第34話 受け取って下さい!
「こうして、借金を返しに来たんだ。遅れるのを嫌がられるのは分かるけど、早めに持って来て困るとは面白いことを言うね。まあ、それは俺達には関係のないことだ。さっさと借用書を出しなよ」
「坊ちゃん、借りたのはソコのカリナであって坊ちゃんじゃねえ。これは間違いないことだ」
「そうだな。それでそれの何が問題なんだ?」
「ふぅ~」
カリナが借金を返しに来たと言うのに担当の中年男性は明らかに困惑している。どうもカリナが借金を返すのは、この中年男性……と、いうかこのオジサンの上にいる誰かから申し渡しでもあるのだろうと推測していたが、目の前に流れるいつもの『肯定します』というメッセージから当たりだということが分かる。
だが、そんな俺達にオジサンは「分かってないな」という風に嘆息しながら「あのな、坊主」と話し始めるのだが、その内容がとんでもなかった。
オジサンが何を言ったかと言えば「カリナ本人が用意したお金でなければ返済は認めない」と言うことだった。要は俺に対し「横から口を出すな」とでも言いたいのだろう。
だが、そんなことは問題ない。俺が用意する金は間違いなくカリナ本人が稼いだ金だ。
俺がそう言ってもオジサンは「ふん!」と鼻息も荒く頭からウソだと決めつける。
「なんでウソだと?」
「あのな、坊主。そのカリナに金を稼ぐことが出来るのなら、こうして俺達に借金することなんかなかった。そうだろ?」
オジサンは俺達に対し勝ち誇った顔をするが、だからなんだと俺が跳ね返す。
「こうして、カリナは俺から金を受け取り、返しに来た。それのどこが問題なんだ?」
「あのな、坊主。そういうカリナに対する援助はダメだと言ってるんだ!」
「それって借用書に書かれているの?」
「そんなもんは必要ない!」
「「「……」」」
開き直ったオジサンの態度に俺だけでなくカリナにアオイも呆れてしまう。
「援助なんかじゃない!」
「ほう。なら、どうやって金を出させた。その貧素な体でも売ったか? それなら、それで違法だと俺から訴えてもいいんだぞ。ま、手数料は上乗せさせてもらうがな。ガハハ!」
「ひ、貧素だと! コータ、なんで黙っている! 私が貧素だとバカにされたんだぞ!」
「ふふふ、まだ分かってないみたいだな」
「何よ! コータは私のこの容姿こみで
「コータ、言ってやれ。そんなまな板なんか欲しくもないとな」
「……」
カリナの言葉に乗っかってしまえば、俺はカリナを金で買ったことになってしまうと言うことが分かっていないのだろう。それとアオイの挑発に対し引くに引けなくなってしまっているとも言えるが。
問題はどうやって、このオジサンから借用書を取り返すかだ。まだ言い合っているカリナとアオイを横目に俺とタロは思案する。オジサンは、そんな二人のやり取りをニヤニヤしながら見ているだけだった。
「オジサンさぁ」
「……オジサン? 俺のことか?」
「そう、だってオジサンは俺の目の前のオジサン一人しかいないじゃん」
「く……」
「オジサン、聞いてる?」
「俺のことをオジサン言うな!」
「「「え?」」」
俺の目の前でオジサンが「オジサンと呼ぶな」と不思議なことを言っているなと不思議そうに見ているとオジサンの顔は見る見るうちに赤くなる。
俺達はなんでオジサンがここまで怒るのか不思議でしょうがなかったのだが、オジサンは何かをずっと呟いている。
「違う、俺はオジサンじゃない! ただ、
「「「えぇ~!」」」
オジサンの年齢が二十三歳と言うのにもビックリだが、それでオジサンじゃないと言い張るのはどうなのかと思うんだけどね。だって俺から見れば二十歳を超えればオジサンじゃないかと言えばオジサンは「ぐぬぬ」と言葉を詰まらせる。
「で、オジサンいいかな」
「ぐ……な、なんだ!」
「俺はカリナからあるモノを買って、その対価を払った。そして、そのモノに対して整備することも条件に大目にね。決してカリナの体目当てじゃないよ。それはそこにいるアオイを見て貰えば一目瞭然でしょ」
「た、確かに……」
「なら」
「だが、世の中には
「「「はい?」」」
どうあってもこのオジサンはカリナの借金返済を邪魔するつもりだと言うのは分かってはいるんだけど、このまま放置してしまうのは悪手でしかない。もし、この場で借金を踏み倒して王都から出ようものなら直ぐに手配され追われることだろう。
もう、面倒だからカリナのことは忘れて出た方がいいかもと考えていると、そんな俺の考えが分かってしまったのか、カリナが俺を縋るように見ている。
「コータ、見捨てないよね?」
「もう、面倒だからここに置いて行くのがいいかもな」
「そんな……」
カリナが俺の腕を引っ張りながら、そんなことを言えば、その腕を離しながらアオイが面倒だと口にする。
そんな俺達のやり取りを見て、なんとか気を取り直したオジサンが笑顔を取り戻す。もう少しで俺達がカリナを手放すと考えているのかも知れない。
「あ~もう、面倒くさい」
「そうだろ。なら、カリナを置いて帰るがいい」
「いいや、こうする。『
「は?」
俺は闇魔法をオジサンに向け放つと「借用書を持って来て」と頼む。
「ば、バカな。なぜ俺が……ん? おい、待て! 俺に何をした! なんだ……これは」
「ナルハヤでお願いね」
「……おい!」
オジサンは俺の魔法に抵抗しているからか糸の切れた操り人形みたいな動きで部屋から出ると一枚の紙を手に持って戻って来た。
そして、その紙を俺達の前に置くと、正に糸が切れた操り人形の様にグッタリと座る。魔法に対し必死に抵抗するあまり普段使っていない筋肉まで使って疲労困憊なのだろう。
「これで間違いない?」
「ええ、私の借用書に違いないけど……」
「けど?」
「金額が違う! 私が借りたのは金貨十枚のハズ。なのに、この借用書には金貨百枚と書かれている」
「ホントに?」
「本当よ!」
「ってことだけど、何か言いたいことはある?」
「……」
「話せないのか、喋らないのか分からないけど……『
「ま、また……何をした!」
「さ、話してもらうよ」
「な、何をだ!」
「そりゃ、全部だよ。何もかも全部、包み隠さずにね」
「や、止めろ!」
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