第32話 欲しいのはソレじゃない

「どうか、お願いします!」

「ちょっと、止めてよ。俺がさせているみたいじゃない」

「では、話を聞いてもらえますよね」

「え~」

「お願いします!」

「コータ、俺は構わないぞ」

『ワフッ!』

「はぁ~」


 アオイにタロもこの人の話を聞くのもいい暇潰しと思っているのか、意外とノリ気だ。二人が構わないのであれば俺一人が反対してもムリだろうと嘆息して受け入れることにした。


「で、話を聞くのはいいけどさ。ホントに馬車の話なんだよね」

「おぉ! 聞いてくれるんだね。じゃ、早速「だから、待ってよ」……まだ、何か?」

「何かじゃないでしょ。俺の質問は?」

「あ~そのこと。それなら、見てもらえば分かるから。取り敢えずは一度見てみてよ。ね、お願いだから」

「分かったよ。で、近くなの? 遠いの?」

「……」

「……遠いんだ」

「いや、でも……ホンのちょっとだから。帰りはちゃんと送るからさ」

「分かったよ。じゃあ、早いとこ行って、ちゃっちゃとすませちゃおう」

「ありがとう! さあ、こっちだよ」


 お兄さんにしては線が細い人だなと思いながら、その後を着いて行き案内されたのは倉庫だった。


「あのさ、馬車を見せるって話だったけど、馬はいないの?」

「馬はいない……と、いうかいらないから。さ、入って!」

「ほう、どうやら面白くなりそうだな」

「アオイ、面白がってないで。っていうか、アオイは何か思い当たることでもあるの?」

「ああ、あるぞ。コータが分からないのが不思議なくらいだぞ」

「え? 俺?」

「そうだ。まあ、見せてもらえば分かるさ。さあ、その自慢する品を見せてもらおうじゃないか」


 アオイは何か気付いたことがあるらしいが、アオイからすれば俺が分からないのが不思議だと言う。アオイが気付き、俺が分からないのが不思議なモノが何かと思いながら、倉庫の中に入れば、そこには見た目が馬車なモノが置いてあったが前に馬を繋ぐ道具がない。


「じゃじゃ~ん! どう、どうよ?」

「どうって、馬車じゃないの?」

「チッチッチッ、少年。君は何も分かっていないようだね」

「コータ、俺の知識の元はお前だぞ」

「え? あ! そうか! そういうことか!」

「え~まさか、分かっちゃったの」


 アオイが言う『知識の元が俺』と言ったのは、アオイが俺の頭の中を覗いて言葉やその他諸々を吸収したことを言っているのだろう。そして、そのアオイが俺の知識の中にあるモノが今、目の前にあるモノだと言う。


 そこまでヒントを出されれば、鈍感な俺でも予測が着くモノだ。見た目が馬車なのに馬を必要としないモノ。それは『自動車』だろうと。


「でも、動力はなんなんだ?」

「あ~もうそこまで分かったのか。普通はさ、馬は? とか、どうやって? とか、もっと驚いたり質問したりするもんじゃないの。それなのに君達は見た目で予測を立てた上に動力がなんだと来たよ」

「いいから、質問に答えなよ」

「はいはい……分かりました。じゃあ、こっちに来て」


 お兄さんは余りにも驚かない俺達にガックリしながらも自ら制作したという車について説明する。


「動力を説明する前に「そういうのはいいから」……ホントに?」

「ああ、さしずめそれがハンドルで、アクセルにブレーキだろ。シフトノブがないってことは変速機構はないみたいだな」

「えっと、君は何を言っているのかな?」

「あ~そっか。言葉が上手く変換されないか。えっと、これが操舵用で、こっちが速度を上げる為のペダルで、こっちが逆に速度を緩めたり止めるペダルでしょ」

「……」

「あれ? 違った?」

「……合ってるよ。だけど、なんで? これは俺が初めて作ったものだと思っていたのに……」

「ああ、それはそうだと思うよ」

「え? じゃあ、なんで君は知っているの?」

「ん~知識として知ってはいるけど、作ってはいない。これで答えにはなるかな」

『ガシッ!』

「え?」

「素晴らしい!」


 お兄さんは俺の肩を両手でしっかりと掴むとそう言って抱きしめる。


「あ、いい匂い……って、え? それに柔らかい……え? ちょっと待って! お兄さんじゃない!」

「え? 今、気付いたの?」

「だって……って言ってたし」

「そこのお姉さんもね」

「あ……うん、そうだね。でも、なんで?」

「なんで、男の振りをしているかってこと?」

「そう」

「えっとね……」


 お兄さん、改めお姉さんは職人として雇って貰うには女と言うだけで舐められてしまうので、それならと男の振りをして生活してきたという。


 まあ、そこまでならよくある話だ。じゃあ、なんで俺達に馬車の話をして来て、あんなにしつこく頼み込んでいたのかということが気になったのでついでに聞いてみた。


「それは凄く簡単な話さ。さっき、動力の話をしただろ。その動力に必要なのが魔力で。そっちのお姉さんからもの凄い量の魔力を感じ取ったから、ここで逃がしたら後がないと思ってさ」

「あ~」


 俺はアオイを見て合点がいく。確かにアオイの魔力量は相当なものだろう。いくら抑えても抑えきれない程に。


 でも、それだけであんなに必死になるのかと、もう少し突っ込んだ質問をすれば、動力に使用している魔力がお姉さんだけだとすぐに枯渇してしまう程に燃費が悪い為に試験走行すらまともに出来ないらしい。


 そして、この車の制作の為に作った借金が明後日には返済期限を迎えるらしい。だから、なんとしてもお金が必要だったが、今のままでは絶対に売ることは出来ないし、かと言って試験走行をすることも出来ずに途方に暮れていたところに俺達が通りかかり、これはチャンスと必死だったらしい。


「話は分かったよ。でも、問題だらけだね」

「そうなんだよねぇ。どうすればいいと思う?」

「じゃあ、俺からの提案を言うよ」

「分かった。それを買ってくれるなら、この体を好きにしていい!」

「ん、遠慮します」

「え? 逡巡すらしないの? これでも少しは自負があるんだけど……」

「コータは大きいのが好きだからな」

「あ……」

「アオイ! 違うからね! 確かにそうだけど、違うからね!」

「二回も言われた……」

「あ~もう。だから、別にお姉さんの体をどうこうはしないから。そんなのは必要ないから」

「そんなの……」

「もう、いいから聞いて!」

「……はい」


 借金を返済する為に車を買ってくれるのなら、お姉さんの体を好きにしてもいいと言われたけど、俺はには興味がないと無下に断り、提案を続ける。


「あのね、もし俺がお金を出したとしてもコレを持って行ったら、また一から作るのに時間が掛かるし、また借金をしないと作れないでしょ」

「ぐっ……」

「だからね、お姉さんもコレと一緒に俺達の旅に着いて来ない?」

「……それは俺を貰ってくれるということか?」

「なんか、微妙にニュアンスが違うんだけど?」

「そうか。面倒を見てくれるのなら一緒の意味じゃないの?」

「いや、重いから」

「もう、で……どうすればいいの?」

「それはね……」


 俺からの提案は動力として魔力が必要なら、アオイに俺にタロもいるから何も心配することはないし、車に関しては俺達が持っている知識を役に立てることが出来るだろう。だけど、その為には俺達と一緒に居なければならないため、一緒に旅をしないかと提案してみた。


「確かに。君の提案はとても素晴らしいものだね。うん、分かったよ。よろしく!」

「うん、俺はコータ。よろしくね」

「アオイだ。よろしく」

『タロだよ』

「コータに、アオイに、タロね……え? タロ?」

『うん、タロだよ。お姉さんは?』

「え……えっと、カリナです」

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