒を頑張って振り回しているぐらいにしか見えない。
「ほら、隙だらけ」
「……おうっ!」
剣のリーチを活かさず態々突進、しかも全力の大振りといういつもの行動で隙だらけのトールくんの額にデコピンする。
ちなみに魔王モードのデコピンは、小石を粉砕する破壊力なので、いくらトールくんでも相当痛いはず。
なのだが……
「ちくしょう! まだだ!」
……なんでピンピンしてるかなぁ。
「えーと、ちょっと待つですぞよ」
「ん? 急になんだよ」
そう言いながら闘気剣を納める。
剣を納めてくれるところをみるに、さっきは「魔王を師匠とか、ふざけたこと言ってんじゃねえ!」とか言ってたけど、多少は認めてくれたようだ。
「あのさ、トールくん。日頃から鍛練してたっていうけど、どういうことしてたの? ですぞよ?」
「なんでそんなこと聞くんだよ?」
「いやだって、身体強化魔法も使ってるんだろうけど、それ差し引いても、人間の限界を超えてるんじゃないかってぐらいすごい身体能力だから。きっと、厳しい鍛練をしてきたんだろうなと思って。ですぞよ」
特に頑丈さの面は、『聖騎士』のスキルで防御力が上がっているロナードを除けば、最強なんじゃないだろうか。
「ほ、本当か!」
うわぁ……そんなものはないけど、犬の尻尾と耳がトールくんに見える。
千切れんばかりに尻尾振ってる。
どうしよう、抱きしめたい。
「そうだな。朝起きて飯食ったら、まず走り込み。あとは、素振り用の大剣で素振り、終わったら闘気剣でも素振り。学校がないときはそれを昼まで続けてる」
「ふむふむ」
「昼飯食ったら、また走り込んだり、うちに伝わる身体強化の訓練をしつつ、闘気剣を振り回してる」
「……ふむ?」
「んで、それを夕方まで続けて……」
「ちょ、ちょっと待って! ですぞよ!」
「な、なんだよ急に」
いや走りすぎだろマラソン選手か、などのツッコミはあるが、一般的トレーニングとしては大きな問題はないと思う。
だが、『聖闘士』にとって、大きな問題がある。
「あ、あの、剣術の練習は! ですぞよ!」
「は? やってるだろうが」
あ、なるほど。
ちゃんとやってるけど、言い忘れてとかそんな感じ……
「相手に近づいてぶった切るのが剣術! 走って剣振ればいいんだから、走り込みと素振りやってれば、それが剣術だろうが」
「いや、それ剣術じゃなくて、ただ剣を振り回しているだけだから~!」
あまりのことに、つい叫んでしまう。
「な、なんだよ急に! ていうか、ですぞよどこいったんだよ!」
「あ~ですぞよですぞよ! それより、なんで剣術やってないの! どおりで、トールくんと戦うとき、暴漢が棒を振り回している姿にしか見えないはずだよ! 本当にただ、暴漢が棒を振り回しているだけだったんだから! ですぞよ!」
「な、何が棒を振り回しているだけだ! 実際、ロナードが出てないときは、剣術大会で優勝してるんだからな!」
「あ~……」
……なるほど、理解してきた。
「……ちなみに、剣術大会じゃ、素振り用の大剣とか使ってない?」
「使ってるに決まってるだろ。剣術大会じゃ、闘気剣は使えないからな」
毎日続けてきた鍛練で培った、人間離れしたパワーのトールくんが振り回しやすい大剣は、それはもうアニメに出てくるような、槍よりも長く、刃がある鉄板みたいなものなのだろう。
そんなものを、走りながらトールくんのパワーで振ってきて、しかも、ありえないスタミナので永久に振り回してくる……もはや恐怖でしかない。
「……う~ん」
「なんだよ急に」
「いや、トールくんが強くなる方法を考えてる。ですぞよ」
「お、おう! よろしく頼むぜ!」
そう言いながら、少し離れたところにいくトールくん。
どうやら素振りをするようだ。
(……一番手っ取り速いのは、闘気剣を活かすために、片手剣の剣術を始めることだよね)
私は教えられないが、その辺の教室とか、なんならロナードに教わればいい。
――ブゥゥゥン!
ただ、トールくんの突進力と瞬発力は、どちらかというとフェンシングのようなヒットアンドアウェイ系の剣術の方が向いている気がする。
ただそうなると、闘気剣の形状がフェンシングに向かないし、なによりこのパワーで小剣を使うのは色々ともったいない。
――ブゥゥゥン! ブゥゥゥゥゥン!
そうそう、こんな刃音と、風圧がここまで届くぐらいの子なんだから……
「……え?」
「……10! 11! 12!」
素振りの回数を数えながら、闘気剣を振り回す。
……槍よりも長く、刃がある鉄板みたいな、アニメに出てくるような超巨大な闘気剣を。
「ちょっと待った~! ですぞよ~!」
「おう! オレが強くなる方法が見つかったか!?」
「闘気剣って、形変えられるの!? 片手剣の姿だけじゃなかったの!?」
「は? これは俺の闘気……まあ、実際は魔力らしいが。それを剣に変えてるんだから、形なんて自由に変えられるぞ? ただ、ご先祖様が使っていたのはこの形だったらしいから、そうしてるだけだ」
そう言いながら、いつもの片手剣の形に変える。
「まあ、俺の一族でたまに現れる闘気剣使いはできなかったみてえだが、毎日練習してたらなんかできた。ただ、デカくすればデカくするほど、闘気が拡散するから威力は落ちちまうから、本当に無駄な技術なんだけどな……」
「トールくん……」
「……なんだよ? 無駄なことやってる暇があったら鍛練しろって……わふっ!」
「……天才ですぞよ!」
ある意味では、武術の頂点にいる天才をつい抱きしめてしまう。
最高の弟子を見つけたとき、師匠が泣いて喜んでいるアニメをみたことあるけど、その気持ちが今分かった。
「な、何が天才だよ! こんな無駄な技術、意味ねえだろ! て、ていうか離れろ!」
「あ、ごめんごめん。トールくんが、あまりにもすごいから、つい。ですぞよ」
意図せず、つい推しキャラを抱きしまったが、これは感極まって、ついやってしまっただけで、他意はない。
…………手に残る余韻が幸せだぁ♪
「そ、それで、俺が強くなる方法は分かったのかよ?」
「あ、そのことなんだけど……」
トールくんの身体能力、スキルを考えると、答えは一つだ。
「……トールくん。戦闘スタイル変えよっか。ですぞよ♪」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます