第29話 どっちもダメ

「ふはは、賢しいとは思っていたが、そうかそうか。政にもそれなりに知識はあるようだの」

「……」


 ちょっとだけ思ったことを言っただけなのに王はニヤリと笑い、話しかけてくるが下手に答えるのは悪手と思い口を閉じる。


「まあよい。今さら其方が口を閉じようと何も変わらぬ。そこでコータ殿に問いたいのだが」

「……俺が答えられることならね」

「ふふふ、なにも難しいことではない。ヘリオとマリオ……どちらを選んだ方がよいかな」

「陛下! それは、どういう意味ですか!」

「父上! 何を言っているのですか!」

「お前達は少し黙っておれ。余はコータ殿と話しているのだ」

「しかし「黙れ!」……はい」


 王が俺に暗にどころか、そのものズバリとどっちが次代の王として相応しいのかと聞いてくる。そして、俺の方を見て「逃げずに答えろ」とでも言っているかのように俺の顔を真っ直ぐに見据えている。


「はぁ~なんで俺に聞く? そいつを王太子として選んだのだろ。なら、それが答えじゃないのか」

「ああ、そうだな。確かにヘリオを次代の王とするべく王太子に選んだ。いや、選ばずにはいられなかったと言った方が正直な気持ちだろうな」


 ヘリオは父であり王である言葉を聞き愕然とする。なぜならばヘリオを選んだと、そうとしか聞こえないのだから当然だろう。


 王と宰相はヘリオの様子を黙って見ていた。もしここでヘリオが子供の様に駄々をこね騒ぎ立てるだけであれば、容赦なく資格無しと判断し切り捨てていただろうが、後一歩のところで踏みとどまっているのは誰の目から見ても分かる。


 そしてマリオはと言えば、面倒なことは兄であるヘリオに任せ、自分は冒険者として、この城から出ようとしていた計画が破綻しかかっていることに面白くなさそうな顔をしている。


 だが、そうしている間にも王は玉座の肘掛けを『コツ……コツ……』と人差し指で鳴らしながら俺が答えるのをジッと待っている


「答える前に一つ聞いてもいいか?」

「なんだ。言ってみよ」

「俺が答えたことで、俺に何かするつもりがあるなら、俺は答えないし、ここを瓦礫にしてでも出て行くが、いいよな?」

「ふふふ、それは怖いな」

「冗談だと思うか?」

「それこそまさかであろう。コータ殿に手を出すようなマネはせぬ。もし、する者がいれば、その場で切り捨てよう」

『肯定します』

「……」


 王の言葉に嘘があれば、すぐにでもここを出ようと思ったが、いつもの様にメッセージが流れたので、取り敢えずは信用することにした。


「分かったよ。じゃあ、俺の考えを話す。いいか、二度は言わないぞ」

「ああ、それでよい。宰相、コータ殿が言ったことを控えよ」

「ハッ」


 宰相の隣にいる男が何やら準備を始め、それが終わると宰相に頷くのを確かめてから俺はゆっくりと話し出す。


「先ずヘリオだが、こいつは見ての通りに直ぐに激情する考えなしのバカに思える」

「ぐぬぬ……」


 ヘリオは俺にバカと言われ何か言い返そうとするが、ここでそれをしてしまうと俺が言ったことを認めることにもなるため、それも適わず地団駄を踏むことしか出来ない。


「そして、弟のマリオはもっとだめだ」

「ん?」


 兄もダメ、弟もダメと言った所で王が不思議そうに俺を見る。王としてはマリオに微かな望みを掛けていたのかもしれない。だが、俺が見た感じでは弟の方が性質たちが悪いと感じるのだから仕方がない。


「理由を聞いても?」

「ああ、話すよ。まず、マリオは『自分が楽しければそれが一番』だという快楽主義者に思える。今も、面倒なことは兄であるヘリオにすべてを押し付け、自分は王弟という立場で自由気ままに暮らしたいという本音がすすけて見える。だろ?」

『肯定します』


 いつものメッセージに俺の考えは合っていたようだと安堵するが、王としては複雑な気持ちだろう。だが、まだ話は途中なのだから、最後まで聞いて欲しいのだけどマリオが許してくれなかった。


「それがどうした? 王の政の邪魔をしないのだから別にいいだろ」

「マリオ! お前は何を言っているのだ!」

「父上。俺はずっと兄のスペアとして育ってきました」

「……何を言いたい?」

「分かりませんか? 俺が何かをしようとすれば、体を気遣うフリをして、全てが止められた。スペアが死ぬことは避けないとダメだから。そんな理由で俺はしたいことも出来ずに窮屈で退屈な生活を強いられてきた。だから、俺は楽しさを求めるだけだ。それがそんなに悪いことなのか?」

「マリオ……お前はずっとそんな思いで生きてきたのか」

「そうだよ。兄さんには兄さんの苦しみがあるかも知れないけど、俺にも俺にしか分からない苦しみがあるんだよ! それも兄さんが結婚したことで、スペアとしての役割は終わるハズだったのに肝心の子供がいつまでも出来ないものだから、俺は今もスペア扱いだよ!」


 マリオの告白に王とヘリオはマリオをジッと見詰める。


「なあ、もういいだろ。俺も普通の生活がしたいんだよ。なあ、自由に生きているお前なら俺のことを分かってくれるだろ。なあ、なんとか言えよ!」

「そんなの俺の知ったことじゃないから。勝手に巻き込まないでくれるかな」

「へ?」

「それに話はまだ終わってないよ。続けてもいいかな?」

「「「はい?」」」

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