第20話 魔王が与えたもの?
「こことは違う異世界……そこは辿る道を違っただけの同じ世界で、同じ存在がいる。レムリア嬢とアオイ嬢は同一存在で、奇跡的な同調によって生まれたのが貴女たち……」
「あくまで推察よ。確証はないわ」
「……ん? これもしかして、ダイフクってやつか?」
「え、知ってるんですか? 私の世界のお菓子を、アオイさんが再現してくれたものなんです」
「うちの先祖が遺した本に、これと似たやつが書いてあったんだよ。お嬢ちゃんは、もう俺たち一族ぐらいしか使い手がいない、古流剣術を知っていたみたいだし、昔はこっちの世界にも、あんたの世界の文化があったのかもな」
あ、居合のことか。
よく考えたら、明らかに街だけじゃなくて、武器も明らかに西洋系ファンタジーなわけだから、なんで刀があるんだろうか。
まあ、刀はカッコいいし、個人的にこういう世界だと必須だからいいか!
「……それで、私の話について、貴方の意見を聞かせてもらっていいかしら?」
「そうですね……私としては……」
「うおっ!? スーベリが丸々入ってやがる! モチの食感も面白しれえし、スーベリの周りの黒いのも、とてつもなくうめえ!」
「スーベリ……あ、苺か。そうなんです。苺が入ってるから、それは苺大福って言うんですよ。あ、そのお菓子は、そっちの紅茶じゃない方の日本茶ってお茶と合いますよ」
本当に美味しそうに食べるスコール。
私はプリンとかケーキのほうが好きだが、こうやって自分の国の文化が褒められるのは、なんだか嬉しいなぁ。
「…………」
「…………」
「……おお! 本当にめちゃくちゃ合うじゃねえか! 甘くない茶っていいもん……だっ!」
「あ、お茶のお代わりいります……かっ!」
私たちの顔を文字通りつかむ手……言い方を変えると、ベアクロー。
スコールもヴラムに捕獲されたようで、私と同じように声を上げている。
「……私たちは今、真面目な話をしているの。楽しいお茶会は別の日にしてもらえるかしら?」
「ごめんなさい、ごめんなさい! 黙ってますから、ベアクローは……あ。あの、本当に意識が遠のいてきたのでやめてください、本気で逝きそうです……」
「貴方もですよ~スコール? 立派な大人なんだから、もう少し空気を読んで大人しくしていましょうね~?」
「わ、分かった! 分かったから、離せこのクソオヤジ!」
許してもらえたようで、離してもらう私たち。
私はいつものことだが、スコールがこんな風にされているのはちょっと意外だ。
「うう……相変わらず、自分の体というか顔なのに、容赦がなさすぎですよぉ。ていうか、食べるために用意したものを食べているだけなのに、何が悪いんですか」
「本当だよなぁ。……ったく。大人げねぇ連中だぜ」
やはり、スコールとは話が合う。
向こうで真面目な話をしていたから、同じく暇そうにしているスコールの相手をしていただけのはずなのに、なぜ怒られるのか!
ちなみに、抗議の目はアオイさんに向けることはしない。
だって怖いんだもの!
見ないようにしているのに、氷の視線が私に突き刺さっているもの!
「……貴女が苦労しているということは分かりましたよ、アオイ嬢」
「……奇遇ね。私も今、貴方に同じことを思ったところよ」
そう言いながら、お茶を飲むことで一呼吸置くアオイさん。
そして、また真面目な顔になり、話を続ける。
「話を戻すけど、貴方の意見を聞かせてちょうだい」
「一言で言うと、異論はないが、どうもしっくりこない箇所がある、といったところでしょうか」
「その箇所を聞かせてちょうだい」
「まず、魔王様……もう、こちらも演じる必要はないですかね。あの魔王が、器に選ばれたとはいえ、人間に力を与えるというのは考え辛いです。あれは、破壊衝動や殺戮衝動が優先しているとはいえ、基本的には『人間を根絶するだけの存在』ですから」
「……人間を根絶するだけの存在?」
「……その話は、いずれまた。とにかく、魔王が人間に力を与えるとしたら、早く体を乗っ取るためだと思うのですが……」
「どうもしっくりこない、と」
「……ええ」
自分の言っていることになんの根拠がないことが分かっているのだろう。
ヴラムも、複雑な顔をしている。
「一度、整理しましょう。まず魔王の器となった者が、儀式により、魔王の力と、それを操るための魔力を宿す……これは間違いないです。そうなるように私は儀式を作りましたから。不可解なのは、アオイ嬢の体に魔力が宿ったという点です」
「与えられた魔力が、私たちの同調で分散した、というのが私の意見ね」
「魔王の力は器のレムリア嬢にしか宿らない。だから、儀式によって宿る二つの力……『魔王の力』、『魔力』を半分ずつにしたら、そういう割り振りになる。レムリア嬢の魔力が安定しないのは、『魔王の力』の付属品程度の魔力でしかなかった、なるほど筋が通っています」
大きく頷くヴラム。
だが、やはりその顔は納得がいっていないようだ。
「起きたことだけを考えると、アオイ嬢の推論は、『考えられるとしたらこれしかない』という意味では100点満点です。ですが、魔王を知る者からすると、魔王の声が引っかかるんですよ」
魔王の声……アオイさんだけが聞いたという声だ。
「……『我の復活をなす貴様に褒美をやろう。何か望みを言え』、たしかに私はこの声を聞き、世界を変えたいと答えたわ」
「それを聞く限り、やはり魔王はアオイ嬢に何かを与えている。そしてアオイ嬢にとって、絶大な魔力と異世界の知識は、魔王の力以上に、『世界を変える』ものだったのでは?」
「…………」
アオイさんも複雑な顔をし始める。
ヴラムと同じ、ヴラムの意見が正しいと思いつつも、手放しに肯定できる内容ではないというところだろう。
「……あの、それが正しいとしたら、私はなんでこうなったんでしょうか?」
「それが問題なんですよ。同調理論は、私も正しいと思います。ですので、貴女も『世界を変える』ような力を手に入れているはず。まあ実際に魔王の力と、『レムリア・ルーゼンシュタイン』という、国を動かしかねない高い地位の体を手に入れていますが……」
「いや、魔王の力とか欲しくないですから! それに、私はアオイさんみたいな性格になりたいとか、こんな美人に生まれたいとか、貴族生活とか羨ましいとか、色々と思いますけど! あくまで憧れで、自分の体を捨ててまでなりたいとか思ってないですよ!」
「……でしょうね。自分の体を捨ててまで何かをしたいなんて、余程のことですから」
一瞬だけ、遠い目になるヴラム。
だがすぐにいつもの顔になり、話を続ける。
「話を戻しますが、アオイ嬢が手に入れた力が、本当に魔王から与えられたものだとすると、レムリア嬢の方の説明がつかなくなる。だとすれば、この推論は誤りであり、魔王の声は幻聴、もしくは魔王がからかっているだけとなります」
「魔王がからかうってのは、あると思うぜ。うちの一族は、過去に『そういう扱い』をされてるからな」
スコールが険しい顔になる。
私も、ヴラムとスコールの話を聞く限りだけど、魔王は悪逆非道を具現化したような人だったみたいだから、相手に期待させて突き落とすことは、普通にやる気がする。
「そして、話が戻ってくるわけです。あの魔王が何かを与るなんてことをするとは思えない。与えるとしたら、先ほどの理由、早く器を自分のものにすることなのですが……魔王は別に急がなくてもいいのですよ。極端な話ですが、器となる人間が老衰で亡くなるまで待てばいいだけですから」
……たしかに。
しかもその頃になれば、勇者であるエミルもお婆ちゃんになってるだろうし。
「貴女は知らないでしょうが、魔王の本体は魔力そのものに近いです。表に出てきさえすれば、死体だろうと依り代があればいい。魔王の魔力による体の作り変えについては……体を入れ替えられることを体験した貴女たちには、説明不要ですかね」
……改めて考えると、本当に魔王ってとんでもない。
魔法ならなんでもできる! ってRPG脳だったけど、この世界の魔法は、いわゆるファイヤーボールみたいな分かりやすい魔法。
精神入れ替えみたいな、超常現象的な魔法は存在しない。
それができるっていうのは、もはや神みたいなものなのではないだろうか。
「……随分と、魔王の特性について詳しいのね」
「魔王に仕えていた者なら、これぐらいは知っています、と言っておきましょうか」
さっきからちょいちょい引っかかるのだが、やはりヴラムもまだ、何か隠していると思う。
まあ、こっちも隠していることがいっぱいあるので、人のこと言えないが。
「スコールはどう思いますか?」
「実際に魔王に会っている、あんた以上の情報を持ってるわけねえだろ。強いて言うなら、俺たち一族にとって、魔王ってのはどうしようもねえ下種野郎だ。そんな奴が、理由もなく他人に何か与えるとは思えねえ。それでも与えてきたっていうなら、俺たちが知らない『何か』があるんだろうな」
「知らない『何か』……」
「……それが分からない限り、答えには辿り着けないというわけね。その『何か』を探りつつ、前に進むしかなさそうね。」
「今後の方針に関わるので、推論とはいえ、可能な限り疑問点は潰しておきたいのですが、これが限界でしょう」
なんだかすっきりしないが、改めて考える機会を得たのは良かった。
もはや、単純に『ヤミヒカ』の世界という話ではないのかもしれない。
……まあ、私の行動のせいで、ロナードの性格豹変といい、既にヤミヒカの世界から逸脱している感はあるが。
「案外単純な理由かもしれねえぜ? 体は魔王の器であるレムリアから変えられないにしても、純粋にアオイの方が好みだったから、人格入れ替えたとかな」
「……駄狼に相応しい、馬鹿馬鹿しい意見ね。そんなことぐらいで、わざわざ入れ替えたりしないでしょう」
「もし俺が魔王だったら、確実に入れ替えるけどねぇ。お前さんは、性格がキツすぎるんだよ。もう少し、周りの配慮できるようになれば、一気にモテると思うぜ?」
「分かってないですねぇ。アオイさんは、この性格だからいいんです。それに、実は優しいところもいっぱいあ……」
「……そ、それより! 今後のことだけど!」
少し照れながら、話を戻そうとするアオイさん。
ほらやっぱり、今のままでも十分可愛い。
「今度は、こっちが単刀直入に聞くわ。貴方たちは、これからどうするの?」
「ああ、その点についてなのですが……」
そう言いながら、椅子から立ち上がるヴラム。
そして、深々と頭を下げながら……
「……レムリア・ルーゼンシュタイン様。我ら二名、貴女の配下にしてはいただけないでしょうか」
「…………はい?」
……とんでもないことを言いだした。
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