二人の『私』のグッドエンド奮闘記!~女子高生の私が魔王覚醒系の悪役令嬢と入れ替わってしまったので、私(悪役令嬢)と一緒に世界崩壊エンド回避の為に頑張ります~
第18話 私のバッドエンドと、これからのグッドエンド
第18話 私のバッドエンドと、これからのグッドエンド
(負けられない……負けたら私は……私は……!)
『あ……ぐ……』
(消えて……消えてよ……)
『一本! それまで!』
(……私の前から消えろぉ~!!)
『……一本! もう相手は落ちてる! 離しなさい!』
(え……)
『蘇生する! もしものときの為に、救護係に連絡!』
(勝った……私、勝った……! これで……!)
『……人殺し』
(え……?)
『人殺しぃ~~!!』
///////////////////////////////////////////////////////
「……はっ!」
いつもの悪夢で飛び起き、目を開く。
「あれ……?」
目の前には見慣れぬ光景。
近くには中世ヨーロッパみたいな館……の残骸があり、騎士みたいな人達が沢山集まり、大声を上げている。
「……アニメ原作の映画撮影?」
「こんな地味なシーン、撮るわけないでしょ」
「え……あうっ」
胸辺りに手を当てられ、そのまま優しく上げた体を倒される。
そこには、なんだか『見知った』顔があった。
「……もう少し寝てなさい。私が使える初期の回復魔法をかけたけど、まだ完治してないわ」
「レムリ……アオイさん」
「二人のときは、もうどっちでもいいわよ。今回の一件で、色々とバレるだろうから」
今回の一件……はて、なんだったろうか。
というか私は何をしてたんだっけ。
たしか、なんかのパーティーに出るって言われて連れて来られた。
そこで、なんだか大変なことが……ことが……
「…………あああぁぁ……あうっ」
一気に思い出して飛び起きようとしたが、また体を倒される。
「……同じ事させないで。まったく。日頃は好き放題だらけてるくせに、こういうときだけはよく動くんだから」
とりあえず状況を確認する。
分かっている、というよりすぐに思い出せるのは、スコールと戦って勝ったこと。
あとは、地面に寝っ転がっているわりには、後頭部が温かいというか、気持ちいいことだ。
この感触というか、状況に思い当たるものはあるのだが、もしこれが私の考えているものだとすると、色々な意味で大事なので、状況を聞いてみることにする。
「あの……レムリアさん」
「なに?」
「その……もしかしてなんですけど、私ってば、膝枕なんてしてもらっちゃってます?」
「まあ、そうね」
なるほど、なるほど。
予想通りだったか。
道理で後頭部が幸せなわけだ~あはは~。
「……大変失礼いたしました! すぐにどきますので……あうっ」
無言でまた体を倒される。
レムリアさんが優しい目をしながら、「同じ事を三回も言わせるんじゃないわよ、殺すわよ? ていうか殺すわよ?」と目で語ってくるので、お言葉に甘えて、膝枕でゆっくりさせてもらう。
「とりあえず、状況を説明するわね」
いつもの顔に戻りつつ、説明モードになるレムリアさん。
いつか、教師みたいな格好してほしい。
「私たちは、貴女の時間稼ぎのおかげで、派遣されていた騎士団と接触できたわ。それで、ヴラドの館に踏み込まれる前に追い返した」
「それは、良かったで……あれ?」
騎士団を追い返したというならば、あそこにいる騎士たちはなんなのだろうか。
というか、あの完全に崩壊した建物は?
ここが外なのは分かるけど、ヴラムの館の近くに、こんな崩壊した建物なんてなかったような……?
「まだ、状況をつかめていないようだから教えるけど……あそこにある門を見て見なさい」
レムリアさんが指さした場所を見ると、そこにはたしかに門がある。
違和感があるとしたら、崩壊した館と違い、門はしっかりしていることだろう。
近くに庭園も、おそらく建物が崩壊したときの衝撃で多少変形しているが、綺麗なまま。
つまり、あの建物だけが崩壊したようだ。
それにあの門、なんだか見覚えがあるというか……
「……あっ! ヴラムの館の門です!」
「正解。じゃあ、その門の近くにある、あの崩壊した建物はなんだと思う?」
門の近くにあった建物……そんなの一つしかない。
ということは……あれって……
「あの、もしかして……」
「貴女が魔王の武具を装着したあと、アポカリプスを地面に叩きつけたでしょ。すでに半壊していた地下であんなもの使ったら、どうなると思う?」
「……死んで詫びます。ていうか、死なせてください!」
「話は最後まで聞きなさい。それと、貴女が死んだら、魔王に体乗っ取られるから迷惑よ」
「いやもう、迷惑とか考えている状況じゃないですから! 全部思い出しましたから!」
「ああ、公衆の面前で、魔法少女の変身みたいに全裸になったこと?」
「しっかり見たんですか! ていうか、なんですかあのギミック! あんなの『ヤミヒカ』にはなかったですよね!」
「服を光……というか元素に分解、その後に再構築しているから、こっちの世界的にはプロセス的に大正解だけど……そうね。クリエイターの脳内に設定としてはあったけど、乙女ゲームでそんな描写入れられないから、削ったんじゃない?」
「なんかすっごいありそうですけど、やらされた方としては、トラウマかつ人生最大の悲劇レベルで……あ」
よ~く考えよう。
たしかに私は公衆の面前でアニメの魔法少女変身シーンの如く、光&全裸をぶちかましたわけだけど、そもそもこの体の持ち主は……
「あ、あの~……レムリアさん? この件についてなのですが……」
「ああ、貴女が公衆の面前で全裸を晒したというのはつまり、『私』が公衆の面前で全裸になったのと同義って事について?」
「…………」
「あらあら、どうしたのかしら? 急に体から変な液体が出始めているのだけど?」
「……あの、まずは土下座から始めようと思うのですが、体を起こしても?」
「……なるほど、その状態で死にたいと」
「抹殺決定ですか! いや、さっき死にたいとは言いましたけど、痛いのは嫌で……ふぇ?」
焦る私の頭に優しく手が乗り、そのまま撫でてくれる。
「えっと、レムリアさん?」
「……冗談よ。裸ぐらい別にいいわよ。前にも言ったけど、見られて恥ずかしい体作りしてないわ。まあ、最近誰かさんがぐうたらしているから、ちょっと太ったかもしれないけど」
「その点は安心してください。レムリアさんの体を太らせるようなことは絶対にしないように、食べたら筋トレとかしてます」
「……それはそれで、体形変わりそうだけどね」
微笑むレムリアさん。
(……なんだか、久しぶりに感じるな。この空気)
レムリアさんと過ごすようになって、いつも感じている。
二人でいられて楽しいとか、嬉しいとかだけじゃない。
言葉にするのが難しいけど……
「……最後まで吐き出しちゃっていいわよ」
「え……」
そんなことを考えている私に、話しかけてくれるレムリアさん。
「……」
私の顔を見ないようにしつつ、優しく私の髪に触れる。
(本当にこの人は……)
そんなことを思いながら、目を閉じつつゆっくりと話し始める。
「……あの、改めて聞くことになっちゃうんですけど、レムリアさんは私のこと、どれぐらい知ってるんですか?」
「元は田舎暮らしで、代々小さな道場を経営していた家族。だけど、父親が金メダルを取ったことで生活が一変。父親は柔道協会からいくつもの道場を任されることになり、都会に引っ越す。母親はメダリストの妻として出したエッセイ本が大ヒットしたのがきっかけで会社経営を始める。貴女は中学の柔道全国大会の優勝者で、高校の新人戦で優勝してからは、引き篭もり生活。それ以外は……」
少し言い淀むレムリアさん。
だが、意を決したかのように言葉を続ける。
「……両親が、離婚調停中って事ぐらいね」
「……あはは。そこまで知っているんですね」
なんだか、自分という存在を知っていてもらって嬉しいような、悲しいような……複雑な気持ちだ。
「……私は、物心ついた頃から父に柔道を習っていたんですが、大会とかには興味がなかったんです。でも、父の立場が変わってからは、大会に出ることになりまして。そしたら、大会は連戦連勝で、いつのまにか全国優勝してました」
今でも覚えている。
田舎とは違う、あの冷たい道場に『行かされる』ようになり、大会に出るようにという、父の『言伝』を師範から聞かされたあのときのことを。
「そしたら、『父だけではない! 隠れていた天才柔道少女!』、『メダリストの娘がメダリストになる日も近い!』とかマスコミが報道したんですが、その報道が出た瞬間に、忙しいからって、滅多に帰って来なかった両親が帰って来るようになったんですよ」
あのときは本当に驚いたな。
家に帰ったら二人が居るだけじゃなくて、お祝いしようって久しぶりに家族揃ってご飯を食べようって言ったんだもの。
……外に食べに行ったから、お母さんの手作りプリンは食べられなかったけど。
「そして両親の言い付けで、私は色んな事するようになりました。母が受けたっていう、スポーツが優秀な子を紹介する番組に出て、今までの道場以外にも、父が任されている道場の全てに、週一回は顔を出すようになりました。」
あのときは、本当に嫌だった。
学校のあとにすぐ行かなきゃいけないから、友達と一緒に遊びにいったりする事が減っちゃったし。
「テレビに出されてからは、友達だけじゃなくて、他のクラスの人まで話しかけてくるし、私が全国優勝した試合の切り抜きなんて、100万回以上再生されてましたよ」
休み時間になったら、私を慕ってくれるみんなが私の周りに集まってきて、色んな話をして楽しかったことを。
「あの頃は、辛いこともあったけど充実はしてたんだと思います。柔道したり、テレビに出るだけで、みんなが喜ぶだけじゃなくて、私のことを褒めてくれる。それに何より、珍しく家族が揃いますから」
本当に、私の行動が世界を動かしている、いや、世界を作っているぐらいの気持ちになっていた。
「でも、そんな生活は……」
そんな私の楽しかった世界は……
「……私の引き篭もり生活の開始と同時に、全て崩れ去りました」
……何もかも無くなってしまった。
「高校に入って新人戦に出て、順調に決勝戦に進んだんですが、相手の子が本当に強くて負けそうになったんです」
本当に、あの子は強かった。
本当に柔道が好きで、そしてやるからには負けたくないって気持ちが伝わってきて……昔の私を見るようで嫌いだった。
「そしたら、会場の空気が一変したんですよ。私への応援は相手への応援に変わり、中継していた場所からは、新しい天才少女の誕生だ、なんて声まで聞こえてきました」
不思議なものだ。
報道の人たちはすごく離れていたのに、しっかりと聞こえたのだから。
「でも、敗北する寸前、主審が試合を止めていないのに相手が気づかないで棒立ちになったんです。私はその隙をついて相手を引き込み、寝技を完全に決める時間がないと判断したので、相手の首を……絞め技をかけました」
……裸絞。
私の知る限りは、もっともシンプルで、『敵を殺す』のに効率がいい柔道技。
「負けたら全てを失う……誰も私を見なくなり、親もまた家に帰って来なくなる。そう思って、必死に絞めました。相手は必死に抵抗していましたが、ひたすら絞め続けました。……本当、必死すぎて引きますよね。相手を不意打ちして、いきなり絞め技ですから」
「……でもそれは、勝負の世界ならありえることでしょう?」
「そうですね。でも、普通の勝負とは違うことがあったんですよ」
『負けられない……負けたら私は……私は……!』
「私は……」
『消えて……消えてよ……』
「私は…………」
『……私の前から消えろぉ~!!』
「……相手を、自分の意思で殺そうとしました」
「……」
「……試合が終わった瞬間に、人殺しって叫ばれて、自分が殺意を持っていたことに気付きました。私は、自分の理想の世界を守るためっていう勝手な言い分で相手を倒し、主審が止めていなかったら、相手を殺していたってことを」
本当、今考えても自分が恐ろしい。
自分の為に相手を殺そうとするなんて、ただの殺人犯だ。
「主審の声と同時に絞め技を離したので、意図的行為じゃないということで優勝は私に。勝利した私は、またあの理想の世界に戻れる、みんなが……両親が褒めてくれるって思いました」
あのときは、本当にそう思っていた。
勝ちさえすれば……私が無敗で、天才柔道少女でありさえすればって。
「でも……」
『うわ、これ完全に殺し屋の目だろ』
『殺し屋女子高生、マジやべえ……』
「私を迎えたのは……」
『あ、姫野さん……お、おはよう……』
『も、もうすぐ授業始まるね! 私、準備しなくちゃ!』
「迎えたのは…………」
『ねえ、葵。こんなときに言う話じゃないかもしれないけど、聞いてほしいことがあるの』
『……僕たち、離婚することになったんだ』
「……地獄でした」
罪を犯した者が辿り着き、その報いを受ける場所、地獄。
人を殺そうとした私が立った場所は、まさにそれなのだろう。
「そこからは、絵に描いたような転落劇です。あんなに騒いでくれたクラスメイトや友達は私から離れ、マスコミは見向きもしなくなり、私が相手を絞めているときの切り抜き動画は、殺し屋女子高生なんてタイトルになって、同時にコメントは誹謗中傷の嵐。外に出たら陰口、後ろ指は当たり前で、動画配信者に囲まれて突撃レポートもされましたよ」
今思えば、どこか信じていたのかもしれない。
私が何かしても、友達は……みんなは私の味方をしてくれるって。
「そのあとも地獄は続きました。両親は、私を『誹謗中傷された悲劇のヒロイン』とすることで反撃。私は、辛いだろうから学校なんて行かなくていいって言われて、引き篭もり生活突入。まあ、そのおかげで、ゲームと出合えましたけど」
高校生がよく遊んでいるもので検索したら出てきたゲーム。
なんとなくネット注文で手に入れてやったら、本当に面白くて、まさに、地獄で仏に会ったようだった。
悲劇のヒロインであるために、塞ぎ込んで喋ること以外許されなくなった私に、光を……誰かと誰かが結ばれる素晴らしさ、何があっても自分の意思で動く人たちの輝かしさを見せてくれたから。
「……そう」
「あ、そんな顔しないでください! 相手の子はちゃんと蘇生作業に成功しましたし、直接謝罪して、許してもらえましたから! なんなら相手の子、殺す気で戦うなんて当たり前! 絞め技で落とされるなんて柔道なら覚悟の上! とか言って、逆に私を励ましてくれたんです。ネットの誹謗中傷にも、勝負の世界に口だすな! みたいなコメントを出してくれたんです」
「…………」
「あとは私次第です! 人を殺す為に柔道を使ってしまった私は、柔道場に立つ資格はないけど、普通に生活はできますから! ……ありがたい事に、両親は引き篭もりの私の面倒みてくれていますから」
なんだったら、フリースクールでも、別の高校に転校してもいいとまで言われている。
本当に、私は恵まれている。
「なんか、ちゃんと話せてスッキリしました! さーて、そろそろ私も動きますか! まずはヴラムに謝りにいって……あうっ!」
またしても、起き上がろうとした体を、レムリアさんに倒される。
しかも今回はさっきよりも強く、今は起き上がることを許さないとばかりに。
「……レムリアさん? あっ……」
そして、私の額……というより目の上に優しく手を乗せる。
「……今なら、泣いていても周りに分からないわよ」
「えっ……」
私にかけられる言葉。
優しさともどこか違うような気がするし、慰めとも違うと思う。
「でも……私に泣く理由なんて……それに、そんな資格なんて……」
「……そうね。理由はどうあれ、結果的に相手は死ななかったとはいえ、貴女は人を殺そうとした。もし審判が止めなかったら、確実に殺人者になっていた。それは、貴女の世界で罪であり、泣くことなんて許されないって世間は言うと思うわ」
「そうですよね……やっぱり……」
「……でも、泣くのは個人の自由だわ」
「え……」
「私は、家族の絆を守る為とはいえ、貴女が周りの意思に引っ張られてしまったことも、自分の『欲望』に負けてしまったことも軽蔑する。でも、私は貴女を攻める気はないし、泣くななんて言う気もない」
「レムリアさん……」
「貴女が地獄に落ちる罪人だろうと、私はただ、ここで貴女に膝を貸して、貴女が泣くのをみんなに見せない……それだけよ」
「……う…………」
本当にこの人は、言葉はきついし、優しさもない。
「う……うう……」
でも、慰めてほしいわけでもないし、攻めてほしいわけでもない、そんなときに私が一番してほしいことをしてくれている。
それは、こうやって、黙ってそばに居てくれることだ。
「……うぅ……ううっ……!」
そして、レムリアさんと一緒に居ると湧き上がる感情。
優しさとも違う、嬉しいとも何か違い、さっきも言葉にすると難しいって思っていたが、今、この胸いっぱいに感情が入ってきたから分かった。
この感情は、きっと――
「……うわぁあぁああああああんっ!!」
――『安らぎ』というんだ。
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