プロローグ

 ――リュヌ暦1264年、世界を恐怖と絶望で支配していた魔王オディウムが討たれた。


 のちに皇帝となるエリック・イグナティウスの率いる勇者たちは、全員が20歳に満たない若者だったという。


 多くの犠牲を払いつつ、勇者たちは魔王を倒した。


 世界には平和が訪れ、人々は何百年ぶりかに安心して眠れる夜を手に入れた。


 だが、これも人間のさがなのか、世界には新たな火種や不和が現れはじめた。


 世界を統べる種族となった人間は、天敵がいなくなったこともあり、その勢力を同心円状に伸ばしていった。


 それが穏当に済めば何の問題も無かったのだが、人間たちの率いる帝国軍はしばしば軍事侵攻まがいの暴虐も行ってきた。


 これに他種族が黙っているはずもなく、世界各国で混乱や衝突が起こった。


 多くの種族がなすすべもなく望まぬ降伏をしていく中で、「漆黒の森」に住むダークエルフだけが人間たちの侵攻をはねのけていた。


 邪神を崇めると言われる彼らは、褐色の肌と高い身体能力、そして優れた魔力を生来的に備えている。


 彼らの護る森では上質の魔石が採れると言われ、精霊の加護を受けた樹木は飛び抜けて高品質だと言われている。そのため、帝国はどうあっても漆黒の森を奪取したい思惑があった。


 ダークエルフからすれば、人間たちこそが平和な暮らしを脅かす「魔王」に他ならなかった。当然のごとく両者は対立し、血で血を洗う闘いへと発展していった。


 のちに語られる、魔石紛争の幕開けである。

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