第22話

 高原の三姉妹カフェで育ってきたこと。

 考えの不一致によって私は高原の家を出て王都で一人でカフェをやっていくことを。

 あまり高原のカフェの評判を落としたくはないため、追放されたことだけはうまく伏せつつ説明した。


「ふむ。むしろ好都合だ」

「はい?」

「実はな、先日私も高原のカフェへ行ったのだよ。だが……」


 国王陛下は言い淀んでいるようで、しばらく沈黙が続いた。


「見晴らしの良い店だとは思う。だが、味は並以下。噂で聞いていた評判とはとても思えぬ店だった……」

「そんなはずは……」


 ほぼ毎日、裏庭の畑から収穫したものを提供してきたから、マズいということはないはず。


「自然豊かな高原で作っている豆や茶葉を使っていると聞いていた。しかしながら、どうやったらあれほどマズい飲み物ができるのか知りたいくらいありえないと思ってしまったよ」


 私は愕然となる。もう高原のカフェには関わらないとはいえ、ここまで言われてしまうとさすがにショックは大きかった。


「父上。さすがに言い過ぎです。フィレーネ殿が持ってきてくれた茶葉の味に慣れてから店に行ったら、どのようなものでも不味く感じてしまうのでは?」

「うむ。確かにそれも思った。だが毒味役も不味いと言っておったが」

「まさか!」

「そのまさかだ。彼曰く、王都商会会長がやっている店の豆や茶葉で出せるような味だと言っておったわい」

「さすがにどこでも誰でも作って飲めるような味を高原まで行って飲みたいとは思いませんが……」

「そのまさかを体験してきたのだよ」


 あぁ、さらに愕然となっていく……。


「フィレーネ殿よ。もしかしてだが、キミがいたから高原のカフェでも美味しい飲み物が提供できていたのではないのか?」

「そんなことはないかと……。私は、主に店内ではなく裏庭の畑で毎日豆や茶葉を育てて収穫していましたから」


 国王陛下とレリック殿下が顔を合わせた。

 二人でなるほどと言うように互いに頷く。


「なるほど納得した。大変もったいないことをしたのだなと……思う」

「はい?」

「いや、なんでもない」


 国王陛下は、苦笑いをしながらそう呟く。

 私、なにかまずいことでも言ってしまったのかな。


「今後カフェチェルビーは忙しくなるだろう。人員は足りているのか?」


 レリック殿下が私に心配そうに聞いてきた。

 実のところ、お金もないし一人で切り盛りするつもりだった。

 ソニアさんや使用人さんにお店の手伝いを少しだけやってもらっているが、本当に申しわけないと思っている。

 彼女らにとっては、任務外のことなのだから。

 だからといって、すぐに人を雇えるようなお金はない。


「そ……、それは……」

「もしフィレーネ殿が良かったらの話だが、厳選した者たちを紹介したい。ぜひカフェチェルビーで使ってもらえればと思うのだよ」


 レリック殿下は本当に優しい。

 だが、経営のことを考えると現実的には厳しいのだ。


「大変ありがたいのですが、人件費を使えるほどの余裕はないのです……」


 ここにきて、一杯400ゴールドというのは安すぎたのかもしれないと思ってきた。

 前にバーバラさんも安すぎると言っていたが、そうだったのかもしれない。

 まさか一人でお店を動かせなくなるほど忙しくなってくるなんて予想もしていなかったのだ。


「心配無用だ。国に仕えている者たちであって、彼女らには国の命令で配属させる。つまり、給金等は必要ない。フィレーネ殿は、彼女らに手伝ってもらうことだけを考えれば良い」


 さすがにそこまでしてもらうのは、いかがなものだろうか。

 ただ、せっかく軌道にのってきたところであり、お客さんの満足してくれる顔をこのまま見ていくためにはやはり値上げはできない。

 ある程度店内をスムーズに回せたり、人手が増えればテイクアウトもできたり食事も提供できたりする。

 それで人を雇えるようになれるくらい利益が出せるようになれるまでは、甘えさせてもらおう。

 どれだけレリック殿下たちに恩返しをすれば良いのか、わからなくなってきたぞ……。


「お願いします……」

「こちらこそ助かる」

「助かるのですか?」

「あぁ。詳しくは話せないがな」


 なにか国にとって都合の良いことでもあるのだろうか。

 詳細は教えてくれなかったが、これならば私も助かるし国も多分助かる……のかわからないが、対等ということで良いのかな。

 どのような人たちが来てくれるのだろうか。

 楽しみになってきた。


 そういえばふと思い出した。

 お姉様たちは今ごろ、楽しく二人で生活しているのだろうか。

 私のことを散々邪魔者扱いしていたし、きっと幸せな日々になっているのだろうな……。

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